堀江 健一
ホリエ ケンイチグループ
愛着障害4 心のフタ 心のブレーキ
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人に甘えられない、甘えてはいけないと思っている方へ
●心にフタをしてしまう理由
愛着障害に関して連載しています。
前回は、家庭内でのこんな環境や状況が、かなり大きく親子の愛着関係や恋愛における愛着関係に問題を生ずる例をご紹介しました。
環境とは別に、親や周囲の人たちの言動が、子供の心に影響を及ぼすことがあります。
例えば、
転んでしまい痛かったり不安で泣いている子供に対して、親がイライラしてしまい、「何で泣いているの!痛くなんて無いでしょ!泣く理由なんてないでしょ!泣いちゃダメ!」と叱りつけてしまったり、
辛いことや嫌なことがあっても、「もっとがんばりなさい!」「そんなことで弱音をはいちゃだめでしょ!」と叱咤されることで
ありのままのその子供の感情を否定されてしまうことがあります。
もちろん親は励ましの気持ちがあることもあるのでしょうが、あまりに「理想的な子供であれ!」と理想を押し付けて、大人でも愚痴を言いたくなるような場面でさえ気持ちを理解してもらえず、
自分のありのままの感情を否定されてしまうことが日常的になると、
もう自分の気持ちや感情を口に出すのが難しくなってしまいます。
伝えてもわかってもらえないばかりか、そうじゃないでしょ!それじゃだめでしょ!と怒られてしまったりするのですから、助けて欲しいことがあっても「助けて」とも言えなくなってしまいます。
心を閉ざし、心にフタをしてしまうのです。
そしてやがて「自分の気持ちなんて、誰もわかってくれないんだ」と諦め、自分でも自分の気持ちがよくわかないような状態になってしまうことがあります。
専門的には「抑圧」「失感情症」とか「乖離」と呼ばれる心の状態です。
その具体的な流れの例は「視覚探偵日暮旅人4 人はなぜ自分が何をしたいのかわからなくなってしまうのか?」
●心にブレーキがかかる理由
「心にブレーキがかかる」「心のブレーキをはずす」と言う言い方があります。
なにか自分でやりたいことがあっても、その気持ちにブレーキがかかってしまうような感覚で、それをしてはいけないような気がしてしまい、やれない状態になることです。
人と仲良くなりたいなと言う気持ちがあったとしても、人を避けてしまう状態になって親密になる事から回避してしまうこともあります。ブレーキがかかつてしまうのです。
「自分が近寄ったら迷惑に思われるんじゃないだろうか?」と思ってしまったりして。
そんな自分の感情を感じることや、欲求することを禁止されてしまったようなことになるのです。
しかし、大抵は自分がそんな状態になっていることの自覚はなく、なんとなく無気力感を感じていたり、虚無感を根底に感じていたりするものです。
気持ちが鈍くなっていたり、気持ちを言えない状態は、人を弱くしてしまいます。
ある種のいじめのターゲットにもされやすくなってしまうと思われます。
元気があって人気者だったためにいじめっ子に嫉まれていじめにあうパターンなどもあるでしょうが、それとは別種のいじめですね。
いじめにあった子供はなかなか親にも言えないと言われます。
その理由として
●いじめっ子からの報復が怖いから
●自分がいじめられるような弱い子供だと、自分で認めたくないから
などが考えられていますが、私は他にも上記のような「心にフタ」をしてしまったような子供が、助けを求めても「いじめられるようなあんたが悪いんでしょ!」と怒られてしまうような気がして、怖くて助けも求められない例も多いのではないだろうかと思います。
実際クライアントさんの話の中でもいじめにあって親に相談したら、そんな風に言われて傷ついてしまった、
そんな風に言われそうだから、とても親には言えなかった
と言う心情を良く伺います。
相当辛い状況です。
家にも外の世界にも、自分の味方になってくれる人がいない事になってしまうのですから。
●人に甘えられなくなる
子供は、他の家庭の親がどんな時に、どんな対応をするのか知りません。
自分の家しか知りませんから、他の親だったらもっと共感してくれる事もあることを知りません。
自分の家、自分の親だけが世界のすべてなのです。
ですから、自分の親がそうなのだから、外の世界の他人だって、自分の気持ちなど誰も共感も理解もしてくれないと思い込み、大人になってからもその観念が根強く生き続けることになります。
