相続開始の時に、被相続人に係わる医療費が未払いであった場合には、その医療費は、相続税における被相続人の相続財産から差し引く債務の対象になる。またその医療費は、所得税における医療費控除の対象にもなる。「被相続人の医療費」は、「誰が支払ったか」、「いつ支払ったか」、によって税務上の取扱いが異なる。どのような場合に、相続税の債務控除の対象、所得税の医療費控除の対象となるか。
1.相続財産から控除できる債務
相続税を計算するときには、被相続人の借入金などの債務を遺産総額から差し引くことができる。控除できる債務は、被相続人が死亡した時に現に有する債務で、確実と認められるものである。
債務を控除できる人は、債務を実際に負担することになる相続人または包括受遺者である。
(1)医療費を、被相続人の生前に、被相続人が支払う場合
被相続人が、医療費を生前に自身で支払った場合は相続税の債務控除の対象とはならない(死亡する前に、被相続人が医療費の支払いを完了しているので債務ではない。)。
(2)未払医療費を、被相続人が死亡した後に、相続人が支払う場合
被相続人が死亡した時に、未払いである生前の被相続人の医療費は、病院などに対する債務である。その未払医療費を、相続人が支払った場合は、支払った相続人の相続税の債務控除の対象となる。
2.所得税の医療費控除
その年の1月1日から12月31日までの間に、本人または本人と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額について、所得税の計算において、医療費控除(所得控除)の適用を受けることができる。
医療費には、本人と生計を一にする親族の医療費も含まれる。親族の医療費については、医療費を支出すべき事由が生じた時(医師による診療等を受けた時や医薬品を購入して服用等をした時)または現実に医療費を支払った時において、その親族と生計を一にしていれば、医療費を支払った者の医療費控除の対象となる。
※「生計を一にする」とは必ずしも同一の家屋に起居している場合だけではない。修学や療養等のため、 他の親族と日常の起居を共にしていなくても修学や療養等の余暇にはその他の親族のもとで起居を共にすることを常例とし、学資金や療養金等の送金が行われている場合も該当する。
(1)医療費を、被相続人の生前に、被相続人が支払う場合
被相続人が生前に、医療費を自ら支払った場合は、被相続人の所得税の計算において、医療費控除の対象となる。年の途中で死亡した者は、相続人が1月1日から死亡した日までに確定した所得金額等を計算し、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をする(準確定申告)。被相続人の所得税の準確定申告において、被相続人が生前に支払った医療費は、医療費控除の適用を受ける。
(2)医療費を、被相続人の生前に、生計を一にする親族が支払う場合
被相続人の生前に、被相続人と生計を一にする親族が、医療費を支払ったような場合には、所得税の医療費控除の要件を満たしていれば、その親族の所得税の医療費控除の対象にすることもできる。
(3) 未払医療費を、被相続人が死亡した後に、相続人が支払う場合
被相続人が死亡した時に、未払いである生前の被相続人の医療費を、被相続人と生計を一にする親族の相続人が支払った場合には、支払った相続人の所得税の医療費控除の対象となる。
「生計を一にする親族に係わる医療費」とは、医療費を支出すべき事由が生じた時又は現実に医療費を支払った時の現況において、自己と生計を一にする親族に係わる医療費をいうこととされている。医療費を支出すべき事由が生じた時、すなわちその医療費の請求の基となった治療等を被相続人が受けた時に、医療費を支払った相続人と被相続人が生計を一にしていたのであれば、その医療費は相続人の所得税の医療費控除の対象となる。なお、所得税の医療費控除の対象となる金額は、「その年中に支払った医療費」である。つまり、その年中に現実に支払った医療費をいい、未払いとなっている医療費は、現実に支払われるまでは医療費控除の対象にはならない。被相続人の死亡後に支払われた医療費は、たとえ相続財産で支払われた場合であっても、被相続人が支払ったことにはならない。したがって、被相続人の所得税の準確定申告上、医療費控除の対象にすることはできない。
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