中国特許判例紹介:中国における分割出願の時期的要件(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における分割出願の時期的要件(第2回)

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中国特許判例紹介:中国における分割出願の時期的要件(第2回)

~分割可能時期を巡り争われた事件~

河野特許事務所 2013年1月31日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

                        フェアチャイルド・セミコンダクター有限公司

                                                         原告

                                     v.

                                国家知識産権局

                                                         被告

 

3.中級人民法院での争点

争点:第2次分割出願ができる時期はいつまでか?

 分割出願に関しては専利法第42条に以下のとおり規定されている。

 

第42条

 一件の特許出願に二つ以上の発明、実用新型または外観設計が含まれる場合、出願人は本細則第54条第1項に規定した期間の満了前に、国務院特許行政部門に分割出願をすることができる。ただし、特許出願がすでに拒絶され、取り下げられ又は取り下げたとみなされた場合は、分割出願をすることはできない。

 

また、実施細則第54条第1項は以下のとおり規定している。

 

実施細則第54条第1項

 国務院特許行政部門が特許権を付与する旨通知した後、出願人は通知を受領した日から2ヶ月以内に登録手続をしなければならない。

 

 このように専利法及び実施細則では特許を付与する旨の通知から2ヵ月としか記載されておらず、親出願から2ヵ月の間に限って分割出願が可能であるのか、あるいは、それ以降の第1次、第2次の分割出願に対する特許付与通知から2ヵ月以内も分割出願が可能であるかは明確に規定されていない[1]。

 

 前者に限るとすれば参考図3に示すように分割出願が可能な時期は親出願特許付与通知から2ヵ月内に限られる。一方、後者も含むとすれば、さらに第1次分割出願特許付与通知から2ヵ月内の期間も分割出願が可能である。本事件では、分割出願が可能な時期について争われた。

 

 

参考図3 出願の経緯を示す説明図

 

 

4.中級人民法院の判断

争点:権利者と、社会公衆双方の利益バランスを考慮すれば、分割出願は、親出願の特許付与通知から2ヵ月に限られる。

 中級人民法院は、分割出願を設けた立法趣旨について出願人側及び社会公衆側双方の観点から検討した。出願人側からすれば,分割出願は、新たな請求項を提出する機会が付与されるものである。一方、社会公衆側からすれば,分割出願は原出願の特許権保護範囲に属さない内容を、新たな請求項に転化されるか,或いは、原特許の保護範囲をさらに一歩限定した新たな請求項が提出されるものである。

 

 中級人民法院は、分割出願を行うことができる時期は、出願人の利益と社会公衆の利益との間のバランスを取らなければならないと述べた。その上で、第2次分割出願の提出期限を第1次分割出願の特許付与通知日から起算するとすれば、出願人に無制限に分割出願を提出することを許すこととなり、社会公衆は原出願の公開範囲において特許の保護範囲を判断する術が無く、関連する権利を始終不確定な状態に置くこととなると述べた。そして、これは明らかに専利法の立法趣旨に反するとした。

 

 

5.結論

 中級人民法院は、第1次分割出願に係る特許の付与通知日から2月以内に提出した第2次分割出願を提出されていないものとみなすとした国家知識産権局の判断を支持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 第2次分割出願が可能な時期については、審査指南に規定されているのみであったが本事件により、人民法院によってもその規定が支持されたといえる。中国については日本と異なり、親出願が国家知識産権局に係属している間、及び、特許付与通知から2ヵ月を超えると、第1次分割出願が国家知識産権局に係属していようとも、もはや分割出願できなくなる点に注意すべきである。

 

 なお、第1次分割出願に単一性の欠陥があり、出願人が審査官の審査意見に基づき再度分割出願をする場合は、例外とされ第2次分割出願を行うことができる。すなわち、審査官の指摘に従い、単一性要件違反を回避するために第2次分割出願を行う場合、親出願が国家知識産権局に係属していなくとも、また、特許付与通知から2ヵ月を経過していたとしても、分割出願を行うことができる。

 

 分割出願については、国毎に分割可能時期が相違する点に注意すべきである。例えば、欧州では原則として第1回目の拒絶通知から24ヵ月以内に分割出願しなければならない(EPC規則第36条(1))[2]。

 

 

判決 2010年6月8日

                                                                            以上



[1] なお、法的拘束力を有するものではないが、審査指南には分割出願の時期的基準は親出願を元にする旨規定されている。

審査指南第1部分第1章5.1.1 出願人が分割出願した出願について更に分割出願を提出する場合、再度提出される分割出願の提出時間は、依然として原出願を基に審査する。再分割出願の出願日が上記の規定に合致しない場合、分割出願をすることができない。

[2]規則 36  欧州分割出願

(1) 出願人は,係属している先の欧州出願に関し,分割出願をすることができる。ただし,次を条件とする。

(a) 分割出願が,連絡がなされた最先の出願に関して,第 94 条(3)並びに規則 71(1)及び(2)又は規則 71(3)に基づく審査部の最初の連絡から 24 月の期限の満了前になされること,又は

(b) 分割出願が,先の出願が第 82 条の要件を満たさない旨審査部が異論を出した連絡から24 月の期限の満了前になされること。ただし,これは審査部が当該異論を初めて出した場合に限る。

 

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