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米国特許判例紹介:KSR最高裁判決後の自明性判断基準(第10回)
~2010KSRガイドライン~
河野特許事務所 2011年1月11日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(c)先行技術Teagueの内容
一方、Teagueは折りたたみ式ベッドの構造に関する技術を開示している。概要は参考図17に示すとおりである。符号56が先行技術としてあげられた2重作用バネである。
参考図17 TeagueのFIG.1及びFIG.2
Teagueは、公知の単一作用バネではなく、新規の2重作用バネを用いる点を特徴としている。2重作用バネはベッドを持ち上げて収納位置に移行する際、それとは逆の方向へ力を発生させるものである。ただし、完全にベッドを収納した場合は、ベッドの重みにより、ベッドが自動で開くことはない。この2重作用バネの作用により、収納位置からベッドを開く際の力を低減できる。
(iii)争点
争点1:技術分野の相違はどのように評価されるか?
本願の技術分野はトレッドミルであり、Teagueの技術分野は折り畳み式ベッドである。技術分野が相違する場合に、Teagueの2重作用バネを本願に係るトレッドミルのガスバネに代えて、当業者が採用することができるか否かが問題となった。
争点2:組み合わせに対する阻害要因
本願のガスバネは、踏み台を収納位置に対して押す方向に作用するものである。その一方で、Teagueの2重作用バネは、ベッド収納の際に逆に開こうとする力が作用する。このように、2つのバネは作用する方向が正反対となる。原告は、Teagueのバネは本願にとって阻害要因となるものであり、当業者であれば、これを採用しないと主張した。
(vi)CAFCの判断
争点1:公知の部品は、当該部品の主たる目的以外にも、明白な用途が存在する場合がある
CAFCは、本願の技術分野がトレッドミルであり、Teagueの技術分野が折り畳み式ベッドであることから、技術分野が相違することは認めた。しかしながら、KSR最高裁の判示事項、
「公知の部品は、当該部品の主たる目的以外にも、明白な用途が存在する場合がある」
を挙げ、Teagueの2重作用バネと、本願のガスバネとは類似の技術にすぎないと述べた。
例えば、発明者がPCのヒンジ機構及びラッチ機構を開発する場合、他のハウジング、ヒンジ、ラッチ、バネ等を採用するピアノのふた、キッチンのキャビネット、皿洗い機のキャビネット、木製家具のキャビネット、またはオーディオカセット等の技術分野における文献を参照すると考えられる。そうすると本件においても同様に、トレッドミルを開発する当業者は、公知の2重作用バネを開示する折り畳み式ベッドの文献を参考にするものと考えられる。以上のことからCAFCは、技術分野は相違するものの、類似の技術にすぎないと判断したのである。なお、本願のガスバネが、トレッドミル特有の機能を果たすのであれば、この判断が相違する点を、CAFCは示唆している。
争点2:組み合わせを阻害する要因の判断手法
自明か否かの判断において、多用される阻害要因について簡単に説明する。
先行技術は、以下の場合に組み合わせを阻害する要因があるといえ、この場合非自明と判断される可能性が高い。
(a)当業者がある先行技術を検討した場合に、先行技術により規定されるルートに従うことを思いとどませる場合、または、出願人が採用したルートとは別の方向へ導かれた場合。
(b)先行技術を使用する結果、動作不可能な結果をもたらす場合。
本願のガスバネは、踏み台を折り畳む場合に折り畳み方向へ力を作用させるものである。これに対し、Teagueの2重作用バネは逆方向に作用する。かかる作用的な観点からは、阻害要因が存在すると判断できる。しかしながら、クレームは、
「収納位置にて踏み台を安定して保持すべくアシストするガスバネ」
と広く記載されており、Teagueの2重作用バネも確かに収納位置にてベッドを安定して保持するのである。
クレームは最も広く解釈されるのが原則[1]であるから、このような広いクレームの文言に対しては、Teagueは組み合わせのための阻害要因が存在するとはいえない。なお、CAFCは原告が、当該ガスバネの力が作用する方向等に関し限定する補正を行っていれば状況は変わっていたであろうと述べている。
[1] 明細書に何ら記載が無い場合、「最も広い合理的な解釈(BRI: Broadest Reasonable Interpretation)」が採用される。MPEP2111は最も広い合理的な解釈について規定している。
2111 Claim Interpretation; Broadest Reasonable Interpretation
[R-1] CLAIMS MUST BE GIVEN THEIR BROADEST REASONABLE INTERPRETATION
During patent examination, the pending claims must be “given *>their< broadest reasonable interpretation consistent with the specification.”
(第11回へ続く)
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