2 特別受益の評価方法
特別受益と評価されるか否かついては,特別受益制度の趣旨が,生前贈与や遺贈による「遺産の前渡し」により,相続人間の公平が害されることを防止することにありますから,「遺産の前渡し」と評価できるかによって判断されます。同じ額でも当事者によって,特別受益と評価される場合や評価されない場合があります。
特別受益となる財産の価額の評価基準時は,相続開始時か遺産分割時かについて争いがありましたが,「遺産の前渡し」としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより,共同相続人間の公平を維持することを目的とする特別受益制度の趣旨から,相続開始時説が確定した解釈となっています(最判昭和51・3・18民集30巻2号111頁は,贈与された金銭について,相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきであるとしています)。
【事例】における被相続人甲が,後継者とした長男丙に対して,生前に自社株を贈与していた場合に,これが特別受益と評価されれば,この贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,これに各相続人の法定相続分を乗じ,そこから贈与の価額を差し引くことにより,具体的相続分が算出されることになります。
そして,贈与時に3千万円の価値があった株式が,甲の死亡時に1億円に上昇していた場合,贈与時(3千万円)ではなく,相続開始時(1億円)の評価で持戻しが行われることになります。
【事例】における「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」を3億円とした場合,長男丙の具体的相続分額は以下のようになります。
具体的相続分額=(3億円+1億円)×1/2×1/2-1億円 =0円 |
しかし,特別受益となる財産の価額の評価基準時を相続開始時とすると,長男丙は経営努力によって贈与時3千万円の株価を1億円まで上昇させたにもかかわらず,具体的相続分は,その企業努力により減少することになり,後継者の意欲を阻害することになりかねません。
そこで,後述する「持戻しの免除」の方法や中小企業承継円滑化法の固定合意の制度が認められています。
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