Blog201405、租税法(その1) - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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Blog201405、租税法(その1)

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Blog201405、租税法

・成松洋一『Q&A会社法・会計と法人税法の異同点』
・『租税判例百選(第5版)』有斐閣


・『租税判例百選(第5版)』有斐閣
上記書籍のうち、所得税法の部分(№30~54事件)、法人税法の部分(№55~65事件)を読みました。
所得税法
・最高裁昭和36年3月6日、百選30事件、課税単位
夫婦の所得については、2分2乗方式は許されない。「2分2乗方式」とは、夫名義で得た所得を半分にして、半分を妻の所得として、各自に所得税法の税率を乗じる方式である。累進税率の制度では、所得税額を軽減できる。民法は、夫婦別産制を取っており、夫名義で得た財産は夫の所得となるからである。そして、他に、(離婚の場合は)財産分与請求権、(死別の場合には)相続分、(それ以外にも)扶養請求権が認められているから、夫婦の実質的平等は保たれている。
・夫婦財産契約と所得の帰属、百選31事件
夫婦財産契約は、対外的に、所得の帰属を決めるものではない。
・最高裁平成16年11月2日、所得税法56条の適用範囲、百選32事件(弁護士夫婦事件)
個人事業者(弁護士)が、生計を一にする配偶者(弁護士)に対して報酬を支払った場合、たとえ、当該配偶者が別に独立して事業(弁護士)を営んでいる事業者であっても、所得税法56条の例外は所得税法57条であるから、所得税法57条の例外(青色事業専従者または事業専従者の控除)に該当しない限り、所得税法56条の文理解釈により、事業所得の必要経費とすることはできない。
同旨、最高裁平成17年7月5日、弁護士・税理士夫婦事件。
これらの判例については、共稼ぎ夫婦に不利であるという批判がある。

・最高裁昭和46年11月9日、不法な所得、百選33事件
 利息制限法超過の利息は違法な所得であるが、貸主に収受されれば課税される。未収の利息は、法律違反なので、返済を強制できず、課税されない(管理支配基準)。

・最高裁平成22年7月6日、非課税所得、百選34事件
 遺族年金特約付き保険は、みなし相続財産として、相続税が課税されるので、遺族が受領する年金部分については、二重課税を避けるため、課税されない。

・不動産所得と譲渡所得の区別、百選37事件
 所得税法33条1項括弧書き、施行令79条により、借地権設定の権利金は、譲渡所得として扱われる。権利金の性質は本来であれば不動産所得ではあるが(最高裁昭和45年10月23日)、譲渡所得として扱うのは、高額の権利金について、累進税率による課税負担を軽減しようとする政策的配慮によるものである。

・最高裁昭和56年4月24日、事業所得と給与所得の区別、百選38事件
 弁護士の顧問料について、事業所得と給与所得の区別の判断基準を示した。結論は、事業所得と判示している。
「その顧問業務の具体的態様に応じて、その法的性格を判断しなければならないが、その場合、判断の一応の基準として、両者を次のように区別するのが相当である。すなわち、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかか重視されなければならない。」


・譲渡所得の意義・帰属年度、租税百選42事件
 所得税課税金額に対する更正決定取消等請求事件
 昭和47年12月26日  最高裁第3小法廷 判決
 棄却、 民集 第26巻10号2083頁
【判示事項】
 1、譲渡所得に対する課税の趣旨
2、不動産の売買において代金の支払が長期の割賦弁済による場合と譲渡所得の帰属年度
【裁判要旨】
 1、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者から他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解すべきである。
2、甲所有の不動産が、代金の支払は長期にわたる割賦弁済による約定のもとに、乙に売り渡された場合であっても、売買契約の成立当日所有権移転登記が経由され、当該不動産の所有権が確定的に乙に移転したときは、甲につき、譲渡所得の全部が右契約(登記)の日の属する年度に発生したものとして、これに対する課税をすべきである。
【参照法条】
 旧所得税法(昭和22年法律第27号)9条1項8号,旧所得税法(昭和22年法律第27号)10条1項
【解説】
上記判例の前提として、判例は、収入の基準として権利確定基準を採用している。
【参考判例】
所得税法違反被告事件
昭和40年9月8日最高裁第二小法廷  決定
 棄却、 刑集 第19巻6号630頁
【判示事項】
 一 売買代金債権が所得税法第10条第1項後段にいう「収入すべき金額」となる時期。
二 いわゆる解約手附として受領した金額は右の「収入すべき金額」に当るか。
【裁判要旨】
 一 売買代金債権は、法律上これを行使することができるようになったときに、所得税法第10条第1項後段にいう「収入すべき金額」となる。
二 いわゆる解約手附として受領した金額は、そのままでは、右の「収入すべき金額」に当らない。
【参照法条】
 所得税法10条1項,所得税法9条1項4号

