高年齢者の継続雇用、最高裁第1小法廷判決平成24年11月29日 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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鈴木 祥平
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村田 英幸
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高年齢者の継続雇用、最高裁第1小法廷判決平成24年11月29日

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相続

高年齢者の継続雇用、最高裁第1小法廷判決平成24年11月29日
地位確認等請求上告事件
裁判集民事242号51頁、労働判例1064号13頁

【判示事項】
1 継続雇用制度(高年齢者雇用安定法9条1項2号)における継続雇用基準(同条2項。本件においては,在職中の業務実態および業務能力にかかる査定等)を満たしていた被上告人Xが,定年後に締結した嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められ,上告人Y社において再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来によりXの雇用が終了したものとすることは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ないとされた例
2 Y社とXとの間に,嘱託雇用契約終了後も継続雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については継続雇用規程の定めに従うことになるとされた例

【判決要旨】 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条2項所定の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め,継続雇用を希望する高年齢者のうち当該基準を満たす者を再雇用する旨の制度を導入した事業主が,継続雇用を希望する高年齢者たる従業員につき,当該基準を満たしていないとして再雇用しなかった場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,当該事業主と当該従業員との間に,従前の雇用契約の終了後も当該制度に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である。
(1) 当該基準は,高年齢者の在職中の業務実態及び業務能力に係る査定等の内容を所定の方法で点数化し,総点数が0点以上の高年齢者を再雇用するというものであり,当該制度においては,再雇用される高年齢者の継続雇用の最長期限及び労働時間の上限が定められ,従前の基本給の額及び再雇用後の労働時間から所定の計算式で算出される金額が本給の最低基準とされていた。
(2) 当該従業員は,在職中の業務実態及び業務能力に係る査定等の内容を上記方法で点数化すると,総点数が1点となり,当該基準を満たす者であった。
(3) 従前の雇用契約の終期の到来により当該従業員の雇用が終了したものとすることをやむを得ないものとみるべき特段の事情はうかがわれない。

