中国商標判例紹介(8):中国における商標と商号の抵触 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国商標判例紹介(8):中国における商標と商号の抵触

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中国における商標と商号の抵触

~第三者の商号使用に対する対抗措置~

中国商標判例紹介(8)


2014年12月26日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野 英仁

 

Weatherford (中国)エネルギーサービス有限公司

                           被上訴人(一審原告)

v.

塩城威徳福石油設備有限公司

                           上訴人(一審被告)

 

1.概要

 商標と企業名称である商号とは異なる商業標識の範囲に属するが、商号の使用は必ずしも商標的な使用とはいえず、商標権の侵害を主張することができない場合がある。

 

 しかしながら、商標及び商号は共に商品及びサービスの出所表示機能を果たすことから第三者がフリーライドの目的で、他人の商標を商号として利用することもある。

 

 本事件では世界的に有名な企業名称を第三者が同一業界内で商号として登記し、また商標登録をも行ったことから、原告が不正競争防止法により商号の使用差し止め及び損害賠償請求を求めたものである。人民法院は、他人の著名な企業名称を使用して市場を混乱させたとして不正競争防止法に基づき商号の使用差し止め及び損害賠償を認めた。

 

 

2.背景

(1)原告の中国での業務

 威徳福(中国)エネルギーサービス有限公司(原告)は2008年5月に設立された。原告は、Weatherford国際有限公司(以下简称威徳福国際)が中国にて投資した大型の石油商品サービス会社であり、全世界の石油工業業界にてその名が知られている。

 

 2000年5月,威徳福国際は“威徳福”の商号をもって,威徳福亜太有限公司を設置し、中国国内で、商業活動に従事した。長年の経営、宣伝及び商業使用を通じて、原告公司の商号“威徳福”は中国石油業界内で高い知名度と影響力を有するようになった。

 

(2)被告の行為

 塩城威徳福石油設備有限公司(被告)は2010年6月に設立され,登録資本は100万元(約1,700万円),経営範囲は石油採掘設備、石油加工バルブ、石油ポンプ、液圧部品の製造、販売等である。被告は“威徳福”を含む商号を用いて石油工業の領域内で業務を開始した。

 

 さらに被告の関連会社塩城華展石油机械有限公司は“威徳福weidefu”とする商標を指定商品第7類にて商標局に出願した。2010年1月7日、商標局は当該出願について登録を認めた。登録番号は第6164628号であり、商標は下記図に示すとおりである。

 

 

 関連会社塩城華展石油机械有限公司は、被告に対し当該商標の使用許諾を認めた。経緯をまとめると以下のとおりである。上段が原告側の行為、下段が被告側の行為である。

 


 原告は、被告の商号“威徳福”の使用行為の即時差し止め及び25万元(約400万円)の損害賠償を求めて中級人民法院へ提訴した。

 

3.人民法院での争点

争点 商標的使用ではない商号の使用に対しどのように対処すべきか

 原告の“威徳福”は石油業界において広く知られているが、特段商標登録も行っておらず、また、被告は単に商号として“威徳福”を用いているに過ぎず、商標的使用には該当せず商標権侵害を主張することもできない。このような場合に、どのように対処すべきかが問題となった。

 

 

4.人民法院の判断

結論:被告の行為は不正競争行為に該当する

 人民法院は、被告の行為は不正競争防止法に規定する不正競争行為に該当すると判断した。

 

 人民法院は、“威徳福”の文字は“Weatherford”の音訳であり、中国において先に威徳福国際により間接的に設立された子会社により使用され、顕著性が強いと判断した。そして長年の経営、宣伝及び使用を通じて,原告の“威徳福”商号は、中国石油業界領域内で比較的高い知名度及び影響力を有するようになった。

 

 一方、被告の商号使用は原告の使用よりも遅い。被告は“威徳福”が商標登録されており、使用許諾を受けていることを主張したが、人民法院は、当該商標の出願は原告の商号使用よりも遅く、かつ、商標と商号は知的財産権の中で異なる領域に属しており、商標の使用許可を受けたからといって、比較的高い知名度の商号と同一の商標を使用することはできないと述べた。

 

