- 尾上 雅典
- 行政書士エース環境法務事務所
- 大阪府
- 行政書士
対象:企業法務
- 尾上 雅典
- (行政書士)
- 河野 英仁
- (弁理士)
リスクコミュニケーションのあり方
(第1回目)地方自治体の規制運用の問題
(第2回目)廃棄物流通の阻害要因となっている規制
の続きです。
中央環境審議会 廃棄物・リサイクル部会 廃棄物処理制度専門員会において、現行の廃棄物処理制度の問題点の一つとして、「地方自治体の運用」が議論されました。
地方自治体の運用
住民同意や産業廃棄物の流入規制などの、産業廃棄物の円滑な処理を阻害している地方独自の規制を改善するべき
申請様式や添付書類、法の運用などが地方自治体ごとに異なる状況を改善するべき
というものです。
今回のコラムでは、「住民同意」について解説します。
許可権者はいったい誰!?
多くの自治体では、産業廃棄物処理施設を新規に設置する場合、その場所の近隣住民から合意を得る必要があります。
この「合意を得た」証拠として、「署名つきの同意書」や「説明会の議事録」を添付させられることが多くなっています。
しかしながら、廃棄物処理法には、「地元住民から合意を得なければ、廃棄物処理施設を設置してはならない」とは一言も書いてありません。
手続き的には、近隣住民の合意が無くても、行政は許可基準に適合する施設に対しては、許可を出さなくてはなりません。
では、なぜ多くの自治体で、同意書等の添付を求められるのでしょうか?
その理由は大きく分けると2つあります。
(理由1)
廃棄物処理施設の設置によって、生活環境に影響が出るかもしれない近隣住民に、事前に事業計画を説明させることで、リスクコミュニケーションを「強制的に」行わせる
(理由2)
「許可取消を求める行政訴訟」や「建設差止め請求」などの、(行政側の)訴訟リスクの回避
いずれの理由においても、法律が定めた手続きではないため、「行政指導」によって事業者側に「任意で」協力させているところが多いのが現状です。
行政指導である以上、それに従わずに手続きを進めたとしても、事業者側が不利益な処分を受けることはありません(建前では)。
行政指導とは、このように不安定な成立基盤しかありませんので、近年は地元合意を得る手続きを「条例」で規定するところが増えました。
「条例」の場合は、地方自治体が定めた「法令」ですので、「行政指導」とは段違いの強制力を有しています。
しかしそれでも、国会が議決、制定した「法律」の規定に反する定めをおくことはできません。
「条例」の規定が「法律」に反するものであるかどうかは、ケースバイケースとなり、一概に論じることはできませんが、「同意書などの添付が無いと、許可申請を受け付けない」というのは、行き過ぎた規制となることがあります。
リスクコミュニケーションの一環として、事業者側が地元へ説明を行うことは絶対に必要です。
ただ、それが「単なる説明」であったり、住民側からの「一方的な糾弾」では、説明会の開催目的を達することができなくなります。
生活環境を害する施設は論外ですが、技術的に安全と認められる施設の場合は、事業者と住民双方が冷静に話し合いをするほうが有益です。
そうするためには、一にも、二にも、事業者側がまず誠意ある姿勢を示す必要があります。
最近は、「同意書」の取得を徹底しすぎた結果、一部の関係者のみにお金が渡り、そのことが地域コミュニティの中で疑心暗鬼を呼び起こすことになり、地域の人間関係を破壊するケースも増えてきました。
その反省から、形だけの同意書取得ではなく、条例によって、地域の関係者が自由に参加できる説明会で話し合いをさせる自治体が増えています。
前回のコラムとも共通する内容ですが
行政は自ら率先して、リスクコミュニケーションが円滑に進むよう、事業者と住民間の調整を行っていく必要性が高まっています。
運営サイト 産業廃棄物許可コンサルティングセンター
著書 「最新産廃処理の基本と仕組みがよ〜くわかる本」