年老いた時、身内に介護されることを喜びますか? - 老人ホーム・介護 - 専門家プロファイル

平川 裕貴
株式会社リリパット 代表取締役社長
兵庫県
マナー講師

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対象:老後・セカンドライフ

稲垣 史朗
稲垣 史朗
(店舗インテリアデザイナー)
吉野 充巨
(ファイナンシャルプランナー)

閲覧数順 2024年04月25日更新

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年老いた時、身内に介護されることを喜びますか?

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 私は小さな子どもはたくさん見てきましたが、お年寄りに関してはほとんど経験がありません。

ですから、これが、多くの人に当てはまるかどうかはわからないのですが、もしかしたら、今、介護に直面している人達の参考になるかもしれないと思う、私の母のケースを紹介します。

 

私の母は若い頃から胃下垂で痩せていましたが、65歳頃から狭心症で入退院を繰り返すようになりました。

やがて、薬を飲まないと心臓がバクバクするらしく、6時間おきに心臓の薬を飲むようになりました。

夜中にも薬を飲ませなければならないことは、母を介護していた父の大きな負担でした。

ほとんど、家事が出来なくなった頃から、母は食べ物も受け付けなくなり、食べても下痢で出てしまい、もともと細い体はますますやせ細っていきました。

病院で検査をしても、神経性と言われるだけで、原因は分からずじまいでした。

その頃から、母は「死にたい」と漏らすようになっていましたが、父が一生懸命面倒を見ていました。

そのうち母は認知症も発症。とうとう父からSOSがきました。

 

そこで、両親の家に近い妹夫婦の家の敷地に両親の家を建てて、そこに住まわせることにしました。

ところが、引っ越してわずか1か月ほどで、父の胃がんが発覚、しかも末期ということで即入院となりました。

それまで元気だった父は、抗がん剤治療を始めた途端、みるみる病人になってしまい、2週間後に、あっけなくこの世を去りました。

 

父の入院後、妹もまだ仕事をしていたので、仕方なく母を老人ホームに預けましたが、今思えば認知症が一番ひどい時期でした。母は自分のことも分からなくなって大きな不安を抱えていました。

「死にたい」と言っては椅子を後ろに倒して、わざと頭を床にぶつけたりもしていたようでした。

自分で、花瓶で頭をたたいたとこぶを作っていたこともありました。

そこで、父の死後、認知症治療のために精神科の病院に入院させました。幸いずい分落ち着いてきて、今は普通の老人ホームに入っています。

 

ところが、私も妹も驚いたのは、今の母が実によく食べることです。

出されるものは、何でも「おいしい」「おいしい」と言って残さず食べているようなのです。

あれだけ、胃下垂で苦しみ、下痢で苦しみ、食べるものを受けつけなかったのに・・・

さらに驚いたのは、飲まないと心臓が止まると不安がっていた薬も、1回2回飛ばしても大丈夫になってきたことです。

あれだけ長く苦しんでいたのに・・・

 

このお正月、母の変貌ぶりについて妹と話していて、ふと思ったのが、父に介護されていることが、母には大きなストレスだったのかもしれないということでした。

父は一人で何でも出来る人でしたから、料理や買い物も父がしてくれましたが、母は、そのことに甘え切ることができなかったのでしょう。

ほとんど専業主婦で過ごしてきた母には、父に養ってもらっているという気持ちが強かったのだと思います。そのため、家事は自分の仕事、自分がするべき仕事だと思っていたことでしょう。

家事ができなくなったことで、父に対して引け目を感じてしまったのかもしれません。

しかも、認知症で、時々自分がわからなくなるという状態に陥り、大きな不安を抱えるようにもなりました。

自分の知らないところで、父や周りに迷惑をかけているかもしれないというのは、80歳をとうに超えた昔堅気の女性には耐えがたいことだったかもしれません。

 

老人ホームに預けたこと、そして、精神科で認知症の治療を受けたことも良かったのでしょう。

父に迷惑をかけているという、凝り固まったストレスから、母は解放されたのだと思います。

今、母が気にするのは、ホームに払うお金が足りているのかということだけです。

母は、お金を払って介護してもらっているから、精神的に気を使うことなく甘えていられるのだと思います。

出される食事も、お金を払って作ってもらっているのだと思うから、気兼ねなく食べられるようなのです。

 

日本では、身内をホームに預けることに抵抗がある人も少なくありません。

私の父もそうでした。母をデイケアに預けることさえ、世間体を気にしていました。

父が生きていたら、母をいくら認知症治療のためとはいえ精神科に入院させるなど、大反対したことでしょう。

たとえそれが、母のためになるとしても。

 

私は母の気持ちがよくわかります。

私が母の立場でも、家族に負担をかけるより、老人ホームにはいることを選びます。

もっとも、一番の願いは、誰にも迷惑をかけないでポックリ逝くことですけど、死に方は残念ながら自分では選べませんから。

 

年老いた親を老人ホームに入れることは、恥でもなんでもないですし、自分が親に対して冷たいなどと考える必要もまったくないと思います。

もしかしたら、自宅で親を介護するのは、介護する側の自己満足になっているかもしれません。

もしかしたら、介護される側も、身内に介護されていることに、精神的に疲れ果てているかもしれません。

 

これからますます高齢者が増えていきますが、60歳を超えたら、自分が年老いた時にどうしたいかを子どもに伝えておきませんか。経済的な準備も始めなければならないでしょう。

もちろん、子どもに面倒を見てもらいたいというなら、そう伝えるといいのです。子どもにも物心両方の準備が必要ですから。

兄弟がいる場合は、兄弟間での争いにならないように、書いたものにして残しておくことが大切だと思います。

今親を介護されている方、これから介護される立場になるであろう方、これから介護する立場になるであろう方、老老介護という状態が、本当にお互いのためになるのかどうか、じっくり考えてみませんか。

 

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