早わかり中国特許: 第8回 特許要件 創造性 (第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許: 第8回 特許要件 創造性 (第1回)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第8回 特許要件 創造性 (第1回)

河野特許事務所 2012年4月6日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2011年12月号掲載)

 

1.創造性に関する規定

 新規性に並ぶ特許要件の一つである創造性(日本の所謂進歩性に対応)は専利法第22条第3項に規定されている。

 

専利法第22条第3項

 創造性とは、現有技術に比べて、その発明が突出した実質的特徴及び顕著な進歩を有し、その実用新型が実質的特徴及び進歩を有することをいう。

 

 前半は発明特許の創造性を規定しており、後半は実用新型特許の創造性を規定している。発明特許には「突出した」及び「顕著な」の要件が課される点で、これらの要件が課されない実用新型特許とは相違する。

 

 創造性を理由とする審査意見通知への対応は中国特許実務を行う上で欠かせないことから、以下に発明特許の創造性の判断手法について詳述する。

 

2.創造性の判断基準

(1)現有技術

 創造性を判断する際の引例は専利法第22条第5項に規定する現有技術に限られる。現有技術とは、「出願日前に国内外で公衆に知られている技術」をいう。現有技術には、出願日(優先権を主張している場合には、優先日)以前に、国内外の出版物において公式に発表、国内外において公式に使用、或いはその他の方式により公然知られた技術が含まれる。

 注意すべきは現有技術には専利法第22条第2項[1]にいう抵触出願は含まれないということである。この点、拡大先願に当たる出願(日本国特許法第29条の2)が進歩性の判断に用いられない日本国特許法と共通する(日本国特許法29条第2項)。

 

(2)突出した実質的特徴

 突出した実質的特徴を有するとは、当業者にとって、発明が現有技術に比して非自明的であることをいう。自明的と訳したが中国語では「顕而易見」であり、その意味は「明らかに分かる、ひと目で分かる」というものである。

 当業者が現有技術に基づき、単に論理に沿う分析、推理または限られた試験により得られる発明は自明的であり、突出した実質的特徴を具備しないと判断される。

 

(3)顕著な進歩

 顕著な進歩を有するとは、発明が現有技術に比して、有益な技術的効果をもたらすことをいう。例えば、発明が現有技術に存する欠陥または不足を克服している場合、技術的課題を解決すべく構想の異なる技術方案を提供している場合、または新たな技術発展の傾向を表している場合である。

 

 このように「突出した実質的特徴」と「顕著な進歩」との2つが要件として課されているが、実務上は「突出した実質的特徴」が重要であり、「顕著な進歩」が問題となることは少ない。

 

(4)当業者の範囲

 当業者は中国語で所属技術領域の技術人員と定義されている。具体的には、仮定の「人」を指し、出願日または優先権日以前に、発明が属する技術分野における全ての一般的技術的知識を知っており、当該分野における全ての現有技術を知り得るとともに、その日以前の通常の実験手段を運用する能力を有するが、創造能力は有しない者をいう。

 解決すべき技術的課題が、当業者に他の技術分野から技術的手段を探すよう促している場合、当該当業者は他の技術分野から、出願日または優先権日以前の関連する現有技術、一般的な技術知識及び通常の実験の手段を知る能力を具備しているものとされる。

 

3.創造性の判断手順

(1)新規性との関係

 請求項に係る発明が、専利法第22条第2項に規定する新規性を具備する場合に、創造性の判断が行われる。創造性は、1または複数の現有技術を用いて判断を行う点で、1つの現有技術により判断を行う新規性と相違する。

 

(2)突出した実質的特徴の判断

 請求項に係る発明が、現有技術に比して自明的である場合、突出した実質的特徴を有さないと判断される。自明か否かの判断は以下の3ステップにより判断される。

(i)最も近い現有技術を確定する 第1ステップ

 最も近い現有技術とは、現有技術において請求項に係る発明と最も密接に関連している1つの技術方案をいう。これは、発明が突出した実質的特徴を有するか否かを判断する際の基礎となる。

 最も近い現有技術は、例えば、請求項に係る発明の技術分野と同一であり、解決しようとする技術的課題、技術的効果または用途が最も近似し、発明の技術的特徴を最も多く開示している現有技術、若しくは、請求項に係る発明の技術分野とは相違するが、発明の機能を実現でき、かつ発明の技術的特徴を最も多く開示している現有技術をいう。

 

(ii)発明の区別特徴及び発明が実際に解決する技術的課題を確定する 第2ステップ

 最初に、請求項に係る発明が最も近い現有技術と比して、如何なる区別特徴(日本でいう相違点)があるかを分析する。次いで、区別特徴が達成する技術的効果に基づき、発明が実際に解決する技術的課題を確定する。発明が実際に解決する技術的課題とは、より良好な技術的効果を得るために最も近い現有技術に対し改善する必要性のある技術的なミッションをいう。

 技術的課題は出願人が明細書に記載したものと、審査官が認定するものと相違する場合がある。これは出願人が認識している現有技術と、審査官が調査により抽出した現有技術とが相違する可能性があるからである。このような場合でも、創造性は審査官が認定した最も近い現有技術に基づき、発明が実際に解決する技術的課題を確定する。

 

(iii)請求項に係る発明が当業者にとって自明的であるか否かを判断する 第3ステップ

 自明か否かを判断する際には、現有技術中に、技術的啓示(技術的示唆)が存在するか否かに着目する。つまり現有技術中に、区別特徴を最も近い現有技術に組み合わせることにより、技術的課題を解決するための啓示が存在するか否かに着目する。このような技術的啓示は、当業者が技術的課題に直面した場合に、最も近い現有技術を改善し、請求項に係る発明を得るための動機づけとなるものである。

