米国特許判例紹介:KSR最高裁判決後の自明性判断基準(第1回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:KSR最高裁判決後の自明性判断基準(第1回)

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米国特許判例紹介:KSR最高裁判決後の自明性判断基準 (第1回)

       ~2010KSRガイドライン

 河野特許事務所 2010年12月10日 執筆者:弁理士  河野 英仁

1.概要

 KSR最高裁判決[1]においては、TSMテスト[2]を前提とする厳格ルールから、常識(Common Sense)を含め技術分野において公知の事項及び先行特許で言及されたあらゆる必要性または問題もが、組み合わせのための根拠となるフレキシブルアプローチへと自明性の判断が変更された。

 USPTOはKSR最高裁判決後の2007年10月、米国特許法第103条における自明性の判断基準を明確化すべく、ガイドラインを発表した(以下、2007KSRガイドラインという)[3]

 KSR最高裁判決後3年の間に、数多くの事件において自明性についての判断がCAFCにて示された。USPTOは、CAFCにて判示された代表的な事例を厳選し、新たなガイドライン(以下、2010KSRガイドライン)を、2010年9月1日付で発表した。以下では、2010KSRガイドラインの内容と共に各事件の概要を解説する。

 

 2.米国における自明性の判断手法

 米国特許法103条(a)は、
「発明が第102条に規定された如く全く同一のものとして開示又は記載されていない場合であっても,特許を得ようとする発明の主題が全体としてそれに関する技術分野において通常の技術を有する者にその発明のなされた時点において自明であったであろう場合は特許を受けることができない。」と規定している。
 自明か否かの判断においては、Graham最高裁判決
[4]において判示された下記事項をまず検討する。
(a)「先行技術の範囲及び内容を決定する」
(b)「先行技術とクレーム発明との相違点を確定する」
(c)「当業者レベルを決定する」
(d)「二次的考察を評価する」(例:商業的成功、長期間未解決であった必要性、他人の失敗、他人の模倣等)
 これらを総合的に考慮して当業者にとって自明と判断した場合、出願を拒絶するが、そのためには審査官は、明確な理由付けが必要となる。ガイドラインにはその理由付け例として以下の7つの例を挙げている。
第1:予期できる結果を奏するために、公知の方法に従い先行技術を組み合わせたにすぎない
第2:予期できる効果を得るために、単に公知の要素に置換したにすぎない
第3:同様の方法で、類似の装置(方法または製品)を改良するために公知の技術を用いたにすぎない
第4:予期できる効果を奏するために、改良可能な公知の装置(方法または製品)に公知の技術を適用したにすぎない
第5:Obvious to try(以下、自明の試みという)にすぎない。つまり、成功の合理的期待をもって、有限の予期できる解決法の中から選択したにすぎない
第6:デザインインセンティブまたは他の市場圧力を受けて、努力傾注分野における公知の作業により派生したものにすぎない。ただし、その派生が当業者にとって予期できることが条件である。
第7:先行技術中に変形または組み合わせのための教示、示唆または動機付けが存在する

 2010 KSRガイドラインでは、第1(先行技術要素の組み合わせ)、第2(公知要素の置換)、第5(自明の試み)に関する事例の他、(d)二次的考察の反論証拠に関する事例を紹介している。


[1] KSR Int’l Co. v. Teleflex, Inc., 127 S. Ct. 1727, 1742 (2007)、550 U.S. 398, 82 USPQ2d 1385 (2007)、詳細は以下を参照。
http://www.knpt.com/contents/cafc/2007.05/2007.05.htm

[2] TSMテスト:教示(Teaching)-示唆(Suggestion)-動機(Motivation)テストの略である。先行技術の記載に重きを置き、ここに当業者がこれらを組み合わせるための教示、示唆または動機が存在する場合に、自明であると判断する手法である。Al-Site Corp. v. VSI Int’l, Inc., 174 F. 3d 1308, 1323 (CA Fed. 1999)。なお、TSMテスト自体は依然として有効である。

[3] 2007 KSRガイドラインはUSPTOのHPからダウンロードすることができる。

 http://www.uspto.gov/web/offices/com/sol/notices/72fr57526.pdf

[4] Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 1(1966)

(第2回へ続く)

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