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村田 英幸
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同族会社の内部紛争

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【コラム】同族会社の内部紛争

 同族会社の内部紛争が,裁判上争われる場合には,様々なものがあります。

 具体的には,株主権確認の訴え,株主総会決議の不存在または取消しの訴え,取締役会決議の不存在または無効確認の訴え,取締役の地位不存在確認の訴え,会社法423条1項に基づく損害賠償請求,株主代表訴訟,役員の報酬・退職慰労金請求などの形態をとることが多いでしょう。

 しかし,どのような請求の形態をとっていたとしても,その背景には,経済的利害をめぐる会社支配権の対立があることがほとんどです。しかも,そのような対立は感情的なあつれきが大きく,会社訴訟のほかに関連訴訟が係属していることも少なくありません。

 同族会社における訴訟の形態として典型的な形態の一つが,株主総会決議の不存在確認または取消しの訴え(会社法830条1項,会社法831条)です。これは,多くの同族会社では,会社法が要求している株主総会を実際に開催していることが少ないためです。株主総会を一応,開催している場合であっても,その招集手続に瑕疵があれば,同族会社では個々の株主の持ち株比率が比較的高いので,その瑕疵は軽微なものとはいえず,株主総会決議の不存在確認または取消しの請求が認容される可能性は高いといえます。

 しかしながら,株主総会の決議が覆されたとしても,支配株主としては,同一内容の決議をやり直せばよいだけであり,実質的な紛争の解決にならないことも少なくありません。また,株主総会決議の不存在または取消しの訴えの対象となる議題としては,取締役選任決議であることが多いですが,この場合も,同族会社においては,事業承継前であれば,当該選任決議以前から同じ取締役が選任され続けていることが多いですから,仮に取り消すことができたとしても,新たに選任された取締役が就任するまでは,なお取締役の権利義務を有しています(会社法346条1項)から根本的な解決になることは多くないといえます。実際には,支配株主との株式買取交渉を有利に進めるための手段として利用することが多いようです。

 これに対して,株主代表訴訟は,株主総会決議の効力を争う訴訟と同様,非公開会社においては,支配株主との株式買取交渉が関係する場合もあり得ますが,さらに,少数株主にとり,支配株主に対するより実質的な対抗手段となります。すなわち,株主代表訴訟によって,閉鎖会社の株主間の経済的利害対立の大きな問題である支配株主の利益相反行為を是正することが可能となります。また,株主代表訴訟では,損害賠償金が原告株主に支払われるのではなく,会社に対して取締役が損害賠償の支払いを行う特質があります。同族会社においては,会社財産が比較的少なく,少数株主の持ち株比率も比較的大きいため,会社に対する損害賠償金の支払いが直接,原告株主の株式の経済的価値を高めることにつながります。ただし,判例の傾向をみると,利益相反が存在しない限り,経営者の経営判断を尊重する,あるいは,支配株主と少数株主の対立があるだけでは裁判所は介入を差し控える傾向があるといえ,利益相反的要素がない株主代表訴訟に対する判決をみると,請求が認められたものはないとの評価もあり(小林秀之・近藤光男編『新版 株主代表訴訟体系』70頁),利益相反行為がない限り,株主代表訴訟も万能の武器とはいえなさそうです。 

 株式の経済的価値の下落につき,取締役に対して会社法429条1項に基づき損害賠償請求をすることはできるでしょうか。

 この点,株主の被る間接損害の救済は,株主代表訴訟によるべきであるから,株主を第三者とする会社法429条1項に基づく損害賠償請求を否定するのが多数の立場です(東京地判平成8・6・20判時1578号131頁,東京高判平成17・1・18金判1209号10頁)。

しかし,東京高判平成17・1・18金判1209号10頁は,「株式が公開されていない閉鎖会社においては,株式を処分することは必ずしも容易ではなく,違法行為をした取締役と支配株主が同一ないし一体であるような場合には,実質上株主代表訴訟の遂行や勝訴判決の履行が困難であるなどその救済が期待できない場合も想定し得るから,このような場合には,特段の事情があるものとして」株主は取締役に対し直接損害賠償請求することもできると判示しています。

学説上も,この裁判例と同様の立場に立ち,取締役と支配株主とが一体である閉鎖会社の場合,株主の被る間接損害につき,会社法429条1項の損害賠償請求を認める余地はあると解すべきであるとする有力説があります(江頭憲治郎『株式会社法第3版』466頁)。

 

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