介護事業の「差別化と競争優位性」 - 経営戦略・事業ビジョン - 専門家プロファイル

福岡 浩
有限会社業務改善創研 代表取締役 業務改善コンサルタント
神奈川県
経営コンサルタント

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閲覧数順 2016年12月08日更新

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介護事業の「差別化と競争優位性」

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「差別化と競争優位性」について取り上げます。加護野忠男氏の著書、「ゼミナール経営学入門」や「競争優位のシステム」には、『事業の仕組みは、人々の協働を通じて、顧客という人々に価値を提供するシステムである。そこで主役となるのは、人間である。(人間は)損得勘定や感情に支配されるし、自ら真剣に働くこともあるし怠けることもある人間が主役なのである。・・・・・』と、あります。どんな事業も上述のことが前提であるということを再認識しました。事業は競争であり、先行したり遅れをとったりしますが、常に競争相手より先んじていたいものなのです。

サービスや製品にちょっとした特長や奇抜な形や色を施した程度の差別化は分かりやすくて目立ちます。しかし、すぐに競争相手に真似されてしまい、優位性が維持され難く華々しい成功も瞬く間に色あせてしまいます。一方、事業運営の仕組みを差別化すれば、事業運営の仕組みを通じて競争相手との違いを生み出すことができます。この差別化戦略では競争相手に知られず分かり難く真似され難いので、競争優位性が確保しやすくなります。

では、介護事業における競争要因は何か。介護サービスの価格(介護報酬)は予め定められていますので、事実上価格の競争はありません。そうであるなら、介護サービスそのものの質(品質)を競うことになります。競争すべきものが明確なのです。

筆者は介護サービス情報公表制度の調査員や福祉サービス第三者評価制度の調査評価員を勤めていますので、年間数十ヶ所の介護事業所や介護施設を見てきました。介護事業所や介護施設に1時間もいれば、その事業運営レベルの善し悪しがすぐにわかります。

例えば、ある老人デイサービスセンターで、トレーニングマシンを使った介護予防サービスを取り入れたとします。一見、『差別化』したように思えますが、競合する同業他社のデイサービスセンターでも同様のものを導入すれば、その『差別化』はいとも簡単に崩れてしまいます。仮に簡単に真似ができないようにしたいならば、そのトレーニングマシンが余程高価であり、そのリハビリ効果が実証されていて、同業他社もやすやすと購入できないことが条件となります。『差別化』策は決して1つではなく、複数の要素を必要とします。当然のことながらトレーニングマシン導入と同時にそれらを取り扱うスタッフの養成も不可欠です。また、トレーニングマシン導入に伴い、介護予防の効果測定もしなければなりません。さらに個々の利用者の身体能力等を分析し、予防効果の継続を図ります。この一連の仕組みが整ったことにより、『競争優位性』が生まれます。

一般的に経営者はあてもなく続く競争から逃れるために『差別化』をしていますが、追いつかれると、また、差別化し、追いつけばさらに差別化する。差別化戦略が効果をあげている状態が『競争優位』で、その状態が強固であり仕組みとして機能している間に次の差別化戦略を準備します。従って競争優位性を高め、継続されることが望まれます。介護事業経営者は、今後も介護サービスの需要が増えると思っていて、『競争優位性』など考えもしないでしょう。

勿論、介護事業にも差別化戦略は必要です。多くの介護事業経営者は差別化を意識せずに、ただひたすら優秀で経験豊富な介護職員を雇い、要介護者に喜ばれる介護サービスを提供することだと考えているかもしれません。優秀で経験豊富な介護職員を雇うためには、公募して他の事業所からの転職を誘うような高給優遇と、より良い労働条件を提示するのでしょうか。介護事業者は皆同じことを考えているかもしれませんが、元々介護報酬単価が決まっていて、他の事業所より高い給与を支給することはなかなか困難です。優秀な介護職員は、どこの事業所でも欲しいはずですが、地道に人材を育てようと努めている介護事業経営者は少ないように思います。

介護事業においても、競争優位性をどう構築するかは極めて重要な課題であり、そう簡単に為し得るものではありません。例えば、「利用者からの苦情は48時間以内に解決する」という目標を決めました。その目標を達成するためには様々な工夫と試行錯誤も必要になります。苦情は表面的な解決ではなく、利用者に十分に納得していただき、その再発防止策まで社内に周知し、誰もが理解している状態を最終到達点とします。それには苦情対応の仕組みをつくらなければなりません。さらに、この仕組みの一連の作業が顧客である利用者のために必要な業務であるという共通認識を従業者に理解させることです。

ところが、苦情対応マニュアルを作成しただけでこの仕組みが「できている」と錯覚している介護事業経営者もいます。これは単なる自己満足経営の一つで、各種マニュアルを作成し従業者の研修を実施しただけ終わり、その後の継続的な業務改善が進まない状態に陥っていることがあります。

最後にもう一つ、具体的な例を提示しましょう。介護事業者は多かれ少なかれ、何らかの職員研修や従業者研修を行っているはずです。介護保険法には、必要に応じて従業者の研修をしなければならないと書いてあるから研修を行っているという事業者もあれば、出来るだけ定期的に個々の従業者に必要なテーマを設定して行っているという事業者もあります。しかし、実施して終りなのです。その研修の効果がどうであったかについてはあまり関心を持っていないことが多いです。研修を計画し、実施してその効果がどのくらいあったのかを確認する。受講した従業者が研修内容をすべて理解し身につけられたということはあり得ません。誰がどの程度理解したか、何が理解され難かったのか、研修内容がどのように実務に活用されているのか・・・・・。様々な観点で振り返ることが十分になされていないのです。だから、「研修の仕組み」があるようで実態はないのが現状ではないでしょうか。もし、この「研修の仕組み」言い換えれば「人材育成の仕組み」だけでも完成形に近いならば、それは差別化となり、それが強固な仕組みになればなるほど、同業他社が真似できない水準になり「競争優位性」が確保できるのです。

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