今年のアカデミー賞ではミシェル・アザナヴィシウス監督作品のサイレント映画「アーティスト」が作品賞を含め5部門を受賞したことが大きな話題となりました。アカデミー賞をサイレント映画が受賞するのは83年振りといったことやフランス映画の受賞、など多くの話題を提供しました。
過去のアカデミー賞の受賞作をみてみると、その年の世相や空気感が反映されています。投票するアカデミー会員の方々がそれを考えながら票をいれているかどうかは分かりませんが、 今までの受賞作を見てみるとアメリカ国内の状況や世界の情勢などが反映されているといえるでしょう。
日本国内でも4月7日(土)からようやく劇場公開となりました。映画館で鑑賞しましたが大変優れた作品でした。ストーリーや演出等、素晴らしいところが盛りだくさん。白黒のサイレント映画ですが字幕が極力控えられ、見るものの想像力を駆り立てられるつくりとなっています。これまで映画に携わった全ての人々への感謝と敬意が伝わってきて、その辺りはアカデミー賞を争ったマーティン・スコセッシ監督「ヒューゴの不思議な発明」と共通するものがありました。
音楽は全編オーケストラでの演奏、弦楽器・管楽器・打楽器による演奏です。冒頭でサイレント映画全盛期の頃の映画上映のシーンがあり、その頃の映画音楽は現在のオペラと同じような形で生演奏されていました。スクリーンがステージ上にあってステージと客席の間にオーケストラピットと呼ばれる少し窪んだ空間でオーケストラによって劇音楽が演奏されていたことを知ることができます。
この映画の音楽はルドヴィック・ブールスが担当。サイレント映画からトーキーに移り変わる頃のハリウッド映画の音楽を見事に再現した音楽になっており(時代設定は1927年)懐かしさも感じさせます。言葉が無い分だけ音楽による心象の変化が重要になってきますが非常にうまい! 大編成のオケで演奏される場面は画面をよりダイナミックに、小さな音で低く鳴り響く銅鑼が聴こえる場面では見るものに緊張感と不安感を与え、ビッグバンドがにぎやかに騒ぎ立てる場面では華やかで気分を高揚させたり、と。
とにかく見所の多い「アーティスト」ですが、最後にひとつだけ。主人公の愛犬役を務めているジャックラッセル・テリアの『アギー』君の名演は見ものです。本作の演技により「国際映画祭パルムドッグ賞」「栄えある第1回金の首輪賞 最優秀俳優犬賞」など多くの賞を受賞しました。
このコラムの執筆専門家

- 成澤 利幸
- (長野県 / 音楽家、打楽器奏者)
- 成澤打楽器音楽教室
音楽はみんなのもの
楽器の演奏は専門家からのちょっとしたアドバイスによりスムーズに上達したり音楽の奥深さに触れることがあります。ドラムやマリンバ、いろいろな打楽器のレッスンを通して皆さんのお力になれればと思います。
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