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河野 英仁
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米国特許判例紹介:クレームにおける使用目的に関する陳述

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米国特許判例紹介:クレームにおける使用目的に関する陳述

~クレーム発明の認定~

  河野特許事務所 2013年5月15日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

In re Jasinski

 

1.概要

 クレーム発明が新規性(米国特許法第102条)及び非自明性(米国特許法第103条、日本の進歩性に相当)を具備するか否か審査する際には、クレームに係る発明の認定を行い、その上で、先行技術との一致点、相違点の認定を行う。この点は、世界各国で共通した取り扱いである。

 

 クレームに記載した文言であっても、単に使用目的を陳述しているにすぎない、または、意図される効果を陳述しているにすぎない場合、特許性の重み(Patentable Weight)が付与されず、これらの記載がクレームの限定要素とならず、新規性及び進歩性の判断に利用されない場合がある。

 

 本事件では、「検証する」に関する記載について、審査官及び審判部は、単なる使用目的にすぎず、クレームの限定要素ではないとし、当該記載を評価せず、新規性無しとの判断を下した。CAFCは、問題となった記載は発明の本質であることから、クレームの限定要素であると判断した。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 IBM社の発明者Jasinski氏ら(原告)は、2005年2月23日メモリテストソフトウェアの検証方法及び装置と称する特許出願をUSPTOへ提出した。出願番号は、10/906,508 (以下、508出願)である。参考図1は508出願の代表図である。

 

 

 

 

 

参考図1 508出願の代表図

 

 508特許は、メモリ装置の不具合診断に関する技術である。メモリテスターがメモリ装置の不具合を発見した場合、メモリエラーの論理アドレスは、メモリ装置内にて、物理アドレスに変換しなければならない。当該変換は、一般的に論理・物理マッピングソフトウェアにより実行される。508出願はこの論理・物理マッピングソフトウェアの正確性を検証するシステム及び方法をクレームしている。

 

 508出願は、ビルトインセルフテスト(built in self-test (以下、BIST))制御機能を記載している。BIST制御機能は、メモリ装置の所定物理位置にて「シミュレーションされた」メモリの不具合を生成するものである。次いで、メモリテスターはメモリ装置をテストし、エラーを有する位置の論理メモリアドレスを記録する。

 

 論理・物理マッピングソフトウェアは、メモリ装置内にて論理メモリアドレスを物理メモリアドレスにマッピングする。最後に、「論理・物理マッピングソフトウェアの正確性を検証すべく」、論理・物理マッピングソフトウェアによりマッピングされた物理アドレスと、BIST制御機能がメモリの不具合を生成した所定のまたはシミュレートされた物理アドレスとが比較される。

 

 508出願のクレーム1[1]は以下のとおりである。下線が争点となった箇所である。

メモリ装置をテストするために、論理・物理マッピングソフトウェアの正確性を検証する方法において、

(a)メモリ装置のメモリアレーの内、予め定められた様々な位置にて、複数のシミュレートされたメモリの不具合を生成するために、BIST不具合制御機能を提供し、

(b)メモリテスターを通じてメモリアレーをテストし、

(c)前記論理・物理マッピングソフトウェアにより、前記メモリテスターにより表示される全てのメモリ不具合に基づき、ビット不具合マップを生成し、

前記ビット不具合マップは、前記論理・物理マッピングソフトウェアにより抽出された全ての不具合メモリ位置の物理的な位置を示し、

(d)前記論理・物理マッピングソフトウェアの正確性を検証するために、前記論理・物理マッピングソフトウェアにより抽出された前記不具合メモリ位置を、前記様々な予め定められたメモリ位置と比較する。

 

(2)審査及び審判

 USPTOは508出願における全クレームを、同社の先願であるUSP No. 5,912,901(以下、Adams)により新規性が無いとして拒絶した。特に、クレーム1の下線部を付したプリアンブルの「テストするために、論理・物理マッピングソフトウェアの正確性を検証する方法」と、ボディの最後構成要件である「前記論理・物理マッピングソフトウェアの正確性を検証するために、」の記載が、使用目的の陳述であり、クレームを限定する要素でないと判断した。原告は審判を請求したが、審判部は審査官の判断を支持する決定をなした。原告はこれを不服として控訴した。

 

 

