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対象:特許・商標・著作権
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米国特許判例紹介: 同一文言に対する権利範囲解釈の相違 (第2回)
~同一文言に対し異なる解釈が成立するか否か~
河野特許事務所 2012年7月10日 執筆者:弁理士 河野 英仁
Digital-Vending Services International, LLC.
Plaintiff-Appellant,
v.
The University of Phoenix, Inc. et al.,
Defendants-Appellees.
4.CAFCの判断
結論:他のクレームについてまで限定解釈した地裁の判断は誤りである
(1)登録サーバの文言解釈
CAFCは、アーキテクチャークレームでの限定事項を、方法クレームについてまで同様に適用した地裁の判断は誤りと結論づけた。
CAFCは、
「「登録サーバ」はその他信じられる理由がなければ、全てのクレームを通じて同じ意味をもつと推測される。当該推測は、文言がクレームの異なる場所にて異なる意味を持つということが明細書及び審査経過から明らかでない限り、クレームの異なる場所に現れた同じ文言が同じ意味を有するというものである。」
との原則を述べた上で、573特許における登録サーバについて検討を加えた。
CAFCは文言解釈の際に用いられるフィリップス大法廷判決[1]を挙げ、クレームの周辺の文言を考慮して、文言解釈する必要性があるとした。例えば、クレームが「スチール調節板(steel baffles)」に言及している場合、文言「調節板」は本質的にスチール製ではないということを強く示唆しているといえる。
本事件においても、いくつかのクレームにおける限定「登録サーバはアーキテクチャーにより管理されるコンテンツを含まないことを特徴とする」が付加されているということは、文言「登録サーバ」は、これ単独において、管理コンテンツを含まないサーバを本質的に意味するものではない、すなわち管理コンテンツを含む可能性があるということを強く示唆している。
CAFCは続いて明細書の記載を検討した。明細書の一部には、登録サーバは管理コンテンツを含まないということが記載されている。しかしながら、573特許は、コンテンツを保護する方法クレームと、コンテンツを保護するコンピュータアーキテクチャーとの2つが含まれる。
発明者は、アーキテクチャークレームに対応する説明として、登録サーバを、管理コンテンツを含まないようにし続ける要件を実施例に記載している。
例えば、参考図1に示すように、実施例の「アーキテクチャー概説」部分において、
「各登録サーバ108はアーキテクチャー100により管理されるコースウェア(教育ソフトウェア:管理コンテンツの一つ)または他の配信可能なコンテンツを含まない」、
「コンテンツサーバ110及び登録サーバ108は、同一コンピュータ上に存在しない、なぜなら登録サーバ108がコースウェアを含まないとする要件に反するからである」、
「登録サーバ108とは異なり、コンテンツサーバ110はコースウェア及び/または他の管理コンテンツ400を含む」と記載されている。
一方、方法クレームに対応する説明中には、上述した要件が言及されていない。参考図2及び参考図3は方法クレームに対応する実施例中のフローチャートである。
参考図2及び参考図3に示すように、実施例中には、方法クレームにおいて使用された「登録サーバ」が管理コンテンツを含むべきではないとは記載されていない。
以上のことから、CAFCはアーキテクチャークレームにおける「登録サーバ」についての限定解釈を、方法クレームにおける「登録サーバ」についても同様に適用した地裁の解釈を誤りと判示した。
(2)権利侵害の判断
被告のApply Webコンピュータ(以下、イ号製品)は以下のデジタルコンテンツを含んでいない。
被告のロゴ、授業のカタログ、財務上のオプションガイド、学生のプライバシーに関する様々な文書・授業料・学資援助
これらのコンテンツはユーザがアクセスする際に制限されていることから管理コンテンツとなる。地裁は、アーキテクチャークレーム及び方法クレームにおける「登録サーバ」は共に、管理コンテンツを含まないと解釈したことから、イ号製品は非侵害であると判断した。
しかしながら、CAFCの解釈の元では、方法クレームについては「登録サーバ」が、管理コンテンツを含んでいることは条件とされていない。以上のことから、方法クレームについて特許権侵害が成立しないとした地裁の判決を無効とした。
5.結論
CAFCは、限定解釈をなし、特許権非侵害と判断した地裁の判決を無効とした。
6.コメント
特許権侵害訴訟における最大の争点は文言解釈である。クレームには装置、方法、システム、記録媒体等、複数のカテゴリーが存在する。一般的には各カテゴリーにおける文言は同一の意味内容において記載することが多い。
しかしながら、各独立クレームはそれぞれ別々に解釈され、本事件の如く独立クレーム間でその解釈が異なることがある。権利侵害分析を行う際には、カテゴリーが異なるクレーム間でも、文言解釈が相違する可能性があることを念頭に置き、慎重に分析する必要があるといえる。
判決 2012年3月7日
以上
【関連事項】
判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。
http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/11-1216.pdf
[1] Phillips v. AWH Corp., 415 F.3d 1303, 1314 (Fed. Cir. 2005) (en banc)
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