- 宮原 輝夫
- 宮原建築設計室
- 東京都
- 建築家
対象:住宅設計・構造
今回と次回は狭小住宅についてです。
最近では、専門誌や、狭小住宅を専門とする建築家、建築プロデューサーがいるくらい、住宅の一つの大きなカテゴリーになってきた印象がある狭小住宅ですが、ちょっと前までは、暗くて狭くて、「なんでわざわざ」という言葉が付く位マイナスなイメージでした。雑誌やテレビもどれだけ良いかではなく、どれだけ辛いかを競って報道したほど。今では狭小住宅へのイメージも大きく変わり、積極的に狭小住宅(というライフスタイル)を選び、建築家との家づくりを楽しんでいる様に感じます。今回紹介するNw邸も狭さではスーパーですが、豊かさもたいしたものです。
「Nw邸」 - 5層の狭小住宅 -
「おくゆかしい」という言葉があります。その奥にあるものに心を惹かれ、もっとその先を知りたい、そんな意味だと思います。これを漢字で書くと「奥床しい」。すなわち襖を開けて奥へ奥へと入って行って何かを発見する訳です。Nw邸は、僅か43m2(13坪)の敷地に建つ5層の床を持つ狭小住宅です。平面的に奥へ奥へは無理なので、上へ上へと進むうちに、親密で魅力的な空間が現れる、そんな「奥床しい」住宅を目指しました。
玄関を入ると、1層目は来客の為のスペースを兼ねた山吹色の音楽室、次は読書スペース、第3層は子供とのコミュニケーションを考えた寝室・浴室、第4層のとても高い天井の家族の為のリビングルームは、敷地の面積からは到底想像出来ない解放感と明るさです。さらにガラスの扉を開けて、パンチングメタルで出来た浮遊感のある階段を上ると、最上層には究極の親密さを示す茶室が現れます。実はNw邸、こんな風に、音楽室(兼ゲストルーム)から茶室まで、親密さのグラデーションを設定する事で、家の敷居を低くしてゲストを迎え入れ、深窓ではゆったりとした寛ぎを確保出来るように考えたのです。段々と地域のコミュニティが失われていく今日、住宅の機能として必要ではないでしょうか。
さて、こんな奥床しいNw邸も夜になると一変、通りに面した7つの窓から和紙を透して、7つの日本色を放ちます。とてもとても小さなNw邸が「艶やかな家」としても人の記憶に残る為に。
追記
Nw邸では、施主の趣味もあり様々な材料、仕上げを試みています。外壁コンクリートの斑模様の黒色塗装、杢模様の美しい栃の扉、栗、水目桜のフローリング、杉板型枠を用いたコンクリート打放し、山吹色の壁、天井、松墨を混ぜたクリア塗装、音楽室への扉や読書スペースの床に用いたハニカム構造のFRP、これらの材料もまた、Nw邸のアイデンティティを表す大きな要素でしょう。
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