中国民事訴訟法改正のポイント (第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国民事訴訟法改正のポイント (第2回)

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 中国民事訴訟法改正のポイント (第2回)

河野特許事務所 2013年4月4日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

4.鑑定

 鑑定意見は民事訴訟法における証拠の一つとして規定されており(中国民事訴訟法第67条(7))、専門的知識を要する特許訴訟実務において頻繁に利用されている。改正前から司法鑑定は認められていたが、人民法院が必要と認める場合に限りという条件があった。今回の法改正では、当該条件が撤廃され、当事者の申請により鑑定が行われることとなった(中国民事訴訟法第76条)。

 

 また鑑定人がなした鑑定意見について異議がある場合、鑑定人を出廷させ証言させることが可能となった(中国民事訴訟法第78条)。これにより公平な鑑定意見を求めることができる。さらに、当事者は別途専門家を出廷させ、鑑定意見または専門問題に対し意見を述べさせることが可能となった(中国民事訴訟法第79条)。

 

改正前

改正後

第72 条(鑑定)

人民法院は、専門的問題について鑑定を必要とすると認める場合には、法の定める鑑定部門に委ねて鑑定させなければならない。法定の鑑定部門がない場合には、人民法院が指定する鑑定部門が鑑定する。

鑑定部門及びその指定する鑑定人は、鑑定に必要な事件の資料を調査する権利を有し、必要な場合には、当事者及び証人を尋問することができる。

鑑定部門及び鑑定人は、書面により鑑定結果を提出し、鑑定書に署名し、又は押印しなければならない。鑑定人の鑑定には、鑑定人の所属する単位が押印し、鑑定人の身分を証明しなければならない。

第76条(鑑定)

 当事者は事実を調べて明らかにする専門性問題について人民法院に鑑定を申請することができる。当事者が鑑定を申請した場合,双方当事者の協議により資格を有する鑑定人を確定する;協議が成立しない場合,人民法院により指定する。当事者が鑑定を申請していない場合,人民法院は専門性の問題について鑑定が必要と判断した場合,資格を有する鑑定人に鑑定を行うよう委託しなければならない。

 

第77条(鑑定人の権利)

 鑑定人は、鑑定に必要な事件の資料を調査する権利を有し、必要な場合には、当事者及び証人を尋問することができる。鑑定人は、書面により鑑定意見を提出し、鑑定書に署名し、又は押印しなければならない。

 

78(鑑定意見に対する異議 新設)

 当事者は鑑定意見に対し異議があるか、または、人民法院が、鑑定人が出廷する必要があると判断した場合,鑑定人は出廷し証言しなければならない。人民法院の通知を経て,鑑定人が出廷して証言することを拒否した場合,鑑定意見は事実の根拠と認定してはならない。鑑定費用を支払った当事者は鑑定費用の返還を要求することができる。

 

79(専門知識を有する者の出廷 新設)

 当事者は人民法院が専門知識を有する者に出廷するよう通知し、鑑定人がなした鑑定意見または専門問題に意見を提出するよう申請する事ができる。

 

5.証拠保全

 改正により訴訟提起前の証拠保全についての規定が追加された(中国民事訴訟法第81条)。なお、専利法第67条においても、TRIPS協定の要請を受けて、第3次改正時に訴訟提起前の証拠保全が新設されている。

 

専利法第67条

 特許権侵害行為を差止めるために、証拠が消滅する可能性、又はその後は取得が困難になる可能性がある場合には、特許権者又は利害関係者は提訴前に、人民法院に証拠の保全を申請することができる。

 人民法院は保全措置をとるとき、申請人に担保の提供を命じることができ、申請人が担保を提供しないときは、その申請を却下する。

 人民法院は申請を受理した後、48時間以内に裁定しなければならない。

 保全措置をとると裁定したときは、直ちに執行しなければならない。

 人民法院が保全措置をとった日から15日以内に、申請人が提訴しないときは、人民法院はその措置を解除しなければならない。

 

改正前

改正後

第74 条(証拠保全)

証拠が滅失し、又はその後において取得するのが困難となるおそれのある状況の下においては、訴訟参加人は、人民法院に証拠の保全を申し立てることができ、人民法院も、自ら保全措置を執ることができる。

第81条(証拠保全)

 証拠が滅失し、又はその後において取得するのが困難となるおそれのある状況の下においては、当事者は、訴訟過程において人民法院に証拠の保全を申し立てることができ、人民法院も、自ら保全措置を執ることができる。緊急状態により、証拠が滅失し、又はその後において取得するのが困難となるおそれのある状況の下においては、利害関係人は、訴訟提起或いは仲裁申請前に証拠所在地、被申請人の住所または案件に対し管轄権を有する人民法院に証拠の保全を申し立てることができる。証拠保全のその他の過程は本法第9章の保全に関する規定を参照して適用する。

 

6.送達

 訴状の送達に関する改正が行われた。被疑侵害者側が訴状の受領を拒む場合がある。そのような場合、訴訟文書を、送達を受ける者の住所に差し置き、かつ、その状況を写真撮影等すれば送達したものとみなすこととした(中国民事訴訟法第86条)。