3.CAFCでの争点

争点:使用目的の陳述であるか否か

 原告は、クレーム1のプリアンブルの文言「論理・物理マッピングソフトウェアの正確性を検証する」及びボディの文言「前記論理・物理マッピングソフトウェアの正確性を検証するために、」は本発明の本質であり、これらに「特許性の重み」を付与せず、クレームの限定要素でないと判断した審判部の判断は誤りであると主張した。

 

 一方、USPTOは、これらは単なる使用目的の陳述(statement of intended use)にすぎず、クレームを限定するものではないと主張した。また、これらの文言に特許の重みを持たせたいのであれば、一構成要件において明確に記載すべきと主張した。

 

 

4.CAFCの判断

結論:発明の本質的部分であり使用目的の陳述ではない

 CAFCは、原告の主張に同意した。

 

 CAFCは、Visio事件[2]を参照した。Visio事件では、「デコードするdecoding」の文言が、クレームの限定要素となるか否かについて争われた。CAFCは、「デコードする」が、クレーム発明の本質または基本特徴であることから、単なる発明の目的・使用目的ではなく、発明の限定要素であると判断した。

 

 本事件においても、プリアンブルにおける「検証する」の文言は、論理・物理マッピングソフトウェアにおけるエラー検出に関する「本発明の本質」に言及している。また当該文言は、「比較」構成要件において、「論理・物理マッピングソフトウェアにより抽出された前記不具合メモリ位置を、様々な予め定められたメモリ位置と比較する」際の分析基準を明確に記載している。

 

 以上のことからCAFCは使用目的の陳述にすぎず、発明の構成要件から除外して新規性の判断を行った審判部の決定を取り消す判決をなした。

 

 

5.結論

 CAFCはクレームの文言を限定要素と認定せず、そして新規性なしと判断した審判部の審決を取り消す判決をなした。

 

 

6.コメント

 本事件で述べたように「・・のために用いる・・」、「・・することができる」等の記載は使用目的、意図される効果を単に作用的に記載したにすぎず、クレームを限定する要素として判断されない場合がある。

 

 例えば、Minton事件[3]では方法クレームにおいて、「whereby(それによって~する)」クローズが用いられていた。CAFCは、単に方法ステップの意図される効果を表現しているにすぎず、当該記載には特許の重みが付与されないと判断した。

 

 とりわけ、プリアンブルではその傾向が強く[4]、争いになることが多い。例えば、Pitney事件[5]では、「クレームのボディが完全かつ本質的にクレームされた発明の限定の全てを述べており、プリアンブルがクレーム発明の何らかの限定の明確な定義というより、むしろ当該発明の目的または意図した用途を述べているだけの場合、当該プリアンブルは限定とみなされず、クレームの解釈にとって何ら意味はない」と判示された。

 

 本事件で示されたように発明の本質に関する記載であれば、クレームの限定要素として認定され得るが、使用目的、効果に関する陳述はクレームの限定要素から排除される可能性が高く、無用の争いを招くことから、やむを得ない場合を除き、できるだけ当該陳述を含めないようクレームを作成することが望まれる。

 

 

判決 2013年2月15日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/12-1482.Opinion.2-12-2013.1.PDF

 



[1] A method for verifying the accuracy of logical-to physical mapping software designed for testing memory devices, said method comprising:

[a] providing a built-in self test (BIST) fail control function to generate multiple simulated memory fails at various predetermined locations within a memory array of a memory device;

[b] testing said memory array via a memory tester;

[c] generating a bit fail map by said logical-tophysical mapping software based on all memory fails indicated by said memory tester, wherein

said bit fail map indicates physical locations of all fail memory locations derived by said logical-tophysical mapping software; and

[d] comparing said fail memory locations derived by said logical-to-physical mapping software to said various predetermined memory locations to verify the accuracy of said logical-to-physical mapping software.

[2] Vizio, Inc. v. Int’l Trade Comm’n, 605 F.3d 1330, 1341 (Fed. Cir. 2010)

[3] Minton v. Nat'l Ass'n of Securities Dealers, Inc., 336 F.3d 1373 (Fed. Cir. 2003)

[4] MPEP2111.02 II, Rev. 9, August 2012

[5] Pitney Bowes, Inc. v. Hewlett-Packard Co., 182 F.3d 1298, 1305 (Fed. Cir. 1999)

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