所得税更正決定取消請求事件
昭和40年9月24日 最高裁第二小法廷 判決
 棄却、 民集 第19巻6号1688頁
【判示事項】
 第三者の債務の担保に供された抵当不動産が競売に付せられた場合における求償権の取立不能と譲渡所得の成否。
【裁判要旨】
 第三者の債務の担保に供された抵当不動産が競売に付せられ競落代金が納付された場合には、求償権が事実上取立不能であっても、譲渡所得は成立する。
【参照法条】
 所得税法9条1項8号
【解説】
 現行の所得税法65条では延払条件付販売等についての収入・費用の帰属時期を定めている。
また、現在は、棚卸資産であって一定の場合の所得税額の延納には、延払条件付譲渡の特例(所得税法132条)がある。

(延払条件付販売等に係る収入及び費用の帰属時期)
第六十五条  居住者が、延払条件付販売等に該当する棚卸資産の販売若しくは工事(製造を含む。)の請負又は役務の提供(次条第一項に規定する長期大規模工事の請負を除く。以下この条において「資産の販売等」という。)をした場合において、その資産の販売等に係る収入金額及び費用の額につき、その資産の販売等に係る目的物又は役務の引渡し又は提供の日の属する年以後の各年において政令で定める延払基準の方法により経理したときは、その経理した収入金額及び費用の額は、当該各年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額及び必要経費に算入する。ただし、当該資産の販売等に係る収入金額及び費用の額につき、同日の属する年の翌年以後のいずれかの年において当該延払基準の方法により経理しなかった場合は、その経理しなかった年の翌年分以後の年分の事業所得の金額の計算については、この限りでない。
2  居住者が、第六十七条の二第三項(リース取引に係る所得の金額の計算)に規定するリース取引による同条第一項に規定するリース資産の引渡し(以下この条において「リース譲渡」という。)を行った場合には、前項の規定にかかわらず、その対価の額を政令で定めるところにより利息に相当する部分とそれ以外の部分とに区分した場合における当該リース譲渡の日の属する年以後の各年の収入金額及び費用の額として政令で定める金額は、当該各年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額及び必要経費に算入する。
3  第一項に規定する延払条件付販売等とは、資産の販売等で次に掲げる要件に適合する条件を定めた契約に基づき当該条件により行われるもの及びリース譲渡をいう。
一  月賦、年賦その他の賦払の方法により三回以上に分割して対価の支払を受けること。
二  その資産の販売等に係る目的物又は役務の引渡し又は提供の期日の翌日から最後の賦払金の支払の期日までの期間が二年以上であること。
三  その他政令で定める要件
4  第二項の規定は、リース譲渡の日の属する年分の確定申告書に同項に規定する収入金額及び費用の額として政令で定める金額の総収入金額及び必要経費への算入に関する明細の記載がある場合に限り、適用する。
5  税務署長は、確定申告書の提出がなかった場合又は前項の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、その提出がなかったこと又はその記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、第二項の規定を適用することができる。
6  第一項の規定の適用を受ける居住者が死亡し又は出国をする場合における同項に規定する延払条件付販売等に該当する資産の販売等に係る収入金額及び費用の額の処理の特例その他同項又は第二項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