 現有技術中に技術的啓示が存在する場合、発明は自明的であり、突出した実質的特徴を有さないと判断される。

 

(3)技術的啓示の存在

 以下の場合、技術的啓示があると判断される。

(i)区別特徴が公知常識の場合

 例えば、同一技術分野において、技術的課題を解決するための通常の手段、教科書または参考書等に開示された技術的手段が該当する。

【例】請求項に係る発明が「アルミニウムを用いて製造される建築部材」であり、解決すべき技術的課題が建築部材の重量軽減にあるとする。

 ここで、対比文献には同一の建築部材が開示され、当該建築部材が軽い材料であることが開示されている。なお、材料としてアルミニウム材を用いるとは記載されていない。

 しかしながら、建築基準においては、アルミニウムが1種の軽い材料であること、また建築部材として広く用いられることが明示されている。

 従って、請求項に係る発明は、アルミニウムが軽い材料であるという公知の性質を利用していることから、現有技術には技術的啓示が存在すると考えられる。

 

(ii)区別特徴と、最も近い現有技術とが関連する技術的手段である場合

 例えば、対比文献中の他の箇所に開示された技術的手段がそこで果たす作用と、請求項に係る発明において区別特徴が技術的課題を解決すべく果たす作用とが同じ場合、技術的啓示があると判断される。

【例】請求項に係る発明

「ヘリウムガス漏れ検出装置において、

 真空ボックスの全体的な漏れを検出する全体漏れ検出装置と、

 漏れたヘリウムガスを回収する回収装置と、

 吸い込みガンを有し、具体的な漏れ箇所を検出するヘリウム質量分析漏れ検知器と

 を備えるヘリウムガス漏れ検出装置」。

 ここで、対比文献1に、

「真空ボックスの全体的な漏れを検出する全体漏れ検出装置と、

 漏れたヘリウムガスを回収する回収装置とを備える全自動ヘリウムガス漏れ検出システム」が開示されているとする。すなわち、下線部分のヘリウム質量分析漏れ検出器が開示されていない。

 しかしながら、対比文献1の他の部分には、

「吸い込みガンを備えるヘリウムガス漏れ箇所検出装置」が開示されているおり、この漏れ箇所検出装置は具体的に漏れた箇所を検出するヘリウム質量分析漏れ検出器であっても良い旨記載されている。この部分に記載されたヘリウム質量分析漏れ検出器と、請求項に係る発明のヘリウム質量分析漏れ検出器との作用は同一である。

 そうすると、対比文献1の他の部分の啓示に基づき、当業者は容易に対比文献1の2つの技術方案を組み合わせて本件発明の技術方案にすることができる。従って、現有技術には技術的啓示が存在すると判断される。

 

(iii)区別特徴が他の対比文献に開示されている関連の技術的手段であり、当該技術的手段が他の対比文献において奏する作用と、区別特徴が請求項に係る発明において技術的課題を解決するために奏する作用と同一である場合

【例】請求項に係る発明は

「ブレーキ表面を清浄するために使用する水を排出するための排水溝を設けたグラファイトディスクブレーキ」である。

 発明が解決しようとする技術的課題は、摩擦によって発生し、制動を阻害するブレーキ表面のグラファイト屑を如何に清浄するかにある。

 対比文献1は「グラファイトディスクブレーキ」を開示している。

 また、対比文献2は「金属ディスクブレーキに設けた該ブレーキ表面に付着した埃を洗い流すための排水溝」を開示している。

 請求項に係る発明と対比文献1の区別特徴は、グラファイトブレーキの表面に凹溝を設けていることである。ただし、当該区別特徴は対比文献2に開示されている。対比文献1のグラファイトディスクブレーキは摩擦によってブレーキ表面に屑を発生させ、制動が阻害される。同様に、対比文献2の金属ディスクブレーキも表面に埃が付着することによって制動が阻害される。制動の阻害という技術的課題を解決するために、前者は屑を取り除き、後者は埃を取り除く必要がある。これは性質が同一の技術的課題となる。

 グラファイトディスクブレーキの制動問題を解決すべく、当業者は対比文献2の啓示に基づき水で洗い流すこと、そして凹状溝をグラファイトディスクブレーキに設け、屑を洗い流した水を凹溝から排出することを容易に想到することができる。

 対比文献2の凹状溝の役目と発明が保護を請求する技術方案の凹状溝の役目は同じであり、当業者は対比文献1と対比文献2を組み合わせて、この発明の技術方案を得ることができる。従って、現有技術には技術的啓示が存在すると考えられる。

 

(4) 顕著な進歩の判断

  発明が顕著な進歩を有するか否かを評価する際には主に、発明に有益な技術的効果が存在するか否かが考慮される。以下の場合は、発明が有益な効果を有し、顕著な進歩を有するものと判断される。

(i)発明が現有技術と比べて、より良好な技術的効果を有する場合。例えば、品質の改善、生産量の向上、エネルギーの節約、環境汚染の防止を達成した場合である。

(ii)発明が、技術的構想が異なる技術方案を提供しており、その技術的効果が基本的に現有技術の水準に達している場合。

(iii)発明がある新規な技術発展の傾向を表している場合。

(iv)ある側面においてマイナス効果も有するが、発明がその他の側面において明らかにプラスの技術的効果をも有する場合。

 なお、上述したとおり、実務においては顕著な進歩の判断が争点となることは少ない。

 



[1] 専利法第22条第2項 新規性とは、その発明又は実用新型が現有技術に該当せず、かつ、いかなる機関又は組織又は個人により出願日前に国務院特許行政部門に出願されて出願日後に公開された特許出願書類又は公告された特許書類には、同一の発明又は実用新型が記載されていないことをいう。

 

(第2回へ続く)

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