
- 寺崎 芳紀
- 株式会社アースソリューション 代表取締役
- 東京都
- 経営コンサルタント
-
03-5858-9916
対象:経営コンサルティング
- 戸村 智憲
- (経営コンサルタント ジャーナリスト 講師)
- 荒井 信雄
- (起業コンサルタント)
日本の介護サービスは、地域に深く根ざし、利用者一人ひとりに寄り添ったきめ細やかなケアを提供する、多くの中小規模の事業所によって支えられています。日々の運営に奮闘される中で、限られた人材や予算を、質の高いケアの提供や人材育成に優先的に振り向けたいと考えるのは自然なことかもしれません。その結果、情報セキュリティ対策については、「うちは規模が小さいから、サイバー攻撃の標的になることはないだろう」「情報漏洩なんて大企業の問題だ」と、どこか他人事のように捉え、対策が後回しにされがちな現状はないでしょうか。しかし、その「うちは小さいから大丈夫」という考えこそが、実は大きなリスクを招く可能性がある、重大な誤解なのです。
まず、「小さいから狙われない」という考えは、攻撃者の視点を見誤っています。確かに、大きな利益が見込める大企業を狙った攻撃は存在します。しかし、近年の攻撃者は、必ずしも大きな組織だけを標的にしているわけではありません。むしろ、セキュリティ対策が比較的甘い、あるいは手薄になりがちな中小企業を「侵入しやすい効率的なターゲット」と見なすケースが増えています。特に、大企業への攻撃の足がかりとして、取引先である中小企業を踏み台にする「サプライチェーン攻撃」と呼ばれる手口もあり、自社が意図せず加害者になってしまうリスクすらあります。また、特定の組織を狙うのではなく、無差別にウイルスをばらまくランサムウェアのような攻撃は、事業所の規模に関係なく襲いかかってきます。さらに忘れてはならないのは、情報漏洩の原因はサイバー攻撃だけではないという点です。従業員の不注意なミスや内部不正による情報漏洩は、事業所の規模に関係なく、どの組織でも起こりうる問題です。むしろ、情報管理に関する明確なルールがなかったり、従業員への教育が不十分だったりする中小事業所の方が、こうした内部リスクは高まる傾向にあると言えるかもしれません。そして何より、事業規模が小さくても、扱っている利用者情報の機密性の高さ、その価値は変わりません。
中小規模の介護事業所は、情報セキュリティ対策を進める上で、特有の課題を抱えがちです。限られた予算の中で、専門的な知識を持つ人材を確保したり、高価なセキュリティシステムを導入したりすることは容易ではありません。多くの場合、IT担当者が他の業務と兼務しており、セキュリティ対策に十分な時間や労力を割けないという実情もあるでしょう。最新の脅威や対策に関する情報を常にキャッチアップし、自社に合った対策を検討・実施するための知識やノウハウが不足していると感じる事業者も少なくありません。また、情報管理に関するルールが曖昧だったり、せっかくルールを作っても形骸化してしまったり、責任の所在が不明確になっているケースも見受けられます。そして、最も重要な点として、経営層自身が情報セキュリティの重要性を十分に認識しておらず、対策を単なるコストとしか捉えていない場合、組織全体としての対策は進みません。これらの弱点が複合的に作用し、結果的に大きなセキュリティインシデントを引き起こす脆弱性を生み出してしまうのです。
しかし、中小事業所だからといって、打つ手がないわけではありません。むしろ、中小規模であることの強みを活かした対策も可能です。何よりもまず必要なのは、経営トップが情報セキュリティの重要性を深く認識し、対策を推進していくという強いリーダーシップを示すことです。その上で、最初から完璧を目指すのではなく、自社の状況やリスクを把握し、「身の丈に合った対策」から着実に始めることが大切です。例えば、パスワードの適切な管理、OSやソフトウェアの定期的なアップデート、従業員への基本的な教育といった、コストをかけずに実施できる対策を徹底するだけでも、リスクを大幅に減らすことができます。自社だけですべてを賄おうとせず、ITベンダーや地域の商工会議所、IPA(情報処理推進機構)や「よろず支援拠点」といった公的な相談窓口など、外部のリソースを積極的に活用することも有効な手段です。補助金制度などを活用すれば、費用負担を抑えながら対策を進められる可能性もあります。また、小規模な組織ならではのコミュニケーションの取りやすさを活かし、情報管理に関する分かりやすいルールを作成し、全従業員に確実に周知徹底することも比較的容易なはずです。
事業の規模がどれだけであっても、利用者の大切な情報を守るという責任の重さに変わりはありません。「小さいから」という言葉を、対策を怠る言い訳にしてはいけません。自社のリスクを正しく認識し、できることから一つひとつ、着実に情報セキュリティ対策を進めていくこと。それこそが、利用者の信頼を守り、地域に必要とされる事業所として、将来にわたって安定的に事業を継続していくための不可欠な条件なのです。
このコラムの執筆専門家

- 寺崎 芳紀
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- 株式会社アースソリューション 代表取締役
介護事業所の開設から運営まで、オールワンでお手伝いいたします
有料老人ホーム施設長・訪問・通所介護管理者・老健相談員、事業所開発等の経験を活かし、2007年7月に弊社を設立しました。介護施設紹介サービスをはじめ、介護事業所の開設・運営支援等を行い、最近では介護関連の執筆活動にも力を入れております。
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