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河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における均等論の解釈(第3回)

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中国特許判例紹介:中国における均等論の解釈(第3回)

~均等論の解釈と環境技術に対する差止の拒否~

河野特許事務所 2011年5月20日 執筆者:弁理士 河野 英仁

        深セン市斯瑞曼精細化工有限公司

                               一審原告、二審被上訴人

                    v.

        深セン市康泰藍水処理設備有限公司

         深セン市平湖自来水有限公司

                                  一審被告、二審上訴人

争点2:被告Yの善意使用の抗弁は成立しない。

 高級人民法院は、被告Yに対する善意使用の抗弁を認めなかった。

 

 被告Y及び原告は共に、水処理業種に従事する企業法人であり、また同地域同一行政区域、即ち深セン市において業務を行っており、同地域の同業者設備のことを知っているはずである。また被告Yは、中級人民法院に提訴された後に、既にその使用する製品が発明特許権を侵害する可能性があることを知っておりながら、イ号製品の使用を停止しなかった。

 

 以上のことから高級人民法院は、被告Yが、被告Xから購入したイ号製品が合法的なルートに基づくものであり、損害賠償責任を負わないとする専利法第70条の抗弁を認めなかった。

 

 

5.結論

 高級人民法院は、中級人民法院がなした判決に誤りはないとして、上訴を棄却する判決をなした。

 

6.コメント

(1)均等侵害が成立しやすい点に注意

 中国において均等を判断する際、手段・機能・効果の同一性と想到容易性を考慮する。しかしながら、訴訟実務上は機能及び手段の同一性が重視され、効果及び容易想到性については深く議論されないことが多い。

 

 特に機械・電気・情報処理分野における発明の効果については曖昧な点が多く、均等の判断の際にも効果の同一性が争点となることが少ない。本件では、請求項1の文言「気液分離器」12に対し均等な構成として、中級人民法院は「3道パイプライン」を認定し、高級人民法院は「反応器」を認定した。

 

 均等と認定する対象が異なるが、結局のところ請求項1には「気液分離器」と何の修飾もなされていないことから、両人民法院が気体と液体とを分離する機能を果たす「3道パイプライン」または「反応器」を均等と判断した点は妥当と考える。日本のように、均等の成立にあたり「本質的要件」[1]が課されておらず、米国と同じく比較的容易に均等侵害が成立する点に注意すべきである。

 

(2)公共の利益を考慮した差し止め請求の否定

 本事件では特許権侵害にもかかわらず、被告Yに対する差し止め請求を否定したこともポイントの一つである。本事件の如く特許が環境技術に関わり、差し止めを認めた場合、国家の環境政策及び地域社会に対し悪影響を及ぼすおそれがある場合、損害賠償のみを認め、差し止めを否定することがある。

 

 富士化水事件[2]においては、特許が火力発電所における二酸化硫黄を除去する「曝気法海水煙気脱硫方法及び曝気装置」に権利が付与されていたが、本事件と同じく地域社会の環境に配慮し、損害賠償だけを認め、差し止め請求を否定した。

 

判決 2010年11月15日

以上


[1]無限摺動用ボールスプライン軸受事件(最判平成10年2月24日 最高裁判所民事判例集52巻1号113頁)

[2]武漢晶源環境工程有限公司訴日本富士化水工業株式会社等侵犯発明専利権紛争案、福建省高級人民法院2008年5月12日判決(2001)闽知初字第4 号、最高人民法院2009年12月21日判決(2008)民三終字第8号

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