【参照条文】 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条、 労働契約法6条

(1) 事件の概要
 本件は,上告人(二審控訴人・附帯被控訴人,一審被告)津田電気計器株式会社(以下,「Y社」)において定年に達した後,引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた被上告人(二審被控訴人・附帯控訴人,一審原告)甲野太郎(以下,「X」)が,Y社に対し同契約終了後の継続雇用を求めたものの拒絶されたことから,XはY社が定めた高年法(以下,「法」)9条2項所定の「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」(以下,「継続雇用基準」)を満たす者を採用する旨の制度により再雇用された等と主張して,Y社を相手に,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認ならびに同契約に基づき週40時間(予備的に週30時間)の労働時間に対応する額の賃金および遅延損害金の支払いを求めた事案である。
 X(1948年生れ)は,1966年3月7日,Y社との間で,期間の定めのない雇用契約を締結し,以後,Y社の本社工場において勤務していた。
 Y社の高年齢者継続雇用規程(以下,「継続雇用規程」ないしは「本件規程」。なお,本件規程は,法9条2項所定の継続雇用基準を含むものとして定められたもの。)においては,①Y社は,継続雇用を希望する高年齢者のうちから選考して,高年齢者を採用する,②Y社は,高年齢者の在職中の業務実態および業務能力につき作成された査定帳票の内容等を所定の方法で点数化し,総点数が0点以上の高年齢者を採用し,これに満たない高年齢者は原則として採用せず,また,採用した高年齢者の労働時間につき,総合点数が10点以上の高年齢者は週40時間以内とし,これに満たない高年齢者は週30時間以内とする等が定められていた(以下,「本件選定基準」)。
 Xは,Y社に以前から継続雇用を希望する旨を伝えていたが,Y社は,平成20年12月15日,Xに対し,Xが本件規程所定の継続雇用基準(総点数が0点以上)を満たさず,Xの雇用は嘱託雇用契約の終了日である2009年1月20日をもって終了する旨の書面により,本件規程に基づく再雇用契約を締結しないことを通知した。
 本件の争点は,(1)本件規程に定められた本件選定基準は適法なものといえるか,(2)X・Y社間において再雇用契約が成立した事実の存否,(3)再雇用契約が成立するとした場合の賃金額である。
(2) 一審判決の要旨
 一審判決は,争点(1)について,「本件選定基準の内容に照らすと,本件選定基準を含む継続雇用規程が公序良俗に反する内容を含むものであって無効であるということはできないものといわざるを得ない」とした。
 争点(2)については,「一般に,事業主が高年法9条1項2号及び同条2項に則して再雇用を内容とする継続雇用制度を設けた場合において,当該事業主が,同制度について定める就業規則において,継続雇用対象者に係る具体的な選定基準及び再雇用された場合の一般的な労働条件を定め,当該就業規則を周知したときには,当該事業主は,その周知の時点において,自ら雇用する労働者に対し,当該就業規則に定められた条件での定年後の再雇用契約締結の申込みをしたものと認めるのが相当である」とした。このような場合に,「当該就業規則に定められた基準を満たした労働者が定年日までの間に再雇用を希望し,その旨の意思表示を行った場合には,事業主の申込みに対する労働者の承諾の意思表示があったものとして,……就業規則に定める労働条件を内容とする再雇用契約が締結されたものと認めるのが相当である」とした。
 そして,本件においては,Y社は従業員に上記の「再雇用する旨の契約の申込みをしたと認めるのが相当であり,Xは,Y社に対し,継続雇用規程に基く再雇用の希望を伝え,上記申込みを承諾する旨の意思表示をしたものと認められ」,「本件選定基準に定める要件を満たしていた」として,再雇用契約の成立を認めた。
 なお,一審判決は,Xの在職中の業務実態および業務能力にかかる査定等の内容を本件規程所定の方法で点数化すると総合点数は5点になる(Y社はXにかかる上記査定等の内容の点数化に当たり評価を誤っていた)と認定している。
 争点(3)については,Xの本判決確定後の賃金の支払いを求める部分は却下し,また,Xの主位的請求(毎月25万8891円および遅延損害金の支払請求)については「理由がない」と棄却し,予備的請求(毎月19万9293円の支払請求)については,「理由がある」として認容した。
 Y社はこれを不服として控訴し,Xも主位的請求の敗訴部分の取消しを求めて附帯控訴した。そして,Xは,予備的請求について遅延損害金の支払請求を追加した(なお,Xは判決確定後の賃金請求にかかる訴えを却下された部分については不服を申し立てていないので,この部分は二審における審判の対象にはなっていない)。
(3) 二審判決の要旨
 二審判決は,一審判決とは異なり,Y社の本件規程の定め(「会社は,継続雇用を希望する高年齢者のうちから選考して高年齢者を採用する」)および実際の運用(Y社が,継続雇用対象者の希望を確認したうえで,在職中の業務実態,業務能力の査定結果に基づいて採否を決め,これを通知する)に照らして,「継続雇用対象者の希望が継続雇用契約の申込みであり,査定の結果通知が承諾,不承諾に当たると解するのが相当である」とした。そのうえで,「当該労働者が選定基準を満たす場合は,Y社には継続雇用を承諾する義務が課せられている」とし,「これに反してY社が不承諾とした場合には,解雇法理(解雇権濫用法理)を類推適用して,不承諾は使用者の権利濫用に当たり,不承諾を当該労働者に主張することができない結果継続雇用契約が成立したと扱われるべきものと解するのが相当である」とした。
 そして,本件においては,Xの総合点数は1点であるから,「Y社は,Xの継続雇用の申込みに対し,Xが基準を満たすのにもかかわらず承諾しなかったことになる」として,「Y社がXの継続雇用を不承諾とするのは権利濫用であり,Y社との間で継続雇用契約が成立した」とした。
 以上により,二審判決は,一審判決同様,Xの地位確認請求と予備的請求の毎月19万9293円の支払いを認め,二審で拡張された予備的請求の遅延損害金の支払いを認容した。
 Y社はこれを不服として上告し,上告審では,再雇用契約の成否が争われている。
(4) 本判決(最高裁)判断のポイント
 本判決は,期限の定めのない雇用契約および定年後の嘱託雇用契約によりY社に雇用されていたXは,在職中の業務実態および業務能力にかかる査定等の内容を本件規程所定の方法で点数化すると総点数は1点となり,本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,判旨1のように述べて,Xの雇用終了は,「認められない」とした。
 そして,有期労働契約の更新拒絶(雇止め)に関する東芝柳町工場事件(最一小判昭49.7.22民集28巻5号927頁)および日立メディコ事件(最一小判昭61.12.4裁判集民事149号209頁,労判486号6頁)を参照して,本件の事実関係等のもとにおいては,高年法の趣旨等に鑑み,Y社とXとの間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金・労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるとしている(判旨2)。
 以上の判断を経て,本判決は,二審判断を是認して,上告を棄却した(なお,二審判決の一部が更正されている)。
(5) 参考判例
 使用者による高年齢者の継続雇用拒否に関する紛争については,合意による再雇用契約の成否という観点から紛争の解決を試みる判例がみられる。日本ニューホランド(再雇用拒否)事件(札幌地判平22.3.30労判1007号26頁)は,再雇用契約における賃金が再雇用時の従業員の能力,担当する職務,勤務形態等をもとに個々に決定されることになっていたという事実関係のもとで,仮に再雇用拒否が違法であるとしても,再雇用契約における賃金額が不明である以上,再雇用契約が成立したとみることはできないとしている(同事件は,再雇用を拒否された従業員は再雇用の基準を満たしており,再雇用拒否は不法行為に該当するとして,損害賠償請求を認容している)。
 他方で,このような紛争について,解雇権濫用法理の類推適用という観点から紛争の解決を試みる判例も存在する。東京大学出版会事件(東京地判平22.8.26労判1013号15頁)は,就業規則所定の再雇用の要件を満たす労働者は再雇用契約を締結する雇用契約上の権利を有していると解し,そのような労働者が再雇用を希望した場合に使用者が再雇用を拒否したとしても,解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるとし,継続雇用基準を満たしている労働者について再雇用契約の成立を認めている。
 フジタ事件(大阪地判平23.8.12労経速2121号3頁)は,継続雇用制度における継続雇用拒否は期間の定めのある雇用契約における雇止めに利益状況が類似しているとして,解雇権濫用法理を類推適用し,継続雇用基準に合致する者については,原則として継続雇用を拒否することは許されないが,継続雇用基準には合致するものの,その他の事情(経営不振による継続雇用の困難性等)によって雇用の継続が困難であると認められる客観的に合理的な理由があり,継続雇用拒否が社会通念上相当であると認められる場合には,継続雇用しないことも許されるとし,継続雇用基準を満たしている労働者について,整理解雇の4要素に相当する事情を考慮して,継続雇用拒否の合理性・相当性が存在するものとして再雇用契約の成立を否定している。
 本判決は,このように下級審裁判例の対応が分かれていた問題についての,初めての最高裁判例として重要な意義を持つものである。