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河野 英仁
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米国特許:KSR最高裁判決後自明性の判断は変わったか?(8)(6回)

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米国特許判例紹介:KSR最高裁判決後自明性の判断は変わったか?(8)(第6回)

~先行技術要素の組み合わせと後知恵~

米国特許判例紹介 

In re Richard F. Schwemberger

河野特許事務所 2011年3月1日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

4.CAFCの判断

予期できる効果を伴い、公知の方法に従って公知の要素を組み合わせた場合、自明である。

 CAFCは、第1先行技術に第2先行技術を組み合わせても予期できる効果の範囲内であることから自明であると判断した。

(1)非自明性判断基準

 自明か否かの判断においては、Graham最高裁判決[1]において判示された下記事項をまず検討する。
(a)「先行技術の範囲及び内容を決定する」
(b)「先行技術とクレーム発明との相違点を確定する」
(c)「当業者レベルを決定する」
(d)「2次的考察を評価する」(例:商業的成功、長期間未解決であった必要性、他人の失敗等)
 これらを総合的に考慮して当業者にとって自明と判断した場合、出願を拒絶するが、そのためには審査官は、明確な理由付けが必要となる。2010KSRガイドラインにはその理由付け例として以下の7つの例を挙げている。
第1:予期できる結果を奏するために、公知の方法に従い先行技術を組み合わせたにすぎない
第2:予期できる効果を得るために、単に公知の要素に置換したにすぎない
第3:同様の方法で、類似の装置(方法または製品)を改良するために公知の技術を用いたにすぎない
第4:予期できる効果を奏するために、改良可能な公知の装置(方法または製品)に公知の技術を適用したにすぎない
第5:自明の試み(obvious to try)にすぎない。つまり、成功の合理的期待をもって、有限の予期できる解決法の中から選択したにすぎない
第6:デザインインセンティブまたは他の市場圧力を受けて、努力傾注分野における公知の作業により派生したものにすぎない。ただし、その派生が当業者にとって予期できることが条件である。
第7:先行技術中に変形または組み合わせのための教示、示唆または動機付けが存在する

 

(2)組み合わせのための動機

 原告は第1先行技術及び第2先行技術には、組織を完全に縫合して出血及び流体漏れを防止するために、第1先行技術と第2先行技術とを組み合わせるための動機は存在せず、審査官及び審判部の判断は後知恵にすぎないと主張した。

 CAFCは、この点についてKSR最高裁判決にて、最高裁が、

「確かに2つの先行技術を組み合わせるための動機を考慮することは重要であるが、自明の分析はこの動機付けだけに限るものではない」[2]

と注意を喚起していると述べた。

 KSR最高裁判決の判示事項に従い、CAFCはむしろ、

「当業者が予期できる技術のバリエーションを使用できるという状況」、

「技術がある装置を改良するために使用されたことがあり、当業者であれば当業者のスキルの範囲内で同様の改良を行うであろう状況」、

「改良が予期できる範囲にある状況」であれば、自明といえると述べた。 

  909出願の明細書は、外科縫合処理に関する公知の問題を開示している。すなわち切断された組織の部位が完全縫合されない場合、出血及び流動体の漏れ等の問題を起こす問題点である。この公知の問題に対する明白な解法は、縫合線を組織の切断個所を超えた点まで延長することである。

 909出願の発明者らがこの解法を使用するために選択した手法は、組織保持部を超えた位置まで締結線を延長することであり、これは第2先行技術に開示されている。

 CAFCは第1先行技術と第2先行技術とは共に手術器具であり、第1先行技術の縫合線構造を、第2先行技術に開示された構造に従って変更することは、「予期できる効果を伴っており、公知の方法に従ってよく知られている要素を組み合わせたにすぎない」と判示した。

 原告は、最後に、第1先行技術の位置決めロッド21の上側、案内棒38の下側には、縫合線を形成するスペースが存在しないことから、第1先行技術と第2先行技術とを組み合わせたとしても、本発明は完成し得ないと反論した。

 これに対しCAFCは、当業者であれば、どのようにして位置決めロッド21を縫合線頂部の下側に移動させ、案内棒38を縫合線の上に移動させるかは、比較的軽微な設計変更にすぎないとして、原告の主張を退けた。

 

5.結論

 CAFCは、第1先行技術と第2先行技術とを組み合わせて自明とした審判部の判断を支持する判決をなした。

 

6.コメント

 本事件は、KSR2010ガイドラインで示された、第1基準「予期できる効果を奏するために、先行技術要素を組み合わせたにすぎない」に相当する事例と考えられる。第2先行技術に、締結線頂部が頂部組織保持部より上方である点、開示されていることから自明としたCAFCの判断は妥当と考える。

 クレームは

「前記締結線の頂部(128)が前記頂部組織保持部(125)より上方であるか、または、前記締結線(128)の底部が前記下部組織保持部(124)の下方である」

であり、上方、下方について「または」で権利化を試みている。上方及び下方の双方の締結線の端が組織保持部を超えている点を、クレームに記載すれば権利化できた可能性がある。第2先行技術には締結線(128)の底部が下部組織保持部(124)の下方である点は開示されていないからである。

 なお、本件アイデアは中国及び欧州にて特許が付与されている(日本は審査中)。中国では、上方及び下方の双方の締結線の端が組織保持部を超えている点に限定することで特許が成立している。また欧州では、上記限定に加えて、上下の組織保持部間のスロットに設けられるナイフをさらに備える点を追加することで特許が成立している。

 

判決 2010年10月13日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/10-1127.pdf

 


[1] Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 1(1966)

[2] KSR Int'l Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. 398, 418-19 (2007). 

 

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