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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
第21回 復審請求 (第3回)
河野特許事務所 2013年3月19日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 2013年1月号掲載)
コラム
中国職務発明条例案のポイント
中国国家知識産権局は職務発明に関する各種取り扱いを規定する職務発明条例案を公表した。現行専利法及び実施細則には既に職務発明に関する規定が存在するが(専利法第6条[1]等)、企業側と発明者側とのバランスが十分でないという問題があった。
そこで、発明者の権益保護に係る手続き及び実体内容を完全なものとし、職務発明の誕生と応用を奨励すべく職務発明条例案が制定された。現在職務発明条例案に対する意見募集が行われており、2012年12月3日まで国家知識産権局条法司に意見を提出することができる。
1.本条例案の対象
本条例案の対象となる発明は、特許権、植物新品種権、集成回路配布図設計専有権または技術秘密に係るものである(条例案第4条)。また職務発明の対象として発明特許の他、実用新型特許及び外観設計特許も含まれる。
2.発明報告制度の導入
(1)概要
今回の条例案では、企業に発明報告制度を導入するよう義務づけている(条例案第6条第2項)。
条例案第6条第2項
研究開発に従事する機関または組織は、発明報告制度を確立し、または発明者と約定して発明完成後の機関または組織と発明者間との権利、義務及び責任を明確にし、発明に係る権益帰属を適時に確定しなければならない。
(2)報告時期
組織が別途規定し、又は発明者と別途約定する場合を除き、発明者は、組織の業務に関わる発明を完成した場合、発明完成の日より2ヶ月以内に当該発明を組織に報告しなければならない(条例案第10条)。
(3)報告内容
報告書には、以下の事項を列記しなければならない(条例案第11条)。
(i)発明者の氏名
(ii)発明の名称と内容
(iii)発明が職務発明それとも非職務発明であるか、及びその理由
(iv)発明者が説明する必要があると認めるその他の事項
(4)非職務発明であるとの報告の場合
発明者がその報告した発明につき非職務発明であると主張する場合、機関又は組織は、発明報告書を受領した日より2ヶ月以内に書面による回答を発行しなければならない(条例案第12条)。
ここで、機関又は組織が期限内に回答しなかった場合、当該発明は非職務発明であると認めたものとみなされるため、注意が必要である。
(5)機関または組織が反論した場合
機関または組織が職務発明であると主張する反論を行い、かつ、発明者が反対意見を2ヵ月以内に提出した場合、双方は、条例案第42条に基づく紛争解決手段をとることができる(条例案第13条)。すなわち、県級の人民政府知的財産権主管部門に調停を要請するか、裁判所に対し起訴するか、または仲裁を申し立てることができる。
なお、発明者が期間内に反対意見を提出しなかった場合、当該発明は職務発明とみなされる。
(6)出願手続期限
発明者が職務発明を報告した場合、機関又は組織は、報告日より6ヶ月以内に、国内で知的財産権を出願し、技術秘密として保護し、または、開示するか否かを決め、かつかかる決定を書面にて発明者に通知しなければならない(条例第14条)。
6月以内に発明者の通知を行わなかった場合、発明者は、書面で組織に対し回答を催告することができる。発明者の書面による催告から1ヶ月以内に組織より依然として回答がない場合、組織が当該発明を技術秘密として保護しているものとみなし、発明者は、本条例第25条(技術秘密に基づく補償金の支払い)の規定に基づき、補償を取得する権利を有する。
なお、後に組織が国内で当該発明に係る知的財産権を出願し、かつ登録された場合、発明者は、本条例に規定の奨励と報酬を取得する権利を有する。
(7)出願の取りやめまたは権利の放棄
機関または組織は、職務発明に係る知的財産権の出願手続きを停止し、または職務発明に係る知的財産権を放棄する予定の場合、1ヶ月前までに発明者に通知しなければならない(条例案第16条)。
ここで、発明者は、機関又は組織との間で当該職務発明に係る知的財産権を無償にて取得することについて、協議することができる。機関又は組織は、権利移転の手続きに積極的に協力しなければならない。協議が不調に終わった場合、本条例第42条の規定に基づく紛争解決手段をとることができる。
発明者が関連権利を無償にて取得した場合、機関または組織は、当該職務発明またはその他の知的財産権に係る権利を無料で実施する権利を有する。
(8)注意点
条例案に規定された発明報告制度は企業と発明者側との間で契約があれば、契約が優先される。従って、本条例案に沿った形で事前に発明報告制度に関する取り決めを行っておいた方が良い。参考図1は発明報告制度の流れを示すフローチャートである。
[1]第6条
所属機関または組織(単位)の任務を遂行しまたは主として所属機関または組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造は職務発明とする。職務発明の特許出願する権利はその機関または組織に帰属し、出願が許可された後は、その機関または組織が特許権者となる。
非職務発明創造を特許出願する権利は発明者又は創作者に帰属し、出願が許可された後は、発明者又は創作者が特許権者となる。
所属機関又は組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造について、機関又は組織と発明者又は創作者との間に契約があり、特許出願する権利及び特許権の帰属について約定されているときは、その約定に従う。
(第4回へ続く)
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