- 森岡 篤
- 有限会社パルティータ 代表
- 建築家
対象:住宅設計・構造
多くの建物被害に隠れ余り報道されなかったが、盛土造成地が地滑りの被害を受けていた。
以前は誰も不安に思わなかったような、なだらかな斜面で地盤崩壊が起き、その下の住宅群が押しつぶされ、死傷者が出た。
その後の地盤崩壊箇所の調査の結果、盛土だったことがわかった。
さらに過去の地形を調べてみると、水が常時入り込んでいた地域であった。
水の抜け道を造らず、せき止めるように盛土したことが、崩壊の誘因の一つと考えられている。
盛土における地震被害の危険性
まだ記憶に新しい中越地震でも、盛土造成地は多くの被害を受けた。
現地調査をした研究者が、盛土部分に被害が集中していることから、今後同様の被害は、全国でも起こりうる、と警告した。
人が住んでいるところは、平野部であっても、元々は多少の起伏はあったのだろう。
その場合、切土、盛土を行い、平にすることが常識化してしまったため、盛土の造成地は全国で無数に存在する。
建物上部構造が耐震性能を確保していても、地盤が崩壊したらひとたまりもない。
木造はもちろんであるが、杭基礎のRC造でも事情は変わらない。
杭は地表近く地盤が不安定となるような条件で設計されていないので、もし地盤が崩壊したら、杭は壊れ、建物は沈下、転倒してしまう可能性がある。
行政の対応
盛土の地震被害の危険性については、報道も少ない。
マスコミが、問題の根深さにまだ気付いていないのだろう。
問題の根深さとは、日本全国余りにも広範囲に、多くの箇所で盛土造成地が存在し、大地震が起きたら地盤被害の危険性があること、さらに、住民の多くは盛土であることすら気付いていないことである。
行政はというと、この問題の深刻さをある程度は理解しているはずであり、盛土範囲についてもかなり把握しているはずであるが、一切公表していない。
川崎市は、唯一「大規模盛土造成地マップ」を作成し、概略は公表している。
しかし、具体的に、ある地区が盛土かどうかについては公表しない。
ある敷地が盛土造成地であることがわかると、土地の資産価値に大きく影響する、パニックになると考えているのかもしれない。
耐震運用のアンバランスさ
日本の構造設計規準は、1981年に大きく改正された(新耐震設計法)。
阪神淡路大震災では、新規準で設計された建物の被害は非常に少なく、妥当さが実証された。
以降も耐震規準は徐々に厳しい方向となり、特に姉歯耐震偽装問題以降、耐震審査がガチガチに運用され、耐震方針が絶対的なものにされてしまったのは、残念なことである。
建築に詳しくない人は、規準をクリアしていれば大地震でも無被害だが、規準値未満(<1)だと壊れるもの、と誤解してしまうのではないかと危惧する。
盛土問題は、建物上部構造を設計規準でシビアに設計したとしても、足下をすくわれてしまうかもしれないという、バランスを欠いた状況であることを示す。
現在の耐震規準は1手法に過ぎず、地盤を始めとしてまだわからないことがたくさんあることを認識し、謙虚に臨んでもらいたいものである。