(延払条件付譲渡に係る所得税額の延納)
第百三十二条  税務署長は、居住者が山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の延払条件付譲渡をした場合において、次に掲げる要件のすべてを満たすときは、第一号に規定する申告書に係る第百二十八条(確定申告による納付)又は第百二十九条(死亡の場合の確定申告による納付)の規定により納付すべき所得税の額(延払条件付譲渡に係る税額が当該所得税の額に満たない場合には、その延払条件付譲渡に係る税額)の全部又は一部につき、その者(その相続人を含む。)の申請により、五年以内の延納を許可することができる。
一  その延払条件付譲渡をした日の属する年分の所得税に係る第百二十条第一項(確定所得申告)の規定による申告書(第百二十六条第一項(確定申告書を提出すべき者が出国をする場合の確定申告)の規定に該当して提出すべきものを除く。)又は第百二十五条第一項(年の中途で死亡した場合の確定申告)の規定による申告書をこれらの申告書の提出期限までに提出したこと。
二  延払条件付譲渡に係る税額が前号に規定する申告書に記載された第百二十条第一項第三号に掲げる所得税の額の二分の一に相当する金額を超えること。
三  延払条件付譲渡に係る税額が三十万円を超えること。
2  税務署長は、前項の規定による延納の許可をする場合には、その延納に係る所得税の額に相当する担保を徴さなければならない。ただし、その延納に係る所得税につき、その額が五十万円以下で、かつ、その延納の期間が三年以下である場合は、この限りでない。
3  第一項に規定する延払条件付譲渡とは、次に掲げる要件に適合する条件を定めた契約に基づき当該条件により行われる譲渡をいう。
一  月賦、年賦その他の賦払の方法により三回以上に分割して対価の支払を受けること。
二  その譲渡の目的物の引渡しの期日の翌日から最後の賦払金の支払の期日までの期間が二年以上であること。
三  その他政令で定める要件
4  第一項に規定する延払条件付譲渡に係る税額とは、同項第一号に規定する申告書に記載された第百二十条第一項第三号に掲げる所得税の額のうち、その延払条件付譲渡に係る契約において定められている支払の期日がその年の翌年以後に到来する延払条件付譲渡に係る賦払金の額(その年において既に支払を受けたものを除く。)の合計額に対応する山林所得の金額又は譲渡所得の金額に係る部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額をいう。


・譲渡所得の譲渡に「負担付き贈与」を含むか、 租税百選45事件
 課税処分取消請求事件
 昭和63年7月19日  最高裁第3小法廷  判決
 棄却 、 裁判集民事 第154号443頁
【判示事項】
 所得税法60条1項1号にいう「贈与」と負担付贈与
【裁判要旨】
 所得税法60条1項1号にいう「贈与」には贈与者に経済的な利益を生じさせる負担付贈与を含まない。
【参照法条】
 所得税法60条1項1号
【解説】
争点(1)所得税法60条1項の「贈与」が民法の贈与と同義であるか。
 民法においても狭義の「贈与」(民法549条)と「負担付き贈与」(民法555条)とは別個に規定され、異なる法効果を付与されていることから、所得税法60条1項の「贈与」は、同条の趣旨、目的を考慮して合理的に解釈すべきである。
争点(2)法人に対する贈与は課税するが、個人間の贈与に譲渡所得課税を行わず、取得価額・保有期間の引継ぎを認める趣旨は何か。
 所得税法33条の譲渡所得課税の趣旨が、譲渡対価の収受によるキャピタルゲイン実現時における増加益清算課税にあるから、贈与等の無償による資産の譲渡があった場合においても、その移転の時の価額により、その資産の譲渡があったものとみなして、譲渡所得を課税するのが原則であるが(所得税法59条)、親族間の贈与のように現実に譲渡収入がないところに課税を行うのは納税者の勘定にそぐわない等の観点から、租税政策的観点から、所得税法60条が設けられ、贈与者等の取得価額を受像者・相続人に引継ぐことにより、譲渡所得課税の延期が図られた。
 それゆえ、所得税法60条1項1号の「贈与」の意義を、同条の立法趣旨から、負担のない単純贈与と、負担付き贈与のうち、受贈者の負担が贈与者に対して経済的利益をもたらさないものに限定して解釈すべきと解される。
 すなわち、受贈者の負担が贈与者に対して経済的利益をもたらす負担付き贈与は、所得税法60条1項1号の「贈与」に含まれず、譲渡所得課税の対象になると解される。
争点(3)本件については適用されるのは、土地に関して、租税特別措置法31条の長期譲渡所得か、それとも、租税特別措置法32条の短期譲渡所得であるか。
 本件では、短期譲渡所得が適用された。

所得税法
(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
第五十九条  次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす。
一  贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二  著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2  居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかったものとみなす。

(贈与等により取得した資産の取得費等)
第六十条  居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一  贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)
二  前条第二項の規定に該当する譲渡
2  居住者が前条第一項第一号に掲げる相続又は遺贈により取得した資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が当該資産をその取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす。

・譲渡所得の譲渡の意義、財産分与、 租税百選46事件
所得税更正処分取消請求事件
 昭和50年5月27日 最高裁第3小法廷 判決
 棄却、 民集 第29巻5号641頁
【判示事項】
 財産分与としての不動産の譲渡と譲渡所得課税
【裁判要旨】
 財産分与としてされた不動産の譲渡は、分与者は、これによって財産分与義務の消滅という経済的利益を享受するから、譲渡所得課税の対象となる。
【参照法条】
 所得税法33条1項,所得税法33条3項,所得税法36条1項,所得税法36条2項,所得税法(昭和44年法律第14号による改正前のもの)33条3項

