第1章 幼稚園児は青信号で横断したのか? - 民事事件 - 専門家プロファイル

羽柴 駿
番町法律事務所 
東京都
弁護士

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対象:民事家事・生活トラブル

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第1章 幼稚園児は青信号で横断したのか?

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連載「刑事法廷」
第9回

 A君に対する証人尋問は、日中、事故現場で行われました。現場には裁判官、書記官、検察官、弁護人(私)のほか、F運転手も立会い、A君は母親に付き添われて現場に来ていました。
 このとき、F運転手と顔をあわせたA君の母親はいきなり、周囲も驚くような大声で、「ひとごろしーっ」と罵声をあびせました。
 A君の母親がこれほどまでにいきり立つのは、もちろんB君が亡くなったこともあるでしょうが、それよりもむしろ自分の子どもを守ろうとする母親としての防衛本能によるものではないかと私には思われました。つまり無意識のうちに、悪いのは全てF運転手でありA君は何も間違ったことをしていないとアピールすることで、自分の子どもを庇おうとしているのではないか、と思われたのです。
 A君の母親のこのような態度は、子を思う親として何ら責められることではありません。問題なのは、このようなA君の母親の言動がA君に与える影響です。もしA君が赤信号のうちに走り出していた場合、それはB君の死が自分の責任であることを意味しかねません。これだけでも真実を語るのには相当な勇気が必要でしょう。ましてや母親のこのような態度を目の当たりにしては、なおさら、仮に赤信号で渡っていたとしてもそうは言い出せないでしょう。
 このようなことを考慮すると、A君の証言はやはり相当慎重に吟味すべきものであるはずです。ところが、裁判官はそのような注意も全くなしに、A君の証言を鵜呑みにしたようでした。

                  (次回に続く)