民主党政権誕生による税制改正のゆくえ(5) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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民主党政権誕生による税制改正のゆくえ(5)

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税制改正 平成22年度税制改正
今日は、選挙前に鳩山代表の「4年間上げない」発言でも話題になった
消費税について検討したい。
民主党と連立を組むことが予想されている国民新党亀井静香新代表は
「消費税アップなんか論外だ。民主党も理解している」と発言しており、
総選挙後に政治不信が払拭された段階での増税を示唆した鳩山氏の
対応について注目されるところでもある。
早速、民主党政策集INDEX2009の文章を確認しよう。

「消費税改革の推進」
消費税に対する国民の信頼を得るために、その税収を決して財政赤字の
穴埋めには使わないということを約束した上で、国民に確実に還元する
ことになる社会保障以外に充てないことを法律上も会計上も明確にします。
具体的には、現行の税率5%を維持し、税収全額相当分を年金財源に充当します。
将来的には、すべての国民に対して一定程度の年金を保障する「最低保障年金」
や国民皆保険を担保する「医療費」など、最低限のセーフティネットを
確実に提供するための財源とします。
税率については、社会保障目的税化やその使途である基礎的社会保障制度の
抜本的な改革が検討の前提となります。
その上で、引き上げ幅や使途を明らかにして国民の審判を受け、具体化します。
インボイス制度(仕入税額控除の際に税額を明示した請求書等の保存を
求める制度)を早急に導入することにより、消費者の負担した消費税が
適正に国庫に納税されるようにします。
逆進性対策のため、将来的には「給付付き消費税額控除」を導入します。
これは、家計調査などの客観的な統計に基づき、年間の基礎的な消費支出に
かかる消費税相当額を一律に税額控除し、控除しきれない部分については
給付をするものです。
これにより消費税の公平性を維持し、かつ税率をできるだけ低く抑えながら、
最低限の生活にかかる消費税については実質的に免除することができるようになります。

民主党の消費税改革の特長は、消費税の完全年金財源化と、所得税にも
導入予定の給付付き消費税額控除の導入であろう。
消費税増税の必要性を繰り返した麻生首相・与謝野財務相及び財務省と
異なり、少なくとも現行の5%を維持したまま、消費税収は全て年金財源
として用いることを提言し、基礎的社会保障制度の抜本的な改革の検討の
中で、消費税の増税が本当に必要であれば、増税額を示した上で「国民の
審判を受ける」と明言しているところは非常に評価したい。
私見では消費税の早期増税が必要ではないのかと考えているが、その
増税額については、国からデータが示されていないため、何とも言えませんが
(経済財政諮問会議で公表されている資料では私には試算できませんでした)、
経済財政諮問会議に示された財務省の試算によれば、消費税率は10%に
止まらないわけで、本当にそこまで必要なのかな、という疑問がありますね。

ただ、世界的には消費税率5%というのは非常に低く、世界標準の20%台
への増税も考えられるところではあります。しかし、そうなるときには、
消費税率は複数税率(つまり、生活必需品は低税率、奢侈品は高税率)に
するべきでしょう。
世界的に見ても、単一税率は珍しいんですね。
諸外国の消費税は、生活必需品は低税率になるように組まれているんです。
(何が必需品で何が奢侈品かの線引きが難しいんですけどね・・・
例えば、政府流通米は低税率で魚沼コシヒカリは高税率ということも・・・)

簡素化・透明化という民主党案の基本方針からすると、複数税率の導入は
逆行しているのですが、もし増税するということであれば、生活必需品への
大増税を避けるためにも、必要な措置であろう。

民主党案では、所得税に導入するという給付付き税額控除を消費税にも
導入して、低消費者に対しての対応としたい旨を明記していますが、
日本ではできるんですかね?
日本の消費税法は、納税者は事業者であって消費者ではないんですが・・・
それとも、給付対象を歳入庁で計算して、給付する形をとるのでしょうか?
所得税では全員が確定申告をするという形に変えるとすれば十分実現可能な
給付付き税額控除ですが、消費税に関しては、消費者による申告は事実上
不可能でしょうから、どう制度設計するのか、注目したいところですね。

また、益税対策としてインボイス方式の完全導入を考えているようですが、
これも現実的とは言いがたいところです。
商法が要求する帳簿要件は、帳簿があればいいわけですし、所得税や法人税
においても、簡易帳簿があれば青色申告が可能であるにもかかわらず、
消費税だけは、請求書や領収書が必要になるという矛盾を判っていないから
消費税法の母法とも言うべきフランス法の常識を使いたがるんですね。
フランスは商法に厳格な帳簿規定があるから消費税法にインボイス方式が
あって当然なんですが、日本は、明治20年代の民法典論争と同様、
商法においても強烈な反対運動が起きており、その中には、帳簿を
つけなければいけないということは人を雇わなければいけないか、
というものさえあったんですね。
(ちなみに、私は、国士舘法学38号(2006)に掲載した「青色申告の帳簿要件」
と題した論文で、消費税法上の帳簿要件が厳格すぎる点を考えると、帳簿要件
による青色申告制度はすでに特典としての意味を持っていない旨、批判した。)

確かにインボイス制度が導入できれば、不正行為による課税逃れは難しく、
税務調査も簡略されることになるから、税務行政の簡素化もできるんですが、
その反面、日本ではそのためのインフラ整備が、特に中小企業では全くと
言っていいほどできていないというのが現状でしょう。
これは、記帳代行を収入源としている税理士が多いことからも容易に想像
できるが、インボイス制度に対応した領収書の作成が前提になるだけに、
日本中のお店が、レジスターを変えなければならなくなるでしょうね。
前段階での仮払消費税が見えなければ、インボイスの意味がなく、
税務行政の簡素化にはまったく役に立ちませんから。

そういう意味では、消費税を4年先以降に全面的に改正するためにも、
より深い検討が必要なんですよね。
ということは、鳩山代表の発言の真意は、4年間上げないではなくて、
議論が尽くされていない段階での消費税増税には応じられない、という
ところにあったのかもしれませんね。
だからこそ、選挙後に、連合に対して4年先以降の消費税増税の可能性を
示唆したのかもしれない。