(譲渡所得)
第三十三条  譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
2  次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一  たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二  前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得
3  譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
一  資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)
二  資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの
4  前項に規定する譲渡所得の特別控除額は、五十万円(譲渡益が五十万円に満たない場合には、当該譲渡益)とする。
5  第三項の規定により譲渡益から同項に規定する譲渡所得の特別控除額を控除する場合には、まず、当該譲渡益のうち同項第一号に掲げる所得に係る部分の金額から控除するものとする。

(収入金額)
第三十六条  その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2  前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。


・譲渡所得における取得費に借入金利息が含まれるか、租税百選47事件
所得税更正処分等取消請求事件
 平成4年7月14日 最高裁第3小法廷  判決
棄却、 民集 第46巻5号492頁
【判示事項】
 個人の居住の用に供される不動産を取得するための借入金の利子と所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」
【裁判要旨】
 個人の居住の用に供される不動産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、当該不動産の取得のために代金の全部又は一部の借入れをした場合における借入金の利子は、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものに限り、所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に含まれる。
【参照法条】
 所得税法38条1項
【解説】
 居住用資産の取得に付随する借入金の支払利子は、家事費であるが、使用開始までの期間に対応する支払利子は、資産の取得に係る用途に供するための「準備費用」であり、資産を取得するための「付随費用」に該当するとした。

(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)
第三十八条  譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。
2  譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、前項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間のうち次の各号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額を控除した金額とする。
一  その資産が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供されていた期間 第四十九条第一項(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)の規定により当該期間内の日の属する各年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるその資産の償却費の額の累積額
二  前号に掲げる期間以外の期間 第四十九条第一項の規定に準じて政令で定めるところにより計算したその資産の当該期間に係る減価の額
   

・譲渡所得における取得費の引継ぎ、ゴルフ会員権贈与、租税百選48事件
所得税更正処分取消請求事件
 平成17年2月1日 最高裁第3小法廷 判決
 破棄自判、 裁判集民事 第216号279頁
【判示事項】
 1 受贈者が贈与者から資産を取得するために要した付随費用の額と所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」
2 ゴルフ会員権の受贈者が贈与を受けた際に支払った名義書換手数料の額と,所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」
【裁判要旨】
 1 受贈者が贈与者から資産を取得するために要した付随費用の額は,受贈者が同資産を譲渡した場合に所得税法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において,同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に当たる。
2 ゴルフ会員権の受贈者が贈与を受けた際に支払った名義書換手数料の額は,受贈者が同会員権を譲渡した場合に所得税法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において,同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に算入される。
【参照法条】
 所得税法33条3項,所得税法38条1項,所得税法60条1項,民法第3編第2章 契約

(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)
第三十八条  譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。
2  譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、前項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間のうち次の各号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額を控除した金額とする。
一  その資産が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供されていた期間 第四十九条第一項(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)の規定により当該期間内の日の属する各年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるその資産の償却費の額の累積額
二  前号に掲げる期間以外の期間 第四十九条第一項の規定に準じて政令で定めるところにより計算したその資産の当該期間に係る減価の額
   
(譲渡所得)
第三十三条  譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
2  次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一  たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二  前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得
3  譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
一  資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)
二  資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの
4  前項に規定する譲渡所得の特別控除額は、五十万円(譲渡益が五十万円に満たない場合には、当該譲渡益)とする。
5  第三項の規定により譲渡益から同項に規定する譲渡所得の特別控除額を控除する場合には、まず、当該譲渡益のうち同項第一号に掲げる所得に係る部分の金額から控除するものとする。

(贈与等により取得した資産の取得費等)
第六十条  居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一  贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)
二  前条第二項の規定に該当する譲渡
2  居住者が前条第一項第一号に掲げる相続又は遺贈により取得した資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が当該資産をその取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす。

