債権・債務以外の財産の共同相続

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公開日時
2012/09/30 06:13

4 その他の遺産の共同相続

(1)株式

 株式が相続財産に含まれる場合,その株式は,共同相続人間で,その相続分に応じて,当然には分割されません。すなわち,株式はすべて,その相続分に応じて,相続人の共有となります。最判昭和45・1・22民集24巻1号1頁も株式を相続人が共有することを前提としています。

【事例】における被相続人甲が保有していた700株の株式はすべて妻乙,長男丙,次男丁の共有となります。そして,共有株式の議決権の行使をするためには,共同相続人間で権利を行使する者を一人選定し,会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければなりません(会社法106条)。この権利を行使する者の選定方法についてですが,共有持分者の持分による多数決で決することができるとされています(最判平成9・1・28判時1599号139頁)。

 【事例】において被相続人甲が長男丙を後継者にしようと考えていたとしても,次男丁が被相続人の妻乙と手を組むことによって,持分の3/4を占めることができますから,これらの共有株式を自由に行使されてしまいます。

 なお,権利を行使する者の選定を欠く場合には,共有者全員が議決権を共同して行使する場合(最判平成11・12・14判時1699号156頁),または,議決権の不統一行使,一部の者による訴権の行使等,会社がその他の形の権利行使に同意した場合(会社法106条但書)を除き,誰も権利行使することができなくなります。

(2)金銭

 金銭については,相続人は,遺産分割までの間は,相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して,自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできません(最判平成4・4・10家裁月報44巻8号16頁)。この判決には理由づけが示されていないため,判例がかかる結論に至った根拠は必ずしも明らかではありません(金融・商事判例896号13頁)。私見によれば,動産と同様に遺産共有の状態にあると考えたようです。有力説によれば,金銭が当然に分割帰属すると,遺産分割で金銭を調整に使うことができなくなり不便であるとされます(内田貴『民法Ⅳ補訂版』404頁)。【事例】において被相続人甲が自宅の金庫に保管している現金500万円について,相続人は,遺産分割までの間,その支払を求めることはできません。

なお,遺産管理人名義で銀行に預金されたとしても,相続開始時にさかのぼって金銭債権になるわけではありません(前掲最判平成4・4・10)

(3)不動産

ア 処分行為

 不動産については,相続分に従った共有状態になります(民法898条)。そして,共有物となった不動産を処分する行為(売却や抵当権設定など)には,共有者全員の同意が必要になります(民法251条)。

 ただし,共有物そのものの処分ではなく,各相続人が有する共有持分については,各相続人が自由に処分することができます(最判昭和38・2・22民集17巻1号235頁)。

イ 管理行為

 管理行為(賃貸借契約の締結・解除等)については,各共有者の持分の価格に従って,その過半数で決定することができます(民法252条本文)。

 相続財産の管理に要する費用は,「相続財産に関する費用」として相続財産から支弁するものとされています(民法885条1項)。

ウ 保存行為

 保存行為(家屋の修繕や税金の納入等)については,各共有者が単独ですることができます(民法252条但書)。

エ 会社の事業用不動産の場合

 【事例】のように,被相続人甲が会社に土地を賃貸していて,会社の事業用資産になっている場合には,その不動産は相続人の共有不動産となります。したがって,その管理行為については,持分の過半数により決せられます。後継者がその持分の過半数を取得できるような状態での共有であれば,問題は生じにくいですが,【事例】のように後継者である長男丙が1/4の持分しか取得できないと,次男丁が被相続人の妻乙と手を組み,土地の賃貸借契約を解除されたくなければ,自己の共有持分を買い取るよう,後継者である長男丙に迫ってくることも予想されます。

 そこで,被相続人は,遺言を利用することによって(相続分の指定,遺贈,遺産分割方法の指定等),会社の事業用不動産が安定的に利用できる状態を保つ必要があるのです。

このコラムの執筆専門家

村田 英幸(弁護士)

村田法律事務所 弁護士

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村田 英幸
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