米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第3回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第3回)

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米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第3回)

~IDS提出基準の大幅見直しへ~

     Therasense, Inc., et al.,

               Plaintiffs Appellants,

           v.

  Becton, Dickinson and Company, et al.,

               Defendants- Appellees.

河野特許事務所 2011年9月2日 執筆者:弁理士  河野 英仁

3.CAFCでの争点

争点1:意図と重要性とのスライド制が妥当か否か

 不正行為が認められるためには、欺く「意図(intent)」及び隠した書類の「重要性materiality」の2つが所定の基準を満たす必要がある[1]。従来裁判所は、意図または重要性のいずれかに重きを置き、意図が甚だしい場合は、重要性の基準を引き下げ、逆に重要性に関し非常に重要と認定できる場合は、意図の基準を引き下げるというスライド制を採用していた。このスライド制による判断が、妥当か否かが争点となった。

 争点2:欺く意図はどのような場合に立証されるか

 欺く意図については、「出願人が文献を知っていたこと」、またはその「文献の重要性について知っていたはず」ということを被告が立証すれば足りるのか、また、原告が提出しなかったことについての善意の釈明を怠った場合には、欺く意図が認定されるのか否かが問題となった。

 争点3:重要性の判断基準はいかにあるべきか?

 どのような書類が重要であるか否かが問題となった。USPTOは規則1.56に提出すべき書類を規定しているが、当該規定自体が妥当であるのか否かが問題となった。

 争点4:原審の意図及び重要性の判断が適切であったか否か

 地裁及びCAFCの判断が、大法廷が判示した判断基準に適合するか否かが問題となった。

 

4.CAFC大法廷の判断

争点1:意図と重要性とのスライド制は採用すべきではない

 大法廷は、意図及び重要性についての基準を相互に変更するスライド制は妥当でないと判断した。以下では不正行為が判例上確立された経緯、スライド制の発展形態、及び弊害を説明する。

 

(1)不正行為の発展形態と汚れた手(Unclean Hands)の理論

 不正行為は衡平法に基づく防御手法であり、不正行為が認められた場合、特許権侵害を主張することができなくなる。不正行為の理論は、著しい不正行為を伴う特許権侵害訴訟を排除すべく、「汚れた手の理論」を採用した3つの最高裁判決から進化した。Keystone事件[2]、Hazel事件[3]及びPrecision事件[4]の3つの最高裁事件である。

 

(i)Keystone事件

 Keystone事件は証拠のでっち上げと隠蔽に関する。特許権者は出願前の第三者による先使用を知っていたにもかかわらず、PTOに通知していなかった。特許発行後、特許権者は、第三者の使用に関して、虚偽の宣誓供述書にサインさせるべく第三者に金銭を支払った。またこの事実を秘密にし続け、証拠を隠匿していた。

  このような状況にあるにもかかわらず、特許権者は他の2つの特許と共に、Byers等に特許権侵害訴訟を提起した。地裁は特許権者の主張を認め、特許権侵害と判断した。特許権者はさらに、同一の特許権を用いて、General Excavator等を提訴した。審理において、被告は、特許権者と第三者との不正手段を用いたやりとりに関する証拠を発見し提出した。最高裁は、汚れた手の理論により、特許権の主張を認めない判決を下した。

 

(ii)Hazel事件

 Hazel事件もKeystone事件と同様に証拠のでっち上げと隠蔽に関する。特許権者の弁護士は、USPTOの拒絶を克服すべく、当該発明が技術分野において顕著な進歩を有する旨の記事を書き、さらに、著名な証人William Clarke氏に、この記事を彼自身が作成し、業界雑誌に出版したということを、サインさせた。

 PTOはこの偽の記事を信じ、特許を認めた。特許権者は、Hazel-Atlas Glass Co. (“Hazel-Atlas”)に対し特許権侵害訴訟を提起した。地裁は非侵害と判断した。控訴審において、特許権者の代理人は、Clarke氏の記事を強調した。控訴審裁判所は地裁の判断を取り消し、特許は有効、侵害が成立すると判断した。

 特許権者は長期間Clarke氏の虚偽著作の情報を隠匿し、しかもClarke氏に何度も隠匿するようコンタクトし、訴訟完了後、特許権者はClarke氏に8千ドルを支払っていた。

 このような、悪事は後の訴訟[5]で露呈した。被告は、判決の無効を申し立てた。最高裁は、地裁が特許権者のPTOに対する詐欺を知っていたならば、特許権者の事件を汚れた手の法理により無効としていたであろうと述べた。最高裁は被告に対する判決を無効とした。

 

(iii)Precision事件

 Precision事件において、特許権者は偽証の証拠をPTOに隠匿し、虚偽により汚れた特許による特許権行使を試みた。PTOは2つの特許出願間のインターフェアランス宣言を行った。一方はLarsonにより出願され、他方はZimmermanにより出願された。

 Automotive社はZimmermanの特許出願の譲受人である。Larsonは発想、開示、図面、明細書および実施化に関し、虚偽の陳述をなした。Automotive社はLarsonの偽証を発見していたが、この情報をPTOに明らかにしなかった。代わりに、Automotive社は当事者間による和解に移行した。Automotive社は和解交渉を行い、ついにLarson出願およびZimmerman出願の双方について特許を受けた。Larson特許は偽証により得たことを知っているにもかかわらず、Automotive社は他の会社に訴訟を開始した。

  最高裁は、積極的に虚偽の証拠を隠匿したことから、汚れた手の理論によりAutomotive社の権利行使を認めなかった。


[1] Star Scientific Inc. v. R.J. Reynolds Tobacco Co., 537 F.3d 1357, 1365 (Fed. Cir. 2008)

[2] Keystone Driller Co. v. General Excavator Co., 290 U.S. 240 (1933)

[3] Hazel-Atlas Glass Co. v. Hartford-Empire Co., 322 U.S. 238 (1944), (Standard Oil Co. v. United States, 429 U.S. 17 (1976)

[4] Precision Instruments Manufacturing Co. v. Automotive Maintenance Machinery Co., 324 U.S. 806 (1945)

[5] United States v. Hartford-Empire Co., 46 F. Supp. 541 (N.D. Ohio 1942)

(第4回へ続く)

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