屋根の上で一日じゅう過ごしたい、何よりもお風呂が好き、小さなコンサートを開きたい・・・そんな夢を仕事を通じてひとつひとつ実現するのが好きなのです。
そして家には、家族が一体となるような大きな空間が必要です。日本の住宅には、子どもが自分の部屋にこもって出てこないような造りが多いですが、感心できません。子どもを個室に追いやるような家ではなく、みんながひとつの大きな空間で思い思いに過ごす、そうすることでつねに密なコミュニケーションが生まれる。そこには、気持ちのズレなど生じるはずがないと思うのです。
本来、日本の住宅は、大家族が集まって暮らすことを前提にした柔軟な空間でした。それがいつの間にか、中途半端に西洋流を取り入れたことで崩れてしまった。リビングの他にベッドルームがいくつあってという○LDKの発想です。
しかしながら、日本では西洋のように家族全員が集まれるだけのリビングの大きさが確保できませんでした。そのため、形だけのリビング+複数の個室という細切れの空間ができてしまった。
家というのは家族がみんなで暮らす箱ですから、お互いに干渉しあわないでいられるはずがありません。たとえば「屋根の家」では、家全体がひとつのワンルームになっているのですが、姉がそこで宿題を始めると、妹は気を遣ってテレビの音をイヤホンで聞いたりする。しかし、そんなふうに家族がお互いに相手のことを気にしながら暮らしていくことで、社会性が身に付いていくものなのです。
個室に閉じこもって「誰にも迷惑をかけてないんだから何をしても勝手でしょ」という環境より、誰かに迷惑がかかるようなことはできないという環境で、お互いが相手を気遣いながら暮らしていくことが、よい家族関係をつくり、ひいてはよい社会をつくっていくのではないかと思うのです。
このコラムの執筆専門家
- 手塚 由比
- (建築家)
- 株式会社手塚建築研究所
誰もが共通認識として「良い」と思えるような価値を追究したい
本当においしいお蕎麦は8割以上の人が「おいしい」と感じるように、建物にもみんなが「良い」と思える絶対的価値があると思います。この価値(デザイン)によって新しいものが生まれ、そこに住む人の生活が変わる。そんな空間をつくっていきたいと思います。
「手塚由比の建築コラム」のコラム
安くておいしい住宅(2005/12/01 00:12)