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中国特許判例紹介:中国特許権侵害訴訟における現有技術抗弁 (第1回)
~現有技術抗弁における実質的相違の解釈~
河野特許事務所 2012年5月14日 執筆者:弁理士 河野 英仁
区徳健
一審被告、二審上訴人
v.
トスカ株式会社
特許権者、一審原告、二審被上訴人
1.概要
中国特許訴訟においては人民法院にて特許無効の抗弁を主張することができない。この点、裁判所での特許無効の抗弁が認められる日本国特許法と相違する(日本国特許法第104条の3)。
このように中国では特許無効の抗弁が認められないものの、現有技術の抗弁(日本でいう自由技術の抗弁)が認められており、実務上は被告の有効な防御手段となっている。現有技術の抗弁は、第3次法改正時に専利法第62条に以下のとおり規定された。
専利法第62条
「特許権侵害紛争において、侵害被疑者が、その実施した技術又は外観設計が現有技術又は現有設計であることを証明できる場合、特許権侵害に該当しない。」
本事件では第1審において特許権侵害と認定された被告が第2審時に発見した現有技術を用いて、現有技術の抗弁を行った。第2審では被告の現有技術抗弁を認め、特許権非侵害の判決をなした。
2.背景
(1)発明特許の内容
トスカ株式会社(原告)は特許ZL93112661.4号(以下、661特許という)を所有している。661特許は店頭において衣料品に取り付けられるタックピンを取り付けるタックピン取付機に関する。661特許は、1993年12月22日に発明特許出願がなされ、1999年9月25日に公告された。
本特許の請求項は独立請求項1及び従属請求項2-13であり、独立請求項1は以下のとおりである。
請求項1
レバー(3)によって揺動する中間レバー(5)を用いて,前方にピストン(11)を有する移動部材(9)を前進させ,かつ該ピストン(11)を利用しタックピン(t)の横棒部分(b)を中空針(12)内に進入させ,レバー(3)はピン軸支持を用い,弾力作用に基づき枢軸でき本体(1)下方に延長された握り部(2)の前方に出入する動作を行う,タックピン取付機において、
タックピン(t)の連結部(c)へ歯(18f)を突出させた送り部材(18)、及び、前記歯(18f)の側面に配置され,前記連結部(c)に噛み合う歯(19c)を突出させるストッパ部材(19),送り部材(18)は頭部(18a)及び該頭部(18a)から延長されるレバー部(18b)を備え,
移動部材(9)が往復運動または中間レバー(5)が運動すると同時に,送り部材(18)を揺動させ,これにより移送タックピンを移送する
ことを特徴とするタックピン取付機。
参考図1は661特許の取付機の断面図である。
参考図1 661特許の取付機の断面図
本特許の独立請求項は以下の7つの技術特徴を有している。
a.レバー3、中間レバー5、ピストン11を有する移動部材9、中空針12により構成されるタックピン取り付け機
b.レバー3はピン軸支持を用い、弾力作用に基づき枢軸でき本体(1)下方に延長された握り部(2)の前方に出入する動作を行う
c.中間レバー5はレバー3を通じて揺動する
d.中間レバー5が揺動する際、前面にピストン11を有する移動部材9を前進させ、かつ、該ピストン11を利用してタックピンの横棒部分を中空針12中に進入させる
e.タックピン(t)の連結部分(c)に歯(18f)を突出させた送り部材(18)、送り部材(18)は頭部(18a)及び頭部(18a)から延長したレバー部(18b)を備え
f.前記歯(18f)の側面に配置され、前記連結部(c)に噛み合う歯(19c)が突出したストッパ部材(19)
g.移動部材(9)が往復運動または中間レバー(5)が運動すると同時に、送り部材(18)を揺動させ,これにより移送タックピンを移送する。
(第2回へ続く)
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