二十歳の誕生日の頃ですが自分へのプレゼントというほどのものではないのですが、何か記念に残るものをということでフランク作曲「ヴァイオリンソナタ」のCDを買いました。次の日、サックスの同級生が「須川展也さんのリサイタルのチケットを持っているのだけれどどうしても都合で行かれなくなった。誰か行きませんか?」とみんなに言っていたので私が譲っていただき、今は閉館されてしまったカザルスホールへと出かけました。
その当時、サキソフォン奏者の須川展也さんはいくつものソロコンクールで優勝し、東京佼成ウインドオーケストラでも大活躍され、クラシック界の超新星として大注目されていました。なのでチケットを手に入れるというのは大変な状態。当日のカザルスホールには業界人がたくさんおられました。
プログラムはミヨー作曲「スカラムーシュ」から始まり、メインプロはフランクの「ヴァイオリンソナタ」を、それも原調で! (ちなみにサキソフォンのリサイタルはアルトサックスを中心に演奏されます)
その美しく柔らかな音色と音楽性に圧倒されました。特にフランクは、まさか自分がCDを買った直後に須川さんの演奏で聴けた幸福感でいっぱいでした。
しかし幸福感に浸っていた時間は御茶ノ水駅まで歩いている時間だけでした。帰りの電車のなかでは自分が勉強してきた音楽の小ささ・浅さ・無力感を痛感し「このままでいいのか」という思いと「もっと勉強を続けたい」という気持ちになり、研究科への進学に進路を変えることを決意しました。短大を卒業したら長野に帰り社会にでるということを既に決めていたので、急遽次の日から両親にお願いし、専攻の先生方や教授の先生方にお願いし、研究科の入試と短大の卒業試験演奏とを平行して練習したり等、短い期間に多くの方々の力をお借りしようやく入学できた年でした。
今思えば音楽の勉強なんてものは学生のうちだけで終わるはずも無く、学校を出てからこそが大切であるし、学ぶということは常に、きっと命の火が消えるその日まで続けることが大切なんだと感じます。続けることが大事。もちろん若い年齢の時にある一定の期間にひとつのことを集中して勉強することは大変重要です。社会に出たり教える側になてしまうとついつい勉強するということが疎かになってしまいがちですが(私は陥ってしまった苦い過去あり)、二十歳の誕生日前後のあの大騒動を思い出すことで糧にしこれからも精進していきたいと思います。
このコラムの執筆専門家
- 成澤 利幸
- (長野県 / 音楽家、打楽器奏者)
- 成澤打楽器音楽教室
音楽はみんなのもの
楽器の演奏は専門家からのちょっとしたアドバイスによりスムーズに上達したり音楽の奥深さに触れることがあります。ドラムやマリンバ、いろいろな打楽器のレッスンを通して皆さんのお力になれればと思います。
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