- 河野 英仁
- 河野特許事務所 弁理士
- 弁理士
対象:企業法務
- 村田 英幸
- (弁護士)
- 尾上 雅典
- (行政書士)
河野特許事務所 2008年8月22日
執筆者:弁理士 河野英仁、中国弁理士 張 嵩
要 約
中国が2001 年にWTO に加盟して以来,知的財産権保護の制度作りが急ピッチで行われている。特許権についても多数成立が認められ,中国企業同士の特許権侵害訴訟事件が増加している。中国に現地法人を有する外国企業も例外ではない。米国及び欧州企業が特許権侵害及び商標権侵害で中国企業に訴えられる事件も増加している。中国における特許権の民事的救済措置に関しては,日本国におけるそれと類似するが,注意を要する相違点もある。以下では日本及び米国における法制度と比較しつつ,実務者として押さえておきたいポイントを概説する。
1.はじめに
実質経済成長率が毎年約10%と,驚くべき勢いで中国は経済発展をとげている。経済発展を支えるのは人口約13 億人という巨大なマーケットである。知的財産権保護の観点からは,2001 年にWTO に加盟し,米国の強い圧力を受けつつ,他の国と同等の保護レベルを目指して法改正,各種機関の設立及び人材育成等が行われている。
このような状況下,中国に現地法人を設立している日本企業にとっては,特許の問題は無視するわけにはいかない。
日本及び米国企業等は多数の特許出願を中国に行い,徐々に武器となる特許を多数成立させている。「模造品が多い…訴訟をするか?しかし,特許訴訟をして実際に勝てる見込みはあるのか?権利範囲の解釈は?」特許訴訟の多い米国及び日本と異なり,まだまだ情報が少なく不透明というのが現状ではないだろうか。
筆者は2007 年夏に北京の清華大学法学院に留学し,中国知的財産権法プログラムを受講した。同プログラムにおいては最高人民法院知識産権部の惷判事から直接指導いただく機会もあり,貴重な情報を得ることができた。
本稿は,特許民事訴訟の概要及び最新のデータを,特に日米の制度と対比しつつ,現在日本で活躍する張中国弁理士と共同で執筆したものである。中国特許実務を行う読者の参考となれば幸いである。
なお本稿で述べる「特許」は日本国特許法における特許を意味し,実用新案(実用新型)及び意匠(外観設計)を除くものである。 (第2回に続く)