 被告と原告とが従事する業界は共に石油開発関連の経営及びサービスであり、被告は原告“威徳福”商号の商業上の信用及び知名度を当然に知っていたはずである。そして、“威徳福”商号の影響力は大きく、被告が“威徳福”を企業商号として使用すれば、容易に同一領域内の市場を混同させ、原告の市場シェア及び経济利益を侵害し、不正競争行為を構成することとなる。

 

 以上の理由により、人民法院は不正競争防止法に基づき、被告の商号の使用の即時停止及び損害賠償5万元(約80万円)を命じる判決をなした[1]

 

 

5.結論

 中級人民法院及び高級人民法院共に被告の行為は不正競争行為に該当し、被告に対し商号の使用停止及び損害賠償を命じる判決をなした。

 

 

6.コメント

(1)原告の商標登録

 原告の商号は著名であったにもかかわらず、原告は長年商標登録出願を行っていなかった。そのため、被告側の商標登録をも許すこととなった。原告は2011年末頃から商標登録出願を行っているが、もっと早い段階で出願すべきであった。

 

(2)商標と商号との関係

 第3次改正商標法により、他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称に商号として使用し、公衆を誤認させ、不正競争に該当する行為は、不正競争防止法に基づき処理する旨規定する第58条の規定が新設された。

 

改正商標法第58条

 他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称に商号として使用し、公衆を誤認させ、不正競争に該当する行為は、『中華人民共和国不正競争防止法』に基づき処理する。

 

 また、2008年に公布された法釈[2008]3号第4条にも以下のとおり同様の規定がなされている。

 

「登録商標専用権を侵害、あるいは不正競争を構成するとして訴えられた企業名称について、人民法院は原告の訴訟請求と案件の具体的情況を根拠とすることができ、被告に対して使用停止、使用の規範化などの民事責任を引き受けることを確定する。」

 

 商標と企業名称の性質は必ずしも同一ではないが、両者は共に商業標識の範囲に属し、共に商品及びサービスの出所機能を果たす。実際にはフリーライドの目的で、他人の商標の影響力を自身の経営活動に取り込むべく、他人の登録商標または未登録馳名商標を企業名称として使用する場合がある。このような行為は公衆の誤認を招くため、特に商標法に規定を設けることとしたものである。

 

  中国の不正競争防止法は反不正当競争法といい、他人の登録商標の盗用、知名商品特有の名称を使用し混同を起こさせる等、不正競争防止法第5条に規定する不正競争行為があった場合に、人民法院に対し損害賠償請求を請求することができる(不正競争防止法第20条)。

 

 不正競争防止法第5条

 事業者は以下に記載する不正手段を用い市場取引をし、競争相手に損害を与えてはならない。

(1)他人の登録商標を盗用すること。

(2)勝手に著名商品の特有な名称、包装、デザインを使用し、または著名商品と類似の名称、包装、デザインを使用して他人の著名商品と混同させ、購入者に当該著名商品であるかの誤認をさせること。

(3)勝手に他人の企業名称または姓名を使用して公衆に当該他人の商品であるかの誤認をさせること。

(4)商品の上に品質認定標識、優秀著名標識など品質標識を偽造し盗用し、または原産地を偽造して公衆に誤解させる商品品質の虚偽表示をすること。

 

不正競争防止法第20条

 事業者は本法に違反して被害事業者に損害を与えた場合、損害賠償責任を負わなければならない。被害事業者に対する損失が計算し難い場合、賠償額は侵害者が侵害期間に侵害行為により得た利潤とする。また、被害事業者が自分の合法的な権益を侵害した当該事業者の不正競争行為を調査したため支出した合理的な費用を負担しなければならない。

 被害事業者はその合法的な権益が不正競争行為により損失を受けた場合、人民法院に訴えを提起することができる。

 

 また今回の改正では未登録の馳名商標をも対象としており、第三者が当該商標を企業名称に商号として使用し、公衆を誤認させることにより、不正競争に該当すると判断された場合も、不正競争防止法による救済を受けることができる。具体的には、不正競争防止法に基づく損害賠償請求訴訟を行い、人民法院において馳名商標であることの認定を受けることが必要であろう。未登録であっても本規定及び改正商標法第13条第2項(未登録馳名商標の保護)を活用することで自身の中国における馳名商標を保護することが可能となる。

 

以上

 

 



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[1] 中級人民法院判決 (2012)塩知民初字第0283号

 江蘇省高級人民法院判決 (2013)蘇知民终字第0033号

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