事業承継とは - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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対象:事業再生と承継・M&A

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1 事業承継の意義

 事業承継とは、法律的にみれば、現経営者の有していた法律上の地位(経営権、財産権)を後継者に引き継がせることと定義することができます。

 事業承継の具体的な対策を採らなかった場合、どのようなことになるでしょうか。

まず、相続財産をめぐるトラブルが発生し、会社経営に混乱を来すことが考えられます。すなわち、後継者以外の相続人と後継者との間で、会社財産をめぐって争いが生じ、これが会社経営に影響を与えることとなります。

また、後継者が決定していない場合、後継者のポストをめぐって役員・従業員間で争いが生じ、その間に会社経営が傾くことも考えられます。

このように、事業承継は会社の継続的な発展の鍵となっているといえます。

中小企業における事業承継とは、現経営者にとって、最後に行うべき一大プロジェクトと据えられるべきです。

 

2 事業承継の3つの側面

中小企業の事業承継には、以下の3つの側面が見られます。

(1)オーナー株主変更としての側面

中小企業の経営者の多くは、自社株を保有し、オーナー株主となっています。後継者が従前の会社経営をそのまま引き継ぐためには、この自社株を引き継がなければなりません。

しかし、この自社株は財産権としての意味合いを持ち、現経営者の個人資産の一部となっているため、後継者以外の相続人との公平を考える必要があります。自社株の承継により、後継者以外の相続人の遺留分を侵害すれば、その相続人から遺留分減殺請求を受けることになります。

そこで、後継者は現経営者の生前に自ら分散している株式を買い取ったり、現経営者の側で、後継者の株式以外の株式に議決権の制限を加えたり、新株を発行することにより、後継者にオーナー株主としての立場を承継させます。

(2)事業用資産の所有者変更としての側面

中小企業においては、経営者の個人資産が事業用に用いられています。中小企業庁が実施したアンケート調査(「中小企業の事業承継の実態に関するアンケート調査平成18年10月」)によれば、中小企業経営者の個人資産に占める事業用資産の割合は、6割を超えます。現経営者の個人資産につき相続が開始し、事業用資産としての使用が継続できなくなれば、会社は経営を維持することができなくなる事態もありえます。

そこで、現経営者は会社経営に不可欠な個人資産を後継者に確実に承継させるか、または後継者を含む相続人間で当該個人資産の利用形態について合意を形成させておく必要があります。

(3)経営者変更としての側面

中小企業の場合、その経営者は、経営のトップとして経営力や技術力について、個人的な信用を得ていることが多いといえます。このことは、対外的な信用のみならず、対内的に会社の経営体制面においてもいえます。すなわち、中小企業の多くは、現経営者が目をかけて教育してきた幹部が一枚岩となり、現在の足並みの乱れにくい経営体制を築き上げているのです。

したがって、事業承継が行われるということは、会社内外において非常に大きな存在である経営者が交代するということであり、その影響は重大です。

 

第3 事業承継の方法

1 概要

 事業承継の方法は、「親族内承継」と「親族外承継」とに大別することができ、「親族外承継」はさらに「役員・従業員等への承継」と「M&A」に分けることができます。

 なお、本コラムでは、「親族内承継」、「役員・従業員等への承継」、「M&A」に続く、第4の方法として「信託」を掲げます。

また、本コラムでは、事業承継に際して企業の再生を図る場合や、結果として事業を廃業せざるを得ない場合も、広くは事業承継に含まれると考えます。

□本コラムの構成

 

2 親族内承継

(1)民法上の手法

事前の事業承継対策がないままに現経営者に相続が開始した場合、株式や事業用資産について、後継者を含む相続人間で遺産分割が行われ、その分配が行われることになります。

しかし、法定相続分に従って、あるいは、特別受益や寄与分を考慮して具体的相続分に従って遺産分割をしても、後継者に株式や事業用資産を集中させることができないことが多いでしょう。また、その分配方法をめぐって協議が難航した場合には、遺産分割が終了するまでの間に、経営に影響が生じます。

そこで、現経営者は、生前に株式や事業用資産を譲渡し(売買、贈与)、あるいは、遺贈、死因贈与により、これらを後継者に集中させる方法を考えることになります。ここで、その対策として一つの重要なポイントとなるものが、後継者以外の相続人の遺留分です。

