堀江 健一
ホリエ ケンイチグループ
ナンバーズ 8 実際のカウンセリングの様子の例・前篇
-
アメリカ制作 海外ドラマ ナンバーズ
ナンバーズは「エイリアン」や「グラディエーター」などの映画で有名なリドリー・スコット監督と、トップガンで有名なトニー・スコット監督の兄弟で制作に当たっているFBIが舞台のサスペンスドラマです。
主人公も兄弟の青年達です。
シーズンを重ね、大分オッサンになって来てしまいましたが(笑)
兄であるドンが抱える事件を、弟のチャーリーがコンサルタントとして知恵を出して助けます。
何と言ってもチャーリーは大学の教授でもある数学の天才だったのです!
チャーリーは数学の天才ですが、天才ゆえか少し人と考え方や感じ方が違って、小さいときはドンが随分と苦労してフォローしていたようです。
大人になってからも、数学以外のことはほとんど関心が無く、恋愛には不器用だし、他のFBI仲間からも変人扱いですが、段々と実績を重ね、信頼を得て、絶妙のコンビネーションとなって行きます。
お父さんも建築家であり、理系家族なのですね。
このお父さんも時々ドンやチャーリーにひらめきのヒントを出したりして、アットフォームな雰囲気もありなごみます。
なんたらかんたら数列とか、なんじゃもんじゃ理論とか数学用語が沢山出てきて、そうした数学の確率や法則や分析法を駆使して犯人を割り出したり、犯人が次に狙う場所を特定したり、犯人が潜んでいる場所を絞り込んだりするのがこのドラマの見所です。
今までの私のブログ「ナンバーズ」でも、チャーリーのコミュニケーション下手や兄弟の心理など取り上げて来ましたが、今回は兄のドンがとある事件からカウンセリングを受けると言う展開があったので、そのことについて書いてみたいと思います。
海外ドラマではごく自然にカウンセラーが登場します。
日本のドラマでもたまに出てきます。
しかし海外も日本のドラマも出番も少なく、テレビ的な演出によるカウンセリングなため、カウンセリングと言ってもあまりイメージされにくく、「お話を聞いてくれる先生」「悩みを聞いてアドバイスしてくれる人」くらいの認識しかない方が多いのではないでしょうか?
つまりなじみが無いのですね。
ナンバーズ・シーズン3・第17話 「タイムリミット」ではそのカウンセリングの様子が1話の全編に渡って描かれており、それが非常にリアルなカウンセリングになっているので、ここになるべく正確に会話の内容を紹介してみたいと思います。
ここでドンに対して行われるカウンセリングは、何もFBI捜査官ならではの悩みや、危険な仕事に関する特別な心理に対するものではありません。
ごくごく普通の私たちが抱えがちな、職場での人間関係や、家族に対する想いに関するカウンセリングです。
なかなか実際のカウンセリングの様子をそのまま紹介する事は守秘義務があるためにできませんし、日本では特にヴィデオに録画するやり方もしませんので、本職のカウンセラーでも、他のカウンセラーがどの様にカウンセリングをするのかは、意外と勉強する機会が無いのが実情です。
ここで出てくるカウンセリングでのやりとりは、良い見本になり、どんなものかわかりやすいのではないかと思われます。
(海外ではクライアントの了解を得てカウンセリングをビデオに撮り、研修に役立てたり、チームとして何人かで治療的な分析を行ったりするする所もあるようです)
ドンは、連続殺人を犯した女性教師クリスタルが誘拐して人質に取った部下のミーガン(女性)を助けるために、クリスタルを射殺してしまうことになります。
FBIでは容疑者を射殺した場合、その捜査官はカウンセリングを受けるのが規則になっているようで、しぶしぶ受けることにしますが、本心では形式的に済ませようと思っています。
約束の日にカウンセリングルームに行くと、自分も過去に過酷な現場で捜査官をしていた経歴のある黒人精神科医ブラッドフォード先生が待っていました。
向かって左側が兄のドンです。
右が弟のチャーリー。
★ブラフォード先生です
●ドンです
赤字は私の感想や解説、補足です
★コーヒー飲みますか?カフェイン抜きだ?
●いや、、、あ~コーヒーで。いつもなら仕事している時間なのになぁ、、、
★いつもそんな(時間に追われているような)気分なの?
●俺の時計だと、カウンセリング開始まで、まだあと10分あるんだけど、、、
★ただの雑談ですよ。待ちますか?
