金利スワップ損害賠償請求訴訟、最高裁第1小法廷判決平成25年3月7日 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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田中 圭吾
田中 圭吾
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村田 英幸
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金利スワップ損害賠償請求訴訟、最高裁第1小法廷判決平成25年3月7日

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金利スワップ損害賠償請求訴訟、最高裁第1小法廷判決平成25年3月7日

損害賠償請求事件

裁判集民事243号51頁、判例タイムズ1389号95頁①事件

【判示事項】 銀行と顧客との間で固定金利と変動金利を交換してその差額を決済するという金利スワップ取引に係る契約を締結した際に銀行に説明義務違反があったとはいえないとされた事例

【判決要旨】 銀行と顧客企業との間で,変動金利が上昇した際のリスクヘッジのため,同一通貨間で,一定の想定元本,取引期間等を設定し,固定金利と変動金利を交換してその差額を決済するという金利スワップ取引が行われた場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記取引に係る契約締結の際,銀行が,顧客に対し,中途解約時の清算金の具体的な算定方法等について十分な説明をしなかったとしても,銀行に説明義務違反があったということはできない。

(1) 上記取引は,将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右される基本的な構造ないし原理自体が単純な仕組みのものであって,企業経営者であれば,その理解が一般に困難なものではない。

(2) 銀行は,顧客に対し,上記取引の基本的な仕組み等を説明するとともに,変動金利が一定の利率を上回らなければ,融資における金利の支払よりも多額の金利を支払うリスクがある旨を説明した。

(3) 上記契約の締結に先立ち銀行が説明のために顧客に交付した書面には,上記契約が銀行の承諾なしに中途解約をすることができないものであることに加え,銀行の承諾を得て中途解約をする場合には顧客が清算金の支払義務を負う可能性があることが明示されていた。

【参照条文】 民法709条

 1 ①,②事件は,いずれも,地方の中堅企業であるX社が,メガバンクであるY銀行との間で行った金利スワップ取引に係る契約を締結した際,Y銀行に説明義務違反があったと主張して,Y銀行に対し,損害賠償を求めた事案である。

 事実関係は,各事件の判文を参照していただきたいが,補足すると,Y銀行は,平成13年度以降,取引先に対して,金利スワップの販売を積極的に行っていたものの,平成17年12月2日,金利スワップを購入しなければ融資に関して不利な取扱いをする旨を示唆することによりその購入を余儀なくさせたなどとして,独占禁止法の規定に基づき,上記の行為を取りやめることなどの勧告を受けた。Y銀行は,弁護士である社外委員を含む特別調査委員会を設置し,平成18年4月27日,調査報告書を取りまとめたところ,これによれば,平成13年4月以降の金利スワップ契約先,全1万8162社のうち,2200社(調査票を返信した顧客等)について詳細な調査が実施され,「濫用事案」(訴訟となった場合,かなりの確度で優越的地位の濫用が認定されると思われる事案)は17社,「濫用懸念事案」(訴訟となった場合,優越的地位の濫用と認定される懸念のある事案)は51社であり,優越的地位の濫用(懸念を含む。)は認められなかったが説明不足等の法的責任が懸念される事案は181社であった。

 このような中,Y銀行の顧客が,説明義務違反や優越的地位の濫用等を主張して,Y銀行に対して損害賠償を求めた訴訟が,下級審に相当数係属したものの,いずれも顧客の請求は棄却されていた(説明義務違反等が争点となったものとして,(ア)横浜地判平18.2.17,(イ)大阪地判平19.7.27,(ウ)大阪高判平19.10.12,(エ)大阪地判平20.5.28,(オ)大阪高判平20.6.12,(カ)東京高判平21.11.4,(キ)大阪地判平23.3.15,(ク)大阪高判平24.2.24,(ケ)広島高判平24.3.8がある。他に,優越的地位の濫用が争点となったものとして,(コ)東京地判平19.6.29,(サ)山口地周南支判平19.11.21,(シ)仙台地判平19.11.28,(ス)大阪高判平20.9.25がある。)。ただし,本件の②事件の1審は,優越的地位の濫用の主張を容れ,顧客の請求を一部認容していた。

