- 野平 史彦
- 株式会社野平都市建築研究所 代表取締役
- 千葉県
- 建築家
対象:住宅設計・構造
北海道では一九七三年のオイルショックを境に、熱損失の少ない家づくりを目指して北欧から高気密・高断熱住宅を学んだのですが、当初は「高気密」の意味がまだ良く理解されていませんでした。50mm厚のグラスウールしか入れていなかった外壁の軸組内に100mmのグラスウールが入れられ、倍の断熱効果が期待されたのですが、何故か予想したほどの効果は現れませんでした。その原因は、気密性が高くなかったために隙間風による換気損失が大きかったことと、壁体内の気流によってグラスウールの断熱効果が阻害されていたためなのですが、そこにもっと大きな落とし穴が隠されていたのです。50mm断熱の時には気が付かなかったのですが、100mm断熱になって壁の中で多量の結露が発生することが分かったのです。
壁体内では、室内で発生した水蒸気がグラスウールの中に大量に吸い込まれ、それが冷たい外気に接すると同時に大量の結露水となって柱・梁などの構造体を濡らし、腐食菌を繁殖させてしまいました。北海道では土台廻りに大量のナミダダケが繁殖し、高断熱を施した多くの家が短期間でボロボロになってしまったのです。こうして、やっと「室内で発生する水蒸気を外壁内に侵入させてはいけない」ことに気付き、如何にして防湿を図るか、という研究が行われるようになり、高断熱を施すには高気密が欠かせないことを学びました。このように「高気密」とはまず壁の中の結露対策として生まれたものなのです。
50mm断熱の時には、即ち中気密・中断熱の時には、壁内の半分は空洞であり、外壁内に侵入した室内の水蒸気は壁体内で結露してもその空洞のお陰で何となく乾燥し外部に流れ出ていたので、壁の中で起こっている事など私達は何も知らずに済んでいたのです。50mmの壁内空洞は床下から壁、小屋裏へと空間が繋がっており、そこに気流が起きますから、気流に晒された断熱材も本来の断熱性能は発揮していませんでしたし、結露があれば水分を含んで重くなった断熱材は壁内の所々でダレ落ちて、およそ断熱の意味をなしていなかった訳で、こうした無知といい加減さが逆に壁内結露に対しては幸いしていたと考えることができるのです。
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次回の船橋建築塾は、6月20日(土)です。
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