上場株式の買取請求の申立人適格と社債等振替法、その2 - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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上場株式の買取請求の申立人適格と社債等振替法、その2

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 最決平成24328日・ 民集第6652344頁、ジュリスト平成24年度重要判例解説99頁、判例タイムズ1376号140頁

 

 1 振替株式について会社法116条1項に基づく株式買取請求を受けた株式会社が,会社法117条2項に基づく価格の決定の申立てに係る事件の審理において,同請求をした者が株主であることを争った場合には,その時点で既に当該株式について振替機関の取扱いが廃止されていたときであっても,その審理終結までの間に社債等振替法154条3項所定の通知がされることを要する。

2 会社法116条1項に基づく株式買取請求をした株主が同請求に係る株式を失った場合,当該株主は会社法117条2項に基づく価格の決定の申立ての適格を欠くに至り,同申立ては不適法になる。

 

 

1 本件は,Yの普通株式を全部取得条項付種類株式とする定款変更に係る株主総会の決議についての反対株主であるとするXらが,Yに対し,株式買取請求をしたものの,その価格の決定につき協議が調わないため,会社法117条2項に基づき,それぞれ当該株式の価格の決定の申立てをした事案である(以下,本件の買取請求に係る株式の価格の決定の申立てを「本件買取価格の決定の申立て」という。)。

 Yは,Yの普通株式は全部取得条項付種類株式となり,Yによる当該株式の取得の効果が生じたことなどにより,Xらは株式を保有しないこととなったから,買取価格の決定の申立てをすることはできないと主張し,また,Yの株式が「社債,株式等の振替に関する法律」(社債等振替法)128条1項所定の振替株式であったことから,当該株式についての株式買取請求をする際に,同法154条3項所定の通知(以下「個別株主通知」という。)がされることを要するところ,Xらについて個別株主通知がされていないために本件の申立ても不適法になるなどと主張して,Xらの申立てを争った。

 2 事実関係等は次のとおりである。

 (1) Yは,大阪証券取引所市場第二部にその株式を上場していたところ,その発行に係る普通株式は,平成21年1月5日に振替株式となった。

 (2) 平成21年6月29日に開催されたYの株主総会における決議等によって,Yの普通株式を全部取得条項付種類株式とし,その取得対価としてA種種類株式を一定の割合で交付する旨の定款変更をし,その効力発生日を同年8月4日とすること,取得日を平成21年8月4日と定めて全部取得条項付種類株式の全部を取得することとされた。

 (3) Xらは,平成21年7月11日,会社法172条1項に基づき,全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをしたが,同月30日,さらに,同法116条1項に基づく株式買取請求をし,同年9月30日に本件買取価格の決定の申立てをした。この審理において,Yは,Xらについて個別株主通知がされていないことを理由に,本件買取価格の決定の申立てが不適法であると主張した。

 (4) なお,Yの株式は,平成21年7月29日に上場廃止となり,同年8月4日,振替機関による取扱いが廃止された。同日までに,Xらは,個別株主通知の申出をしておらず,Xらについて個別株主通知がされることはなかった。

 3 原審は,本件の株式買取請求は,Yの普通株式が全部取得条項付種類株式となったことを前提とする本件取得価格決定の申立てと相矛盾する行為であるとして,本件買取価格の決定の申立ては不適法となると判断し,申立てを却下すべきものとした。

 4 本決定は,職権により,決定要旨1のとおり判断し,さらに,Xらの抗告理由について決定要旨2のとおり判断し,本件買取価格の決定の申立てを却下すべきものとした原審の判断は,いずれにせよ結論において是認することができるとして,Xらの抗告を棄却した。

 5(1) 決定要旨1について

 最三小決平22.12.7民集64巻8号2003頁(以下「平成22年決定」という。)では,会社法172条1項所定の取得価格決定申立権について,社債等振替法154条1項,147条4項所定の少数株主権等に該当するとした上で,会社において申立人が株主であることを争った場合には,審理の終結までの間に個別株主通知がされることを要すると判示している。

本決定では,会社法116条1項所定の株式買取請求権についても,その権利内容などから,同法172条1項所定の取得価格決定申立権と同様に「少数株主権等」に該当するとして,同様に個別株主通知が必要となる旨が示された。

 会社法116条1項所定の株式買取請求権が少数株主権等に該当して同請求権行使の際に個別株主通知を要すること自体は,学説上もほぼ異論がないところであった。

会社法117条2項所定の買取価格の決定の申立権を行使する場合に個別株主通知を要するといえるかについては,買取価格の決定の申立権が少数株主権等に該当するとする説もあった(葉玉匡美=仁科秀隆『株券電子化ガイドブック』338頁)が,既に行使された株式買取請求権に関して具体的な買取価格の決定を求めるものであって別個の権利行使ではないとの見解が一般的であると思われる(浜口厚子「少数株主権等の行使に関する振替法上の諸問題」商事1897号37頁など)。

本決定は,買取価格の決定の申立てにおいて別途、個別株主通知をすることは不要であるとの考え方である。

 なお,平成22年決定については,当該申立てに係る株式について振替機関の取扱いが廃止され,個別株主通知をすることができなくなった後に対抗要件をどのように考えるのかは残された問題であるとした上で,振替機関の取扱いが廃止されて個別株主通知ができなくなる以上,会社法の原則(130条1項)に戻り,株主名簿の記載又は記録により対抗要件の有無が決せられるとの考え方を示す評釈もある(仁科秀隆・商事1929号11頁,吉本建一・金判1373号5頁)が,平成22年決定は,個別株主通知が必要である場合について限定を付していないから,個別株主通知ができる時点までにすベきであるとの前提で判断されたものと解される。

本決定では,個別株主通知の必要性について、振替機関の取扱いが廃止されるまでの間に個別株主通知をしなければならないことが示されているが,上記のような疑義が示されていたことを踏まえ,注意的に判示したものである。

 (2) 決定要旨2について

 原審は,取得価格決定の申立てと株式買取請求とは相矛盾する行為であるとして,取得価格決定の申立てをした者において株式買取請求をすることはできないと判断したが,本決定では,原審の考え方が否定された上で,本件のような場合の株式買取請求権がどのように取り扱われるかについての判断が示された。

 株式を全部取得条項付種類株式とする旨の定款変更をして,会社が当該株式を取得する場合には,取得価格決定の申立権及び株式買取請求権の双方の権利行使が可能であるが,両者の関係についてはほとんど論じられていない。

旧商法下の株式買取請求権について,当該株式の株主たる地位にある限りでの救済方法にとどまり,当該株式を第三者に譲渡するなどの場合には,株式買取請求権を行使することによる売主たる地位は第三者に移転しないとの考え方が示されていた(鈴木忠一「株式買取請求手続の諸問題」『会社と訴訟(上)』149頁)。本決定では,会社法116条1項や117条2項の文言なども踏まえ,同様の考え方が採用された。

そして,株式買取請求権が行使されても,全部取得条項付種類株式の会社による取得の効果の発生は妨げられないと解されることから,当該取得により,株式買取請求をした者は当該株式を失い,買取価格の決定の申立ての適格を失うこととなる旨の判断が示されたものである。

 6 本決定は,いずれの論点についても最高裁として初めて判断が示されたものであり,実務上重要な意義を有すると思われる。

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