 本件の①,②事件とも,原審は,説明義務違反の主張を容れ,X社の請求を一部認容したが(判タ1364号158頁,判時2136号58頁,金判1369号25頁),この原判決に対しては,複数の論者が批判的な評釈をしていた(松尾直彦・金法1939号70頁,青木浩子・金法1944号72頁,二宮正一郎・金判1400号8頁,福島良治・金法1961号62頁等)。

 最高裁は,①事件(第一小法廷),②事件(第三小法廷)とも,説明義務違反の主張を排斥し,原判決を破棄し,X社の請求を棄却した。

 2 原判決は,民法709条に基づく不法行為責任として説明義務違反を認めたものであるが,まず,その特則に位置付けられる,金融商品の販売等に関する法律の説明義務に関する規定(本件でも,その違反の主張がされていた。)を概観しておく。

 平成18年法律第66号による改正前の金融商品販売法3条1項は,金融商品販売業者に対し,重要事項として,当該金融商品の販売について金利等の指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは,その旨及び当該指標等についての説明義務を課し,同法4条は,この説明義務違反に対する無過失の損害賠償責任を課していた(解説は,岡田則之=高橋康文編『逐条解説金融商品販売法』91頁)(なお,金利スワップ取引では,現実に授受される元本は存在しないが,取引による実損という趣旨で,顧客が支払う金利差額がこれに当たると考えられよう。)。また,平成18年改正後の金融商品販売法3条は,説明義務を拡充し,①下級審裁判例(ワラント等)の動向等を踏まえて,「金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分」につき説明をしなければならないとし(1項1号ハ),また,②適合性原則の意義を示した最一小判平17.7.14民集59巻6号1323頁(オプション取引に関するもの)等を踏まえ,「説明は,顧客の知識,経験,財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして,当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない」とした(2項)(解説は,松尾直彦監『逐条解説新金融商品販売法』9頁,125頁)。

 本件では,平成18年改正後の金融商品販売法は適用されないが(平成18年法律第66号の183条1項),金利差額を支払わなければならないおそれを生じさせる仕組み及び指標となる固定金利と変動金利について説明がされているから,改正前後の金融商品販売法の要求する説明レベルは実質的にクリアしているといってよいように思われる。

 3 そこで,不法行為責任としての説明義務違反について検討すると,一般に,デリバティブ取引における説明義務違反の有無については,顧客の理解や商品の周知性等の諸要素を総合的に考慮して判断がされているといわれている(清水俊彦『投資勧誘と不法行為』303頁参照)。

 デリバティブ取引は,一般消費者はもちろん,企業関係者であっても,設定されている条件,数値等の意味や妥当性を正確に理解することができないものが多く,オプション取引のように,取引の選択肢も複雑性が高くなると,どのような要素をどのように考慮して取引内容を決めたらよいのか,素人には判断の容易でないものもある。しかし,本件のプレーン・バニラ・金利スワップは,将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右される基本的な構造ないし原理自体が単純な仕組みのものであって,企業経営者であれば,その理解が一般に困難なものではないとみられる。もちろん,銀行は,一般に中小企業経営者よりも豊富な知識と経験を有しているから,有利といえば有利であるが,上記のような仕組みにすぎないものであっても,銀行に,固定金利の水準が金利上昇のリスクをヘッジする効果の点から妥当な範囲にあること等につき,説明すべき義務があるとは到底解されない(本件取引は,強いて言うなれば,金利上昇の場合に備えた保険のようなものにすぎない。)。Y銀行に対して損害賠償を求めた前記1の各事件における下級審の判断も,あえて一言でまとめると,取引の基本的な仕組みや,契約上設定された変動金利及び固定金利について説明するとともに,変動金利が一定の利率を上回らなければ,融資における支払よりも多額の金利を支払うリスクがある旨を説明していれば,基本的に説明義務を尽くしたものと解しているということができる。そして,平成17年判決も,適合性原則に関するものではあるが,仕組みの理解が必ずしも容易でないデリバティブ取引であっても,取引の指標となるものが比較的理解しやすいものである場合には,顧客の自己責任を認めて不法行為の成立を否定する方向に働く要素となることを示唆する先例とみることもできるであろう。以上のような考え方は,取引の仕組みのうちの重要な部分につき説明をしなければならないとする金融商品販売法の趣旨にも沿うものと思われる。

