民主党政権誕生による税制改正のゆくえ(4) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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民主党政権誕生による税制改正のゆくえ(4)

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税制改正 平成22年度税制改正
今日は、昨日に引き続き、所得税について検討したいと思います。
昨日検討し切れなかった所得税改正のテーマから
「住宅ローン減税等」
「金融所得課税改革の推進」
の2点について検討します。

まずは、住宅ローン減税等について、INDEX2009の文章を確認しよう。

「住宅ローン減税等」
住宅ローン減税については、いたずらに最大控除可能額を拡大する
のではなく、バリアフリー化や省エネなどの社会ニーズの高い分野に
対して重点的な負担軽減策を講じます。
また、自らの資金で住宅を新改築・購入した場合でも、住宅ローン減税と
同程度の負担軽減を受けることができる制度(投資減税)を創設し、
団塊世代などの建て替えやリフォームのニーズに応えます。
生損保など民間保険会社の保険料控除については、社会保障制度を
補完する遺族・医療・介護・老後(年金)といった保険商品に対応した、
新しい保険料控除制度を創設した上で、所得控除限度額を所得税において
15万円程度に引き上げます。


住宅ローン減税に関しては、平成21年度改正において控除額が拡充された
ところであるが、民主党案では、平成21年度改正においてなされたような
住宅ローン減税一般について控除額を拡充する方向ではなく、同じく
平成21年度改正において創設された長期優良住宅等の税額控除のような
政策目的として有用な重点項目に対する控除とするべきだとしており、
平成22年度改正において、住宅ローン減税の削減の反面、長期優良住宅等の
税額控除の拡充がなされることが予想される。
(長期優良住宅等の税額控除に関しては、税務弘報09年8月号に論文を
寄稿しています。7月5日の記事を参照して下さい。)

しょっちゅう改正され、確認しないとミスしかねない住宅ローン控除ですが、
民主党案を考えると、平成21年度改正の内容は1年ないし2年でまた
変わってしまいそうです。
それも一般化ではなく、特定のものに対する控除への変更。
後で詳細に検討しますが、税制の簡素化・透明化を進めようとする民主党の
基本姿勢からすると、逆行しているように感じますね。
むしろ、住宅ローン控除をもっと単純化した方が、他の改正との方向性が
近いと思うのですがね。
長期優良住宅等の認定基準を明確にし、もっと利便性を高めてくれると、
長期優良住宅等(いわゆる100年住宅)の建設が広がり、エコな家作りが
進むように思います。
ただし、8月29日記事で指摘したように、マンション建設では、イマイチ
進展していないようですが・・・

また、借入金がない自己資金での住宅建設や増改築についても負担軽減を
図る投資減税を導入するようです。
これは、自民党案にもありましたので、早期に実現すると思われます。
老年者の持つ余剰資金を独立した持ち家を考えている子ども・孫に生前贈与
する選択肢がより活発に行われることが期待されるだけではなく、相続税に
おいても、相続時精算課税制度を選択されるケースが増えることが予想される。

相続税においては、かつては市役所等から死亡情報を確認し、相続税のお尋ね
を送付することによって、税務署も相続税発生案件の確認をしていた時代も
あったようですが、個人情報保護法により、税務署が死亡情報を知る手段が
大幅に減っている状況では、相続時精算課税を選択して頂くことは、
一定規模の財産を保有している方を確認する手段として有効であろう。

財産を保有している方からすれば余計なことかもしれないが、財産を保有しない
一般庶民からすれば、相続税の課税漏れは不公平税制に繋がるだけに、
投資減税の裏の効果には期待を寄せているのではないだろうか。

また、生命保険料控除は、従来、一般の生保で5万円、年金型で5万円の
合計10万円の控除を上限とし、損害保険料控除は、平成18年改正で、
一般の損保は控除対象から外れ、地震保険料控除に組み替えられています。
民主党案では、損保控除については、文章から読み取ることはできませんが、
生保控除については、社会保障制度に対応する形で合計15万円を上限
とするよう改正されるようです。


次に、金融所得課税についてINDEX2009の文章を確認する。

「金融所得課税改革の推進」
本来すべての所得を合算して課税する「総合課税」が望ましいものの、
金融資産の流動性等にかんがみ、当分の間は金融所得については分離課税と
した上で、損益通算の範囲を拡大することとします。
証券税制の軽減税率については、経済金融情勢等にかんがみ当面維持します。


民主党の所得税改革の基本線は、所得分類による分離課税を廃し、全てを
合算する総合課税が望ましいと明言しているが、金融資産に関しては、
分離課税を維持するものの、損益通算(他の種類の所得と赤字の相殺を
できるようにする)の範囲を拡大する方針だという。

現在最高裁で係争中の、土地建物等の譲渡損失の損益通算の問題にも
大きな影響を与えるかもしれませんね。
(2日にアップした(1)にもこの問題は取り上げました。)
また、株式やゴルフ会員権の譲渡損失についても、損益通算が復活する
可能性があるのでしょう。

民主党案が損益通算の拡充をするのは、分離課税を温存する反面の対応策
でしかないと考えられるため、恒久的に損益通算拡充を検討している
わけではないことには留意する必要はあろうが、なけなしの資金をつぎ込んだ
資産の譲渡損失の損益通算が使えれば、少しは救われる気になるかもしれない。
しかし、塩漬けにされていた資産の損切りによる節税効果は、高額納税者
ほど大きなものとなるだけでなく、損切りの売却の悪影響として、資産価格の
さらなる低下も予想され、地価の下落が景気への悪影響を与えなければ
よいのだが、と危惧する面もあろう。

証券税制の軽減税率についても、税制の簡素化・透明化という意味では、
廃止すべきであろうが、株価低迷の折に増税を行うことは、景気への
悪影響になる可能性もあり、早急な廃止は見送られた。

そういう意味では、今日紹介した2点については、理想論に走りがちな
民主党の他の政策との齟齬が出かねないけれども、現実的な対応として
策定されたものが多いように感じるところですね。