●いや、良いんです。あなたも元捜査官ならわかるでしょう?現場にいれば防げる事件もあったかも知れないと思っちゃうんです?
★銃一丁とバッジだけでは、出来ることは限られているんじゃないですかね?
●(ずっと携帯をいじっている)
★携帯はOFFにして下さい。
●いやそれは出来ない。
★いや出来るでしょ。職場じゃないんです。ここでのルールは私が決める。
●、、、。あ~(わかりましたよ)携帯を終う。(そしてソファのひじ掛けに座る)
★私に怒ってます?(無理やりカウンセリングを受けるように命令したことで)
●いや~別に。まぁそうですね、、、ちょっとだけ。
★命令されるのが気に入らないから?
●そりゃそうです。
★クリスタルを射殺した件で、初めてここにカウンセリングを受けに来た時も、私に腹を立てていましたね。
●捜査の途中だっあので、さっさとここを済ませたかったから。
★なら、にっこり笑って、私の機嫌を取るのが早道だったでしょう?
●無意識に助けを求めたとでも言うんですか?
★こうしませんか?お互い、精神分析ごっこは止めましょう。
●わかりました、、、。この5年間、部下の上に立って、命令したもんで、ついそのクセが出てしまったもんで。
★ボスなんですね。部下について話を聞かせて下さい。
あなたがいないときは、彼らが捜査を?
●そう、、、みんな、、、優秀です。
★自信なさげですね?
人の深層心理は会話の内容よりも、その言い方やそれを言うときの顔の表情、しぐさに、より現れるものです。
この場合、ドンの言い方に淀みがあったことと視線が先生のほうを見ず、うつむき気味で話したことで、先生はドンの言っている事と、本音に違いがある。
本当は「自信がないのかな?」と感じたわけです。
●いやぁ、そんなことはない。上司としてあいつらの長所も短所も知っているから。
★代理のリーダーは誰?
●メーガン(一番頼れるドンの右腕の女性捜査官)。
頭が切れて、タフで行動力があって、いつも冷静。
★メ―ガンは、プロファイリングが専門?
●ええ。きっと先生と話が合う。
★あなたは合わない?
●いやぁ心を読むのが彼女ほど上手くないだけで、、、。
★あなただっていつもやっているでしょう?
殺人者の心理を理解できないと、自白は導き出せない。
小児性愛者の動きを事前に知るには、動機を知らないとね。
●そりゃそうなんだが。メ―ガンのはレベルが違う。
★なぜメ―ガンの方が上手いのかな?スキルは同じでしょ?
普通に考えて、リーダーであるドンはもっと自分の方が優秀であると自信を持っていても良いはずなのに、なぜメ―ガンの方が上手いと言うのか少し違和感を感じたようです。
●彼女の場合は、心を読むのが楽しいらしい。
★あなたは?
●いやぁ俺は変態の頭の中を覗き込んで一日終わったら、シャワーを浴びて、全部洗い流したくなる。
★いつもそう?シャワーで流す?
●そう言う時もあります。まぁビールと可愛い女の子の方がもっと良いけど。
まだドンは先生に本音は言えないようです。
言い方に感情がこもっておらず、表情も演技しているかのようによそよそしさが感じられます。
視線はどこか遠くを見つめています。
本当に自分の心の内を言葉に置き換えている時と、取り繕うために本音ではないことを頭で考えて話す時とでは、違いが出るものです。
例えば人が嘘を言うときは、架空の嘘の内容を必死で考えながら話すので、視線が少し遠くを見つめるような、やや上の方に目線が行ってしまいます。
★で、それで、すっかり楽になれる?
●、、、。(自分は本当にそれで楽になれているのだろうか?と、自分に問いただすような表情)
先生に聞かれて初めて、自分の心の内をじっくり見つめ直している様子です。
今までは何となく、自分の感情や感覚で感じている事も、流してしまっていたのでしょう。
★シンクレア(タフな黒人捜査官)が部下になって何年?
●あ~3年。すぐに逃げ出すと思ってた。
★FBIから?
●俺からさ。元は別の組織にいた奴だし。
★信用できなかった?
●う~、、、。でも俺が間違っていました。
今じゃ安心して援護を任せることができる。
何の不安もない。どんな事だって頼める。
部屋に飾ってあった野球のボールを弄びながら話しています。
ほとんど先生の方を見ないでそんなことをしているドンに、言葉と裏腹に、実際には彼のどこかしら不安な胸の内が見て取れます。
★シンクレアはあなたをどう思っている?