運よく良い友人や先生に恵まれ、「外の世界はもっと違うんだ」「自分は受け止めてもらえるんだ」と観念が変わる機会が持てた人は大変幸運だと言えるでしょう。
大人になったら人に甘えてはいけません!とも言われがちですが、適度に甘えたり依存できるのも大人です。
心にフタをしてしまっている人は、最低限の人に甘えることにも抵抗を感じ、孤独になりがちになってしまいます。
しかもそうであることが正しく、守らなければいけないことだと考えているので、他人は人に甘えても良いけど自分はそんなことをしてはいけないのだと信じています。
無理もありません。親にさえ甘えてはいけなかったのですから、他人に甘えることなど許されません。
困ったことがあったり、助けて欲しい場面や、「こうしたいな」「こうして欲しいな」と思うような要望も、人に甘えることのように捉えてしまっていたりします。
そして何事も「自分一人でなんとかしなければ、自分さえ我慢すれば」と一人でがんばってしまい、ますます生き辛くさせてしまいます。
とても頑張り屋さんで、我慢強いわけですから、周りからの評価も良いかも知れません。
欲があまりないので、本当なら人とぶつかることもなく、表面上ドライな付き合いだけで平穏かも知れません。
そもそもあまり人と関わるのが苦手だったり、関わりたくないと思う人も多いでしょう。
処理能力があれば、特に感情や欲求など無くても、事務的な情報の交換さえしていれば仕事は出来ます。
人が嫌がる仕事も請け負い、人一倍忙しく、仕事量もこなしておられるかも知れません。
むしろ嫌な仕事ばかり押し付けられてしまったり、理不尽な扱いを受けてしまう場合もあるかも知れません。
人には頼めない、頼まないのですから。
しかし、本人は誰も知らない生き辛さを抱えていたりするのです。
本人さえそんな辛さを抱えているとわかっていないかも知れません。
それが自分には当たり前なのだと思っているからです。
どちらかと言えば、感情など無い方が生きるにも仕事をするには便利かも知れません。
ただ、食べて仕事して、寝るだけなら、生活する上でなんら困る事は無かったりするのです。
●甘えることの大切さ
しかし、プライベートの人間関係に於いて親密さや愛と言うものに関わる場面、つまり恋愛事に関して、
もし心にフタをしていて何も感じられない、伝えられない、甘えられないと、
それはとても問題が表面化することとなります。
「好きか嫌いか?」「やりたいかやりたくないか」も「どうしたい」「どうして欲しい」と思っているのかも、わからないことになってしまうからです。
人間関係で、相手が何を考えているのかわからないようだったり、どうしたいのか?どうして欲しいのか?もわからないような人とは、あまり親密にはなれなかったりします。
人に甘えないのであれば、一人で生きていければ良いと言うことにもなりかねません。
当たり前ですが、自分一人だけで恋愛など出来ないのです。
そもそも愛情表現ももし出来なかったら、相手はあなたが自分をどう思っているのかも不安に思ってしまうでしょう。
やはりクライアントさんの中には、そうした気持ちのやり取り、愛情表現、主張や甘え、要求などが苦手なために、恋愛するのに問題が生じておられる方が多数おられるのです。
一般的に最初の告白のような、お互いがお互いをどう思っているのかまだ確信が持てないような相手に「好きだよ」と言う気持ちを伝えるのは、なかなか勇気がいるものです。
ただでさえ勇気がいるのですから、心にブレーキがかかっている状態ではもっと困難な事になってしまいます。
心の奥底にあるフタを開けてあげる必要があるかも知れませんね。
外の世界の他人と関わって、自分の気持ちを自分でわかってあげて、人にそれを伝えて、わかってもらえて、味方になってもらうような経験が必要となるのではないかと思います。
そのような経験を通して、
「人に気持ちや要望を伝えても良いんだ」
「適度に甘えることも良いんだ」
と学んで、心のブレーキを少しづつ外していけたらと思います。
その安全で安心な外の世界の他人の代表的役割がカウンセラーの役割でもあるのです。
どうしたら良いか?と言う質問に「こうしたら良い」と常識的な正解と思える答えを出してくれる役割も重要でしょうが、カウンセリングではこうした「関係性から学んでいく経験を積む」と言うような、心理的な成長の手助けを担う効果があります。