【参考判例】
所得税更正処分等取消請求事件
平成18年4月20日  最高裁第一小法廷  判決
 破棄差戻し、裁判集民事第220号141頁
【判示事項】
 1 資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たるかどうかの判断基準
2 土地改良区の組合員が同区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり土地改良法42条2項に基づき同区に支払った決済金が所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たるとされた事例
3 土地改良区の組合員が同区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり土地改良施設の目的外使用に関する同区の規程に基づき同区に支払った使用負担金が所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たるとされた事例
【裁判要旨】
 1 資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たるかどうかは,現実に行われた資産の譲渡を前提として,客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきである。
2 土地改良区の組合員が同区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり土地改良法42条2項に基づき同区に対し決済金を支払った場合において,上記組合員が上記農地を転用目的で譲渡するためには同項の規定を受けて定められた同区の規程により上記決済金を支払わなければならなかったという事実関係の下では,上記決済金は,上記農地を転用目的で譲渡するか否かにかかわらず決済の時点で既に支払義務が発生していた賦課金等の未納入金に係るものを除き,上記農地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除されるべき所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たる。
3 土地改良区の組合員が同区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり土地改良施設の目的外使用に関する同区の規程に基づき同区に対し使用負担金を支払った場合において,上記使用負担金の支払により,転用された土地のために土地改良施設を将来にわたり使用することができることになり,上記農地の譲渡価額の増額がもたらされるものであるという事情の下では,上記使用負担金は,上記農地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除されるべき所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たる。
【参照法条】
 (1~3につき)所得税法33条3項 (2につき)土地改良法42条2項


・自動車は所得税法69条2項の「生活に通常必要でない資産」に当たるか。(サラリーマン・マイカー税金訴訟事件)、租税百選49事件
所得税更正処分取消請求事件
 平成2年3月23日  最高裁第2小法廷  判決
 棄却、 裁判集民事 第159号339頁
【判示事項】
 給与所得者の自家用自動車の譲渡による損失の金額をその給与所得の金額から控除することができないとされた事例
【裁判要旨】
 給与所得者が、自家用自動車を譲渡した場合において、当該自動車の全走行距離の約8パーセントを通勤のために使用しているにすぎないなど判示の事情の下においては、当該自動車は所得税法69条2項にいう「生活に通常必要でない資産」に当たり、その譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を同人の給与所得の金額から控除することはできない。
【参照法条】
 所得税法62条1項,所得税法69条,所得税法施行令25条,所得税法施行令178条

(生活に通常必要でない資産の災害による損失)
第六十二条  居住者が、災害又は盗難若しくは横領により、生活に通常必要でない資産として政令で定めるものについて受けた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)は、政令で定めるところにより、その者のその損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす。
2  前項に規定する損失の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める。

所得税法施行令(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)
第百七十八条  法第六十二条第一項 (生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。
一  競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
二  通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産
三  生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの
2  法第六十二条第一項 の規定により、同項 に規定する生活に通常必要でない資産について受けた同項 に規定する損失の金額をその生じた日の属する年分及びその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす場合には、次に定めるところによる。
一  まず、当該損失の金額をその生じた日の属する年分の法第三十三条第三項第一号 (譲渡所得)に掲げる所得の金額の計算上控除すべき金額とし、当該所得の金額の計算上控除しきれない損失の金額があるときは、これを当該年分の同項第二号 に掲げる所得の金額の計算上控除すべき金額とする。
二  前号の規定によりなお控除しきれない損失の金額があるときは、これをその生じた日の属する年の翌年分の法第三十三条第三項第一号 に掲げる所得の金額の計算上控除すべき金額とし、なお控除しきれない損失の金額があるときは、これを当該翌年分の同項第二号 に掲げる所得の金額の計算上控除すべき金額とする。
3  法第六十二条第一項 に規定する生活に通常必要でない資産について受けた損失の金額の計算の基礎となるその資産の価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする。
一  法第三十八条第一項 (譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)に規定する資産(次号に掲げるものを除く。) 当該損失の生じた日にその資産の譲渡があつたものとみなして同項 の規定(その資産が昭和二十七年十二月三十一日以前から引き続き所有していたものである場合には、法第六十一条第二項 (昭和二十七年十二月三十一日以前に取得した資産の取得費)の規定)を適用した場合にその資産の取得費とされる金額に相当する金額
二  法第三十八条第二項 に規定する資産 当該損失の生じた日にその資産の譲渡があつたものとみなして同項 の規定(その資産が昭和二十七年十二月三十一日以前から引き続き所有していたものである場合には、法第六十一条第三項 の規定)を適用した場合にその資産の取得費とされる金額に相当する金額
 
(損益通算)
第六十九条  総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。
2  前項の場合において、同項に規定する損失の金額のうちに第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産に係る所得の金額(以下この項において「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額」という。)の計算上生じた損失の金額があるときは、当該損失の金額のうち政令で定めるものは政令で定めるところにより他の生活に通常必要でない資産に係る所得の金額から控除するものとし、当該政令で定めるもの以外のもの及び当該控除をしてもなお控除しきれないものは生じなかつたものとみなす。

第2条1項
九  自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゅう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得

所得税法施行令
(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)
第二十五条  法第九条第一項第九号 (非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のものとする。
一  貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二  書画、こつとう及び美術工芸品