なぜ山の宿でマグロが出るのか? - 地域活性化・町おこし - 専門家プロファイル

井門 隆夫
株式会社井門観光研究所 代表取締役
東京都
マーケティングプランナー

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対象:イベント・地域活性

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なぜ山の宿でマグロが出るのか?

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旅館の不思議

旅館には多くの不思議がある。

チップは要るのか。なぜ土曜日は高くなるのか。

そのひとつに、「なぜ山の宿でマグロが出るのか」ということをよく言われる。

一方で、旅館側は特段不思議に感じていない。それは、なぜか。

その理由を解説しよう。


山でマグロが出る理由

「山まで来てマグロを食べたくないよね」。

そうおっしゃるのは、実は、主として都会在住者である。

しかし、マグロは、都会在住者向けではない。それが、山でマグロが出る理由その1だ。

では、誰に向けて出しているのか。

それは、地元客だ。

実は、旅館は都会から来た観光客だけでは成り立たない。

特に、山に雪が積もる冬の閑散期や、都会の皆さんが仕事をしている平日。

そうした日の需要を支えているのは、地元客なのだ。

都会の観光客が宿泊するのはせいぜい年間100日。

一年を通じては、地元客のほうが多いのだ。

そうした地元客が、新鮮な山菜やキノコなど、山の幸を欲しがるかというと、そうならない。

そんなものは家で十分食べている。

そこで、マグロのような海の魚は歓迎されるというゆえんなのだ。


大量仕入・大量販売

しかし、それだけではない。

マグロ、イカ、ホタテ、甘エビ。

旅館のお造りでよく登場する魚介類には「冷凍保存が効く」という共通項がある。

アジ、サバ、カツオ。

そんな「足の早い」、冷凍保存には向かない魚介はあまり登場しない。

旅館の宿泊客数は読みにくい。

そこで、まとめて仕入れて保存できる魚介が好まれるという理由がある。

しかし、そのさらに深いところには「冷凍保存できることで、お客さんが大量に宿泊された時にも、等しく全員に同じものを提供できる」という「大量販売」発想がある。

こちらのお客様には揚がったばかりのアジ、こちらのお客様には新鮮なカツオ、では通じないのだ。

特に、旅行会社の商品では、厳しく査定される。

全員に同じ物を提供するというのが暗黙の諒解になっている。

ついでに言えば、旅行会社の商品パンフレットの写真に使う素材は「赤いもの」が目立つので好まれる。

エビ、カニ、牛肉・・・、そしてマグロ。

日本人は「赤モノ」好き。 こうした背景もあり、マグロは重宝されるのだ。


赤から青へ

しかし、山でマグロを出している宿がどうなっているか。

残念ながら、そうした宿は一軒、二軒と姿を消している。

海の幸が好きな地元客の人口はどんどん減っている。

旅行会社のパンフレットで旅館を買う客も減っている。

今はインターネットの時代だ。

さらに、日本人の舌も肥え、食に関する知識も増している。

残念ながら、これからは、新鮮な近海の魚介を提供する宿のほうが優勢だ。

シマアジ、マサバ、岩ガキ、黒あわび・・・。

季節性があり、水揚げも不安定。さらに、冷凍保存が効かない「青モノ」がこれからの主役。

その点、旅館には、自ら客足をコントロールできるマーケティングノウハウが求められている。


よい宿の食膳は「青」く、厳しい宿の食膳は「赤」い。


旅館を見分ける術を、今後もこのコラムでご紹介していこう。


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