- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
第1部 総論
第1 はじめに
我が国全体の平均年齢が高齢化している状況において中小企業の経営者もその例外ではなく、その平均年齢は60歳に手が届きつつあります。
そして、中小企業の経営者の引退予想年齢は平均67歳であるといわれています(事業承継協議会事業承継ガイドライン検討委員会『事業承継ガイドライン』)。
そこで、多くの中小企業の経営者は10年以内に迫る自らの引退を認識し、事業承継の準備に取り組むべきであることを今、まさに認識しておられます。
しかし、事業承継の準備といっても、多くの経営者は後継者の決定のみにとどまり、具体的な対策をするまでに至っていないのが現状です。
このような背景には、事業承継といっても検討しなければならないことが多岐にわたること、現経営者にとって将来発生可能性のある問題の対策は後回しになりやすいこと、現経営者に万一のことがあることを前提とした議論をせざるを得ないため、周囲からその対策を促しにくいこと等があります。
本書を活用して、現経営者は自らの引退年齢を見据え、税理士や弁護士といった専門家の力を借り、健康なうちに計画的に事業承継の具体的な対策を進めておく必要があります。
第2 事業承継とは
1 事業承継の意義
事業承継とは、法律的にみれば、現経営者の有していた法律上の地位(経営権、財産権)を後継者に引き継がせることと定義することができます。
事業承継の具体的な対策を採らなかった場合、どのようなことになるでしょうか。
まず、相続財産をめぐるトラブルが発生し、会社経営に混乱を来すことが考えられます。すなわち、後継者以外の相続人と後継者との間で、会社財産をめぐって争いが生じ、これが会社経営に影響を与えることとなります。
また、後継者が決定していない場合、後継者のポストをめぐって役員・従業員間で争いが生じ、その間に会社経営が傾くことも考えられます。
このように、事業承継は会社の継続的な発展の鍵となっているといえます。
中小企業における事業承継とは、現経営者にとって、最後に行うべき一大プロジェクトと据えられるべきです。
2 事業承継の3つの側面
中小企業の事業承継には、以下の3つの側面が見られます。
(1)オーナー株主変更としての側面
中小企業の経営者の多くは、自社株を保有し、オーナー株主となっています。後継者が従前の会社経営をそのまま引き継ぐためには、この自社株を引き継がなければなりません。
しかし、この自社株は財産権としての意味合いを持ち、現経営者の個人資産の一部となっているため、後継者以外の相続人との公平を考える必要があります。自社株の承継により、後継者以外の相続人の遺留分を侵害すれば、その相続人から遺留分減殺請求を受けることになります。
そこで、後継者は現経営者の生前に自ら分散している株式を買い取ったり、現経営者の側で、後継者の株式以外の株式に議決権の制限を加えたり、新株を発行することにより、後継者にオーナー株主としての立場を承継させます。
(2)事業用資産の所有者変更としての側面
中小企業においては、経営者の個人資産が事業用に用いられています。中小企業庁が実施したアンケート調査(「中小企業の事業承継の実態に関するアンケート調査平成18年10月」)によれば、中小企業経営者の個人資産に占める事業用資産の割合は、6割を超えます。現経営者の個人資産につき相続が開始し、事業用資産としての使用が継続できなくなれば、会社は経営を維持することができなくなる事態もありえます。
そこで、現経営者は会社経営に不可欠な個人資産を後継者に確実に承継させるか、または後継者を含む相続人間で当該個人資産の利用形態について合意を形成させておく必要があります。
(3)経営者変更としての側面
中小企業の場合、その経営者は、経営のトップとして経営力や技術力について、個人的な信用を得ていることが多いといえます。このことは、対外的な信用のみならず、対内的に会社の経営体制面においてもいえます。すなわち、中小企業の多くは、現経営者が目をかけて教育してきた幹部が一枚岩となり、現在の足並みの乱れにくい経営体制を築き上げているのです。
したがって、事業承継が行われるということは、会社内外において非常に大きな存在である経営者が交代するということであり、その影響は重大です。
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