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対象:特許・商標・著作権
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中国における均等論の解釈
~日本企業が均等論を主張され敗訴した事例~
中国特許判例紹介(33)(第2回)
2014年5月9日
執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁
裴永植
原告
v.
ソニー(中国)有限公司
被告
4.中級人民法院の判断
争点:機能及び効果において相違が無く均等である。
(1)請求項の前段部分または無効とされた部分の均等解釈
被告は、現有技術の存在により請求項1及び2は無効となったことから、請求項6の部分で均等を考えるべきで、請求項1及び2の均等論は認めるべきではないと主張した。すなわち本事件では請求項6による権利侵害主張であるが、均等が問題となっている構成要件は無効宣告請求により無効となった請求項2の構成要件E及びFであった。
請求項は一般に、前段部分(おいて書き部分)と、特徴部分とにより構成され、前段部分は発明創造について、最も近い現有技術と共通する技術特徴であり、特徴部分は発明創造と現有技術とを区別できる技術特徴である。
中級人民法院は、全ての技術特徴は、境界を定める請求項の保護範囲中、共に同一の作用をもたらすことから、均等論は、特徴部分に限られることなく前段部分においても適用されると判示した。
本案における請求項1及び2は無効とされ、請求項6は有効とされた。請求項6の保護範囲は2つの技術特徴により組成されている。前段部分の技術特徴は請求項1及び2の全部の技術特徴、すなわち技術特徴A,B,C,D,E,F,G、一方、特徴部分の技術特徴はH,Iである。
これらのいずれも技術上の特徴が存在し、必ずしもその前段部分、または、特徴部分であることを理由に区別して対処することはない。以上の理由により、少なくとも現有技術の部分については、均等論を適用すべきでないという被告の主張を退けた。
(2)構成要件E及びFの均等判断
原告は、第一スピーカ部分であろうと第二スピーカ部分であろうと、電池収容部分は第一ケースを含んでおり、ただ単に位置が異なるだけであり均等侵害が成立すると主張した。
一方被告は、明細書実施例の以下の記載に着目した。
「図3,4,5,6aにおいて、第一ケース100は電池収容部分130を形成し、電源として電池140を収容するのに用いられ、該電池収容部分130は、蓋150により開閉する。」
被告は当該記載から、本特許のケース機構は、特定の「電池を交換するのに便利である」という特定の効果を奏すると主張した。
原告は米国でも特許を取得しており、米国特許の請求項1の内容と、中国の請求項2の内容とは同一であり、そのファミリー特許の意見書からすればケース構造の組み合わせは、配置に工夫を凝らしており、特定の機能及び作用をもたらし、第一ケースは第一スピーカ部分にあり、かつ第二ケースと連接することで、MP-3プレーヤに、「電池を交換するのに便利である」という特定機能をもたらし、これこそがまさにファミリー特許の発明の目的であると被告は主張した。以上の理由により、被告は、イ号製品中、原告が指摘した技術特徴E、Fは均等特徴を有さないと主張した。
これに対し、中級人民法院は、特許明細書及びファミリー特許の意見書中において、原告は、第一ケースの位置、第一ケースと第二ケースとの連結関係に対し限定を行い、かつ、3つのケースの連結の技術目的に対し説明を行っているが、必ずしも電池収容部分の第一ケースを第二スピーカ部分に置くという部分の技術方案を放棄していないと述べた。
その上で、イ号製品が、リチウムイオン充電電池をもって、簡単に交換できる電池に取り替えている以上、電池収容部分を含む第一ケースが第一スピーカ部分に置かれるか否かは既に重要ではないと述べた。このような前提下、イ号製品の技術方案は、電池収容部分を含む第一ケースを第二スピーカ部分に置くという技術手段を採用しているので、第二ケースと第一ケースとの間の連結関係は存在しない。
中級人民法院は、イ号製品の電池の位置は変更されているが、当該変更によってイ号製品が発揮する機能は必ずしも変更されておらず、突出した実質性効果をも有さず、基本的に同一の技術手段をもって、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果を達成しており、当業者からすれば創造性労働を経ることなく連想できると判断した。
以上の理由により、中級人民法院はイ号製品と請求項6の技術特徴E、Fは均等であり、請求項6の保護範囲に属すると結論づけた。
5.結論
イ号製品は請求項6の技術的範囲に属することから、中級人民法院はイ号製品の販売差し止めを認める判決をなした。
6.コメント
中国では均等論による侵害主張は頻繁に行われており、当該主張を認める判決も多い。特に日本と異なり、均等を主張する部分が非本質的部分であることは要件とされていないことから、比較的容易に均等侵害が認められる。また本事件で判示されたように請求項の前段部分(おいて書き部分)でも均等論の主張が認められる。
本事件では、構成要件Eに示すように、第一スピーカ部分に設けられた電池収容部を、第二スピーカ部分に設けることが均等か否か争点となり、実質的に同一の機能、効果等を奏する事から均等と認定された。
しかしながら、構成要件Fでは、第一スピーカ部分の第二ケースと第一ケースとが連結される旨記載されており、第一ケースを第二スピーカ部分に移動するとすれば、第二ケースと第一ケースとが完全に分離されてしまうこととなる。耳に取り付けられる左右のスピーカ部品を相互に直接連結することは不可能であるから、構成要件Fに着目すれば、イ号製品は実質的に同一の手段を用いているとはいえないと考える。この点を上級審で争えば、判断が覆る可能性が十分あるのではないかと考える。
本件韓国の特許権者は中国及び米国等で特許を取得しており、その上で中国を訴訟地として選択した。中国では米国と比較し訴訟コストがそれほどかからず審理スピードも速いことから、中国での訴訟を選択したと思われる。
以上
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