不動産の購入や売却の仲介をする際は、
当然大きな金額を扱います。
不動産というのは、
普段扱うことがあまりない、
高額の商品ですから、
ダイナミックでそれだけにやりがいを感じるのは確かです。
しかし同時に恐怖感もあります。
売主や買主は不動産を買うこと・売ることによって、
人生を今までとは違う方向に転回させようとします。
万が一そこで失敗などしようものなら・・・
と考えると怖くて怖くて・・・。
ビビって仕事が出来ないようでは困りますが、
恐怖を全く感じないというのもまた問題です。
背後にそうした恐怖感があるからこそ、
取引に問題はないだろうか、
スケジュール通りに物事は進んでいるのだろうか、
何か不利な条項は契約書に入っていないだろうか、
と思うようになり、
仲介業者としてきちんと仕事をしようとするわけですから。
仲介業として駆け出しの頃、
とある物件の決済がありました。
売主・買主さん双方ご高齢で、
あまり細かいことを言ったりする人ではありませんでした。
経験の浅い私にはとてもやりやすい取引でした。
決済日当日、買主のおばあちゃんが、
銀行印と通帳を持ってくるのを忘れてしまい、
慌てて自宅まで取りに戻りました。
無事お金を振り込むことは出来ましたが、
取りに戻る時間が大きくかかってしまった為、
法務局が開いている時間に書類を持ちこむことが出来なくなってしまいました。
翌日改めて移転登記手続きをするしかないのですが、
無事決済も終わり、
のんきな私はやれやれと思っていたのです。
しかし、事務所に帰り所長にその旨を報告したところ、
大激怒されました。
「もし売主が悪意を持って、仮登記なんかを入れていたらどうするんだ!?」
「お金払ってるのに所有権移転が正常に行われなかったら、
お前は責任を取れるのか!?」
「お金の授受と所有権移転が同時に行われないなんて、
とんでもないイレギュラーなことだ!」
ことの重大性を初めて認識して、
青ざめる私。
売主さんの人柄から、
そのようなことは絶対にするはずないと思っていましたが、
やはり心配です。
「仮登記なんて入れてないですよね?」
なんて間抜けな質問をすることなど出来ないので、
じりじりと翌日まで不安な気持ちで待つしか出来ません。
この時程、翌朝が待ち遠しいと思ったことはありませんでした。
無事移転手続きが出来たと司法書士から報告があったときは、
身体の力が一気に抜けて、
一日仕事にならなかった位です。
人一人の人生を狂わせることって大変ですが、
不動産取引に関わる人間には、
それが出来てしまうし、
起こりえてしまいます。
その可能性を考えると、
やはり不動産という高額商品に携わる人間のモラルや、
人間性・専門性っていうのは、
小手先の営業テクニックや、
セールストークなんかよりも大切です。
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