 なお,金利スワップ取引における説明義務違反についての裁判例で認容された事例として,東京地判平21.3.31判時2060号102頁,金法1866号88頁があるが,同判決は,被告内部の検討委員会での審議に際して作成された内部資料である分析表と,原告らに示されたシミュレーション表との乖離という点に着目しており,そのようなやや詐欺的ともいうべき事情がうかがわれることから,上記分析表についての説明義務違反を認めたもののように思われる。そうだとすれば,同判決も,上記のような考え方に沿わないものではなかろう。

 また,近時,ドイツ連邦最高裁が,デリバティブ取引に関し,銀行に対する損害賠償を認めたということであるが,本件とは,契約内容が全く異なるもののように思われる。

 第一小法廷①事件も,第三小法廷②事件も,以上のような考え方を踏まえ,判決要旨の事情(原判決に対する応答も含まれている。)を指摘し,説明義務違反の主張を容れた原判決を破棄したものと思われる。

 4 最後に,若干補足しておくと,原判決が,公序良俗違反等の判断を経由しないで,信義則違反から直ちに契約の無効を導いたのは(忖度すれば,②事件の反訴請求を認容することに躊躇があったのかもしれないが),特異な判断といわざるを得ないと思われる。

 また,優越的地位の濫用の点については(この点は,多田敏明・金法1804号34頁等も参照),①,②事件とも,Y銀行はX社のメインバンクではないこと等に照らしても,Y銀行が優越的地位にあったとまでは認め難いであろう。

 5 ①,②事件は,デリバティブ取引(殊に,金利スワップ取引)における説明義務の有無につき,最高裁が一事例を示したものであり,実務の参考になるものと思われるので紹介する。



最高裁第3小法廷判決平成25年3月26日

損害賠償請求本訴,受払金請求反訴事件

裁判集民事243号159頁、判例タイムズ1389号95頁②事件

【判示事項】 銀行と顧客との間で固定金利と変動金利を交換してその差額を決済するという金利スワップ取引に係る契約を締結した際に銀行に説明義務違反があったとはいえないとされた事例

【判決要旨】 銀行と顧客企業との間で,変動金利が上昇した際のリスクヘッジのため,同一通貨間で,一定の想定元本,取引期間等を設定し,固定金利と変動金利を交換してその差額を決済するという金利スワップ取引が行われた場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記取引に係る契約締結の際,銀行が,顧客に対し,中途解約時の清算金の具体的な算定方法等について十分な説明をしなかったとしても,銀行に説明義務違反があったということはできない。

(1) 上記取引は,将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右される基本的な構造ないし原理自体が単純な仕組みのものであって,企業経営者であれば,その理解が一般に困難なものではない。

(2) 銀行は,顧客に対し,上記取引の基本的な仕組み等を説明するとともに,変動金利が一定の利率を上回らなければ,融資における金利の支払よりも多額の金利を支払うリスクがある旨を説明した。

(3) 上記契約の締結に先立ち銀行が説明のために顧客に交付した書面には,上記契約が銀行の承諾なしに中途解約をすることができないものであることに加え,銀行の承諾を得て中途解約をする場合には顧客が清算金の支払義務を負う可能性があることが明示されていた。

【参照条文】 民法709条