朝日新聞デジタル「沖縄建築パラダイス」で、インタビューが掲載されました。
タイトル は、『ミステリアスに波打つ石垣「グスク」』。
インタビューでは、はじめて沖縄に訪れた折に感激したグスクへの思いを語りました。
沖縄の城跡は「グスク」と呼ばれ、「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として、
世界遺産に登録されています。
「今帰仁(なきじん)グスク」「座喜味(ざきみ)グスク」などの有名な遺構とともに、
【沖縄・くすぬち平和文化館】が、取り上げられました 。
私のグスクへの思いと【沖縄・くすぬち平和文化館】との関わりについては
下記をご覧下さい。
■城壁に抱かれた建築
沖縄を思うとき、忘れられない景色がある。本島中部の座喜味城跡、丘の上の遺構である。
城壁のアーチをくぐると、琉球石灰岩積みの曲壁に囲まれた、空に開かれた広場に出た。城壁の上に立つと、うねる石積みの上を、遠く横切る水平線は、地上のあらゆるものより高く見えた。空への広場が生み出す守られた安らぎを感じつつ、外に向けて思いが広がる。そんな景色であった。
12年前のその日、はじめて沖縄を訪れた私は、沖縄に生きる真栄城玄徳・栄子夫妻の案内により、南部の戦跡や集団自決のあった壕、米軍基地を監視する丘などを見た。沖縄戦の悲惨な事実に言葉を失った私に、二人は海を見せてくれた。そして語った。「沖縄の人は、海のかなたのニライカナイという世界から、幸福がもたらされると信じ、苦難の歴史を乗り越えてきたのです。」「沖縄の思考は、海と同じで垂直でなく水平。人間関係も上下ではなく対等、平等です。」戦争と無縁の価値観を持つ沖縄が、最も悲惨な戦争を体験し、今もなお、米軍駐留が続く。その中でも自らの文化への誇りを失わず、それを育み続ける力強さ。戦争への怒り、平和を求める生き方への共感。いくつもの思いが交錯する中、城跡を訪れた。城壁の独特の曲線に、海の波のリズムが感じられた。石積の柔らかな表情は、命への慈しみに満ちて見えた。凝縮していた思いが、城壁の大らかな造形を前に解きほぐれていた。「ぬちどぅ宝」− 命こそ宝という言葉に象徴される沖縄文化の根幹をそこに感じた。
10年がたった。真栄城夫妻は長年一つの夢を持ち続けて来た。それは、平和と児童文化を育む建築を築くことである。その設計を依頼され、二人の夢の実現に参加することとなった。夫の玄徳さんは嘉手納基地内に土地を持つ反戦地主で、平和の問題に向かい続けている。妻の栄子さんは、児童文化活動を展開している。「基地であふれる沖縄をつくりだした私たち大人が、子どもに手渡せるものは何か。それは、平和がすべてに優先することを知らせることだ。」と語る二人の生き方の結晶であるこの建築は、紙芝居劇場、絵本の店、平和資料室からなる。
児童文化の本質を探り、それと呼応する建築空間をめざした。絵本は子どもの「個」を育み、紙芝居は「共感」を育む。二つは一人の人間の成長にかけがえのないものとして、深く結び付いている。これと呼応して建築は、絵本の空間には、内面へと向かう子どもを「守り、包み込む」特性が必要となる。紙芝居劇場には、集中しつつ、思いをその場へと解き放つ
「集中し、解き放つ」特性が必要となる。両者を基本となる一つの骨格が支え、その上で各特質を展開する、そういう構成を求めていった。この基本となる骨格として、沖縄の城壁をイメージした。城壁の揺るぎない存在感と自然への慈しみを持った表情こそ、子どもの成長の場にふさわしい。命を大切にする沖縄の心が込められた城壁によって、平和をテーマとするこの建築の意味は強められ、深められると考えた。
絵本の空間を、分厚い石積の城壁で囲み、子供の内面を「守り、包み込む空間」を築いた。本棚と天井の造形により、円の特性を強めた。城壁で庭を囲み、縁側により、絵本空間と庭との一体感を強めた。絵本空間の背後に、大人のサロンを配し、子どもとそれを見守る大人の関係を空間に刻み込んだ。
紙芝居劇場を、絵本空間の上に重ねた。下階から立ち上がる曲壁に、曲線を組み合わせ、内外の方向性が拮抗する「巴」の空間によって、「集中し、解き放つ」場を形作った。扇状に円を描きながら、斜めに上る木格子によって、中心に向かう高まりを強めた。外に向かう曲壁を、ロビーまで延長し、解き放つ空間特性を強調した。この解き放たれた「共感」が「個」を深める絵本空間へと循環するように、庭の螺旋階段と、ロビー吹抜の壁画により、両者を結び付けた。
平和資料室は、子どもの成長にとって、常に平和が必要なことを象徴するため、子どもの空間の背後に配置した。厳しい資料と向かい、平和について語り合う場として、矩形平面の上に、
反り上がった屋根を乗せ、屋根沿いに導かれる自然光によって、静けさの中に、希望が感じられる空間を形作った。
建築空間の特質に、沖縄の風土気候の特徴を織り込んでいった。この建築は、内部に周囲とは別世界を展開する目的から、壁が多く、窓の少ない構成となる。窓が少ないと、沖縄の強い日差しは制御しやすく、また、限られた光でも、反射しながら奥まで届くので、部屋が暗くなることはない。しかし、少ない窓で十分な通風を確保するため、夏の南風が効果的に入るよう
に、窓の配置に気を配った。また、子どもの世界を包む曲壁は、安定感と、空へと向かう広がりを生み出すために、内側にわずかに倒す造形とし、上からの強い光が乱反射して、柔らかい表情が生まれるようにコンクリート小たたきの仕上げとした。
この建築が、子どもたちと彼らを見守る大人たちの内面を、豊かに育み、その積み重ねが、平和を追求する力となることを願っている。(1999年)
このコラムの執筆専門家
- 西島 正樹
- (東京都 / 建築家)
- 西島正樹/プライム一級建築士事務所 建築家
一人ひとりの生き方と呼応し、内面を健やかに育む住宅を
家づくりを大切に考えることは、生き方を大切に考えることにつながるのではないでしょうか。一人ひとりの生き方、考え方に呼応してこそ、住む人の心を育む建築空間が生まれます。この世にひとつだけの家づくり。ぜひ、ご一緒できればと願っています。
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