中国特許判例紹介(29) 中国における禁反言の適用 (第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介(29) 中国における禁反言の適用 (第1回)

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中国特許判例紹介(29)(第1回)

中国における禁反言の適用

~請求項を削除した場合の均等論と禁反言の適用~

 

2013年10月15日

執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁

 

中誉電子(上海)有限公司

                   再審請求人(一審原告、二審上訴人)

v.

上海九鷹電子科技有限公司

                           再審被請求人(一審被告、二審被上訴人)

 

1.概要

 中国においても日本及び米国と同様に均等論[1]を主張することができる。一方、審査段階または無効宣告の過程において出願人または特許権者が一旦権利範囲を放棄する補正または意見陳述を行った場合、当該放棄した事項について、再度権利を主張することを禁じる禁反言の法理も存在する。

  禁反言の法理については司法解釈に以下のとおり規定されている。

 

 司法解釈[2009]第21号第6条

 特許出願人、特許権者が特許授権または無効宣告手続において請求項、明細書について補正または意見陳述することによって放棄した技術方案について、権利者が特許権侵害紛争案件において改めてこれを特許権の技術的範囲に加えた場合、人民法院はこれを支持しない。

 

 本事件では、請求項1~3に基づき権利侵害を主張したところ、被告から無効宣告請求がなされ、請求項1及び2は無効となり、従属請求項3のみが有効と判断された。上海市高級人民法院は、特許権者は請求項1及び2の範囲を無効宣告請求の過程において放棄したことから、禁反言が成立し、請求項3についてはもはや均等論は主張できないと判断した[2]。最高人民法院は、請求項1及び2の削除では請求項3に記載の技術特徴を放棄したとはいえないことから、均等論上の侵害を認めた[3]

  

2.背景

(1)特許の内容

 田瑜、江文彦は「操舵機」と称する発明創造について、2007年4月17日国家知識産権局に実用新型特許出願を行い、2008年2月13日実用新型特許を取得した。特許番号はZL200720069025.2(以下、025特許という)である。実用新型特許成立後、実用新型特許権者は025特許について、中誉電子(上海)有限公司(原告)に専用実施権を許諾した。

 

 025特許は、模型ヘリコプター及び模型飛行機等に用いられる操舵機について権利化している。参考図1は原告商品の一例[4]である。

 

 参考図1 原告商品

 

 025特許の請求項1~3は以下のとおり。なお符合は筆者において付した。

 

“1.模型操舵機において,

 支持台10、電動機20、ガイドスクリュー30及びスライドブロック40を含み,

 前記支持台10は電動機台11及びスライドブロック台12を含み,

 前記電動機20は前記電動機台11内に設けられ,前記電動機20の一端に主動歯車50が設けられており,

 前記ガイドスクリュー30は縦向きに前記スライドブロック台12を貫いており,前記ガイドスクリュー30の一端に従動歯車60が設けられており,

 前記主動歯車50及び前記従動歯車60は相互に噛み合い,

 前記スライドブロック40は前記ガイドスクリュー30上を貫いており,かつ、前記スライドブロック40は伸びており,前記ガイドスクリュー40の底面にブラシ70を設けてある

 ことを特徴とする模型操舵機。

 

2.前記支持台10上に,操舵機駆動回路板80上に固定する固定孔13が設けてある

 ことを特徴とする請求項1に記載の模型操舵機。

 

3.前記操舵機駆動回路板80上に,線形の炭素膜81及び銀膜82が印刷されており,前記支持台10は、固定孔13を通じて前記操舵機駆動回路板80上に固定され,かつ前記スライドブロック40底面上のブラシ70と該炭素膜81及び銀膜82が相互に接触する

 ことを特徴とする請求項2に記載の模型操舵機。

 

 参考図2は025特許に記載された図面である。

 

 

参考図2 025特許図面

 

 スライドブロック40が左右に動く際、底面に設けられたブラシ70も左右に動く。この際ブラシ70は、炭素膜81及び銀膜82と相互に接触し、ポテンショメータとして機能する。



[1]司法解釈[2001]第21号第17条

 専利法第56条第1項にいう「発明特許権又は実用新型特許権の技術的範囲は、その権利請求の内容を基準とし、説明書及び図面は権利請求の解釈に使うことができる」とは、権利の技術的範囲は、権利請求書の中に明記された必須技術特徴により確定される範囲を基準とすることを指し、それには当該必須技術特徴と均等の特徴により確定される範囲も含むものとする。

 均等な特徴とは、記載された技術的特徴と基本的に相同する手段により、基本的に相同する機能を実現し、基本的に相同する効果をもたらし、且つ当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴を指す。

[2] 上海市高級人民法院2010年判決 (2010)沪高民三(知)終字第53号

[3] 最高人民法院2012年4月12日判決 (2011)民提字第306号

[4]中誉公司HPより 2013年10月4日http://www.helang.com/



→(第2回へ続く)

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