現場への権限委譲の重要性は、一般的にもよく言われることです。
ある事象に対する組織内の判断基準が共有されていて、もしも経営者と一般社員が全く同じ判断ができるほどのレベルであったとしたら、現場にできるだけ多くのことが権限委譲されていた方が、早い判断が可能になり、業務のスピードをはじめとした組織効率を上げることができます。
こんなことから、組織の秩序を守るための最低限の事項だけを職制上の「公式権限」として残し、その他の業務権限はできるだけ末端まで権限委譲することが、最も早い判断ができる理想的な組織であると言われます。
権限委譲に関しては、どの経営者や管理者に聞いても、否定的な発言をする人はあまりいません。「うちの会社では、できるだけ本人たちに考えさせ、判断させている」「やる気さえあればいろいろな事を任され、主体的に取り組む事ができる」など、自社で積極的に権限委譲しているということをおっしゃる方がたくさんいます。
このように、「できるだけ権限委譲をしていくことが望ましい」という認識は共有されているのだと思いますが、その実態を見ていると、この“できるだけ”の部分がなかなか難しいところです。
経営者や管理者が持っている自分なりの感覚では、仕事のやり方や判断を、部下へそれなりに権限委譲しているという認識であったとしても、私などが第三者として見ていると、報告をかなり細かい内容や頻度で求めていたり、自分ではアドバイスのつもりでも、「こうした方が良い」というような結論を指示していたり、およそ任せているとは言えない関与の仕方を結構な割合で見かけます。
どこまで権限委譲をするかは、それが誰に対してなのか、またその時の状況がどうなのかによって違いますが、私が多くの会社を見てきた経験で思うのは、「自分が思った線引きから、さらにもう一歩任せてみること」が必要ではないかということです。
上司からすれば、任せられる部下とそうでない部下は当然いますが、それは白黒がはっきりしている訳ではありません。どこまで関わってどこから任せるかは、その時の状況によって違います。
また、結果責任は上司にありますから、権限委譲をする、任せるとは言っても、どちらかといえば安全サイドで判断しがちになるでしょうし、そうなるのはやむを得ない部分があるでしょう。権限委譲をするというのは、それほど難しいということだと思います。
ただ、私が見てきた中で、任せ過ぎて失敗したという例はもちろんありますが、それよりは任せることに慎重になりすぎて、結果として成長速度が遅くなり、いつまで経っても指示待ちで自立できなくなってしまうという例の方を多く見かける気がします。
本人の能力に対して、頑張れば手が届く、しかし背伸びをしなければ達成できないというレベルの仕事を経験していくことが、最も成長につながるといいます。それを継続していくことができれば、本人の成長速度は早まり、会社としては最終的な業績向上につながります。
権限委譲は具体的に考えるほど難しくなっていきますが、経営者や管理者という立場で思うレベルから、さらに一歩踏み込んでみるくらいの意識が、実はちょうど良いのではないかと思います。
いずれにしても、どこまで口を出してどこから任せるか、それを誰に対してどのように行うかなど、権限委譲というのは本当に難しい、永遠のテーマだと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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