◆大人のきれい字　書き方情報　（ことのは探訪）◆ vol.２２

こんにちは、今井淑恵です。

今日は「ことのは探訪」をお送りします。　

「雨」の音にも豊かな感性をもって聞いていたいにしえの人の

思いに触れてみませんか。

◆◆ことのは探訪　『今日のお題　～五月雨～』◆◆

日本語は「雨」の呼び名も多種多様。

時雨、みぞれ、こぬか雨、きつねの嫁入り、虎の泪……

インターネットの検索サイトで「雨の名前」と入力してみるだけでも、
多彩なバリエーションを誇っていることがわかります。

 そして面白いのは、
雨粒の形状や降り方の様態といった物理的な側面での分類だけでなく、
プラスαの印象を引き連れていることでしょう。

たとえば、「五月雨」という言葉。

旧暦の五月頃（新暦では六月）、
断続的にしとしとと降り続く雨というのが辞書的説明であるとすれば、
五月雨の時分は無聊（ぶりょう）をかこってしまうもの、
気晴らしのために他愛もない雑談に花を咲かせるもの、
というのがイメージ世界でのふくらみです。

古典文学でも、五月雨を背景に、
なにがしかのストーリー展開へもってゆくのは、よくある手法です。

有名どころでは源氏物語の「雨夜の品定め」でしょうか。

宿直（とのい）の手持ち無沙汰から、
若い貴公子たちが過去の恋愛談義を披露しあうのですが、
その場で頭中将が語った「常夏の姫君」が光源氏の心に残ります。
それが後には「夕顔の君」との恋愛につながってゆきます。

あるいは、大鏡が伝える藤原道長の剛毅ぶりも五月雨の夜のエピソード。

道隆、道兼、道長の三兄弟が、
花山院に命じられて夜の朝堂で肝試しをする羽目になった際、
二人の長兄が怯えて逃げ帰ったのに対して、
道長は玉座の一部を削り取ってきたいう話です。

天候を克服して、いかなる条件下でも仕事に邁進する現代人に比べると、
昔の人々は長雨に閉じ込められる度合いも大きかったのでしょう。

 そして、そこには予想外の物語が生まれる可能性も、
たくさんあったということでしょう。

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