 また、当事者の同意がある場合、訴訟文書をFAXまたは電子メールで送達できるようになった(中国民事訴訟法第87条)。

 

 日本企業への訴状の送達に関しては中国民事訴訟法第267条に規定されている。中国の現地子会社ではなく、日本に所在地を有する日本本社に対しては一般に外交ルートまたは大使館を通じて送達が行われる。今回の法改正により、FAX、電子メール等、送達を受ける者の受け取りを確認することができる方式を採用して送達することができる旨規定された(中国民事訴訟法第267条第七号)。外国企業を被告とする訴訟が増加しており、より簡便に訴状を送達できるようにしたものである。

 この改正により、訴状がFAX等で有効に送達されることから、受領次第すぐに対応できる体制を整えておくことが重要となる。

 

 

改正前

改正後

第79 条(差置送達)

送達を受ける者又はその者と同居する成人家族が訴訟文書の受取を拒絶した場合には、送達人は、関係基層組織又は所属する単位の代表に立ち会うよう要請し、状況を説明し、送達受領証に受領拒絶事由と年月日を明記しなければならない。送達人及び立会人が署名又は押印し、訴訟文書を送達を受ける者の住所に差し置いた場合には、送達したものとみなす。

第86 条(差置送達)

送達を受ける者又はその者と同居する成人家族が訴訟文書の受取を拒絶した場合には、送達人は、関係基層組織又は所属する単位の代表に立ち会うよう要請し、状況を説明し、送達受領証に受領拒絶事由と年月日を明記しなければならない。送達人及び立会人が署名又は押印し、訴訟文書を送達を受ける者の住所に差し置いた場合には、送達したものとみなす。また、訴訟文書を送達を受ける者の住所に差し置き、かつ、写真撮影、映像等の方式を採用し送達過程を記録した場合も送達したものとみなす。

 

第87条(FAX・メールでの送達 新設)

 送達を受ける者の同意を経て、人民法院はファクシミリ、電子メール等、その受け取りを確認できる方式により訴訟文書を送達することができる。ただし判決書、裁定書、調解書はこの限りではない。

 前項の方式を採用して送達する場合、ファクシミリ、電子メール等、送達を受ける者の特定システムに到達した日をもって送達日とする。

第245 条(中国国内に住所を有しない当事者への送達方式)

人民法院は、中華人民共和国の領域内において住所を有しない当事者に対して訴訟文書を送達する場合には、次の各号に掲げる方式を採用することができる。

⑴ 送達を受ける者の所在国と中華人民共和国とが締結し、又は共に参加している国際条約に定める方式に従って送達する。

⑵ 外交ルートを通じて送達する。

⑶ 送達を受ける者が中華人民共和国の国籍を有する場合には、その所在国の中華人民共和国の大使館又は領事館に委託して送達させる。

⑷ 送達を受ける者が委託した、代理して送達を受ける権利を有する訴訟代理人に送達する。

⑸ 送達を受ける者が中華人民共和国の領域内に設立した代表機構又は送達を受ける権限を有する支店等もしくは業務代理人に送達する。

⑹ 送達を受ける者の所在国の法律が郵送送達を認めている場合には、郵送送達をすることができる。

郵送の日から満6 か月を経過して、なお送達受領証は返送されていないが、各種の状況に基づいて、すでに送達されたものと認定するに足りる場合には、期間満了の日に送達されたものとみなす。

⑺ 前各号に定める方式により送達することができない場合には、公示送達をする。公示の日から満6か月を経過した場合には、送達されたものとみなす。

第267 条(中国国内に住所を有しない当事者への送達方式)

人民法院は、中華人民共和国の領域内において住所を有しない当事者に対して訴訟文書を送達する場合には、次の各号に掲げる方式を採用することができる。

(1)送達を受ける者の所在国と中華人民共和国とが締結し、又は共に参加している国際条約に定める方式に従って送達する。

(2)外交ルートを通じて送達する。

(3)送達を受ける者が中華人民共和国の国籍を有する場合には、その所在国の中華人民共和国の大使館又は領事館に委託して送達させる。

(4) 送達を受ける者が委託した、代理して送達を受ける権利を有する訴訟代理人に送達する。

(5)送達を受ける者が中華人民共和国の領域内に設立した代表機構又は送達を受ける権限を有する支店等もしくは業務代理人に送達する。

(6)送達を受ける者の所在国の法律が郵送送達を認めている場合には、郵送送達をすることができる。

郵送の日から満3か月を経過して、なお送達受領証は返送されていないが、各種の状況に基づいて、すでに送達されたものと認定するに足りる場合には、期間満了の日に送達されたものとみなす。

(7)FAX、電子メール等、送達を受ける者の受け取りを確認することができる方式を採用して送達する。

(8) 前各号に定める方式により送達することができない場合には、公示送達をする。公示の日から満か月を経過した場合には、送達されたものとみなす。

 

(第3回へ続く)

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