この点に関して、中小企業円滑化法には、遺留分に関する民法の特例制度があります。

(2)会社法上の手法

 株式を後継者に集中させる方法として、民法上の手法の他に、会社法上の手法もあります。例えば、会社は定款に相続人等に対する株式の売渡請求を定めることにより、会社は強制的に相続人から株式を買い取ることができるようになります。

また、親族内承継において、一つの重要なポイントである遺留分の問題の対策として、例えば、議決権制限株式を活用することで、後継者以外の相続人の遺留分に配慮して、後継者に株式を集中させることができます。

さらに、現経営者が拒否権付種類株式を所有することにより、特定の重要事項に関して、会社経営を監視しつつ、後継者に事業を承継させることも可能となります。

ほかにも、会社の資産に含み益がある場合や業績が好調な場合、自社株の相続税評価額が高くなりますから、多額の相続税が課されることがあります。そこで、株式の評価方法や事業承継における株式の税金、株価対策といった問題についての検討が必要とされます。

(3)事業承継税制

従来、贈与時点で多額の贈与税負担が発生するため、これが、現経営者の生前での円滑な事業承継の障壁となっていました。しかし、平成15年に創設された相続時精算課税制度によって、贈与時点での贈与税の負担が軽減され、生前に事業承継対策を取り組むのが容易になりました。この制度は、所定の要件を充たした場合には、2500万円までの贈与税を非課税とし、相続時に持ち戻して課税するというものです。

また、平成21年度の税制改正において、株式についての納税猶予制度が創設されました。この制度は、所定の要件を充たした非上場株式を相続した場合に、その相続した株式等に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予するものです。これにより、一般的に換金性の乏しい非上場株式についての相続税の納付が猶予されますから、円滑な事業承継が可能となります。

 

3 親族外承継

(1)役員・従業員等への承継

 親族に適当な後継者がいない場合には、役員・従業員等といった社内の者に事業を承継させることが考えられます。役員・従業員等へ事業を承継する場合にも、親族内承継のときと同様に、後継者に株式を集中させる必要がありますが、後継者となるべき者が株式を取得するのに十分な資金を有しない場合があります。この場合にはいわゆるMBO(Management Buy Out)やEBO(Employee Buy Out)を検討するべきでしょう。近年、MBOやEBOは企業の再生の局面だけでなく事業承継の手法としても注目されています。

(2)M&A

役員・従業員等といった社内に適当な後継者がいない場合には、M&Aにより会社そのものを売却する等して社外の第三者に事業を承継させることが考えられます。M&Aの手法としては合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡等が挙げられます。M&Aの領域は複数の法律の規制が複雑に絡み合っていますから、M&Aの法律についてより詳しい情報を知りたい方は、拙書『M&Aの法務〔第2版〕』(中央経済社)もご参照ください。

 

4 その他の方法

(1)信託法上の手法

応用的な手法として、事業承継に信託法を利用することも考えられます。

これまで事業承継の方法として信託が利用されることはほとんどありませんでした。

しかし、平成19年9月30日に施行された改正信託法と、それに対応して信託税制が整備されたことにより、事業承継対策としての信託の利用法が注目されています。例えば、受益者連続型信託を利用すれば、次代の事業承継についてまで現経営者の意思を反映することができます。また、遺言代用信託を利用することで、遺言による場合に生じうる経営の空白域を生じさせることなく後継者に事業を承継させることができます。

(2)事業再生・廃業の手法

 会社の業績が好調であるならば、債務(負債)の処理について考える必要はありませんが、現実にはそのような会社ばかりではないでしょう。債務超過である場合には、事業承継を行うにあたって、債務をどのように処理するか問題となります。

 仮に、収益力のある事業があれば、債権者と交渉して債務を減免してもらい、あるいは返済条件を緩和してもらうことが考えられます。また、収益力ある事業を第三者に譲渡して事業の継続を図り、負債・赤字部門を抱えた会社を清算する手法(第二会社方式)もあります。

 現在および将来において収益を生み出す事業が考えにくく、親族内承継、親族外承継が困難で、もはや廃業せざるを得ない場合には、清算、破産の手段を採ることになります。

 

 

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