●ボスとしては優秀だと思ってくれているでしょう。
ボスとしては、と言う何気ない一言に、「ではボスとしてはではなく、捜査官としては優秀だとは思われていないのではないか?」と、無意識では不安に感じているのではないか?と言う仮説が生まれます。
しかし、先生はそれをすぐには問いただしません。
★それはあなたの考えだ。彼はどう?
●厳しいと感じているかもしれません。でも仕事だとわかってくれていると思う。
★厳しくすると凹んだりする?
●いやぁ大丈夫だ。根に持ったりしないで乗り越えてる。
★あなたはどう?
●シンクレアの話じゃないんですか?(不意に自分のことに話が飛んできて戸惑っている)
★(笑顔で)どっちも同じ話ですよ。
●シンクレアの事は確かに心配です。
ある朝目が覚めて、不意に気が付くんじゃないか?この仕事を長くやりすぎたってことに。
★(この仕事が)長いと(どうなってしまう)?
●シニカルな人間(皮肉に物事を考え、冷笑的・嘲笑的な態度をする人。現実を素直に率直に受け入れられず、自分と現実のギャップをごまかすための逃避的やり方。自虐的になる場合もあるかも知れない)になる。
★シンクレアがそうなりかけていると感じるんですか?
●いや。だが、一度でも迷いが生じたら、、、。
★エジャートン捜査官に尋問を任せた時、あなたも迷いを抱いた?
ドンは自分の判断ミスで凶悪犯罪者クリスタルを射殺してしまったと思っており、自分を責めていて、今もそれを引きずっていることに焦点を当てようとしています。
●(ハッとした表情)
★なぜ知っているのかと聞きたそうですね?ちゃんと知っていますよ。
シンクレアも同じ状況なら、同じことをしたと思います?
●(腕を組んで考えてから)いや、あいつはルールってもの良く知っていて、仕事も良くやるし、必ず何とかする。
(少し微笑みながら嬉しそうに)あいつはそう言う奴だ。
★グレンジャー(チーム内のもう一人の白人捜査官)は新米ですか?
●まだ入局して日は浅いが、新米じゃぁない。
★元軍人でしょう?
●アフガニスタンに行っていた。
★今でも(戦地で受けた心の傷や罪悪感を)引きずっている?
●無くはないだろうが、苦しんだりはしていないと思う。
★そういう点は見習うべきなのでは?(笑み)
●ですね。言えてる。
戦場がどんなだったか、俺には想像も付かない。
★銃撃戦はあったでしょう。部下も亡くした。
●でも(彼の場合とは違って、俺の場合は)戦場じゃぁ無い。
★辛さは同じなんじゃないですか?
●(グレンジャーの辛さと、自分の辛さを、少し客観的に想像して考えている様子)
、、、。
俺より辛い目にあった奴もいるって思いたかったのかも、、、。
ドンは自分の気持ちについて、気付きがあったようです。
前向きに考えて頑張らなければいけないと思っている人や、
自責の念が強い人は、
今の自分を、これではダメだと思ってしまっているので、
自分より辛くても、他の人はもっと頑張っている、
こんなことで自分は辛いと思っていてはいけない、
と考えがちです。
ある程度そう考えることで自分も頑張ろうと前向きになれるのなら、それも良いかも知れません。
しかしそんな辛い気持ちを他人と比べて、
自分の辛い気持ちを軽く考えようとしてしまうことは、
精神的には良いこととは言えません。
自分の辛い気持ちと向き合えていない、
自分の本心を受け入れられていないことになります。
そんな風に自分の気持ちをコントロールしようとしてしまっていた事に、自分で気付く事は、治療上大変重要なことです。
ここで肝心なのは、そういうコントロールを自分でしていたことに自分で気付く事ができるかどうかです。
先生が自らそう告げてしまうのではなく、自分で気付かせてあげるところがカウンセリング上重要な事です。
自分で気付いたことは、自分ですごく納得でき、腑に落ちることだからです。
先生はじっくりとドンが自分で気付けるように誘導しています。
そして「あなたは過剰に自分で責任を背負ってしまっているのではないですか?」とドンの味方として先生は意見を述べることで、ドンの重荷を軽くしてあげようとしているのです。
どうやら少しづつドンと先生には信頼関係が築けてきたようです。
続く
もし少しでもお役に立てたようでしたら、応援ポチお願いいたします。
にほんブログ村
心理カウンセラー ブログランキングへ