株価操縦(協同飼料事件) - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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東京都
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閲覧数順 2017年10月23日更新

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株価操縦(協同飼料事件)

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相続

株価操縦(協同飼料事件)

最高裁判所第3小法廷決定平成6年7月20日、刑集48巻5号201頁

証券取引法違反、商法違反被告事件、『金融商品取引法判例百選』54事件

【判決要旨】

1 証券取引法(昭和63年法律第75号による改正前のもの)125条2項1号後段は、有価証券の相場を変動させるべき一連の売買取引等のすべてを違法とするものではなく、人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的をもってする、相場を変動させる可能性のある売買取引等を禁止するものである。

2 証券取引法(昭和63年法律第75号による改正前のもの)125条2項1号後段違反の罪及び同条3項違反の罪は、刑法65条1項にいう身分によって構成すべき犯罪ではない。

【参照条文】 証券取引法125条2項(昭63法75号改正前)

       証券取引法197条(昭56法62号改正前)

       証券取引法80条2項

       証券取引法125条3項(昭63法75号改正前)

       証券取引法107条(昭63法75号改正前)

       刑法65条1項

現行・金融商品取引法197条1項5号、159条1項3号、7号

 一 本件は、東京証券取引所第一部上場の大手飼料メーカーである協同飼料株式会社が昭和47年に行った株価操作事件である。

本件当時の同会社の副社長及び経理部長は、時価発行公募により増資を実施するに当たり、当時の被告会社の株価が1株170円から180円程度であったのを280円位まで高騰させ、公募価格を200円に高く設定して、被告会社にプレミアム18億7500万円を含め約30億円の資金調達を図ることを企て、証券会社の支店長らと共謀して、株価をつり上げたり(変動操作)、維持(安定操作〕するなどの相場操縦をし、また自己株式の不正取得を敢行したものである。

 昭和23年に証券取引法が制定されて以来昭和48年までの25年間で、同法125条違反により起訴された最初の事件が本件である。

その理由は、同法125条2項に規定する誘引目的の立証が困難であるためとされており、本件でも同法125条2項1号後段の変動操作の意義が問題となったものである。

 なお、本件当時の証券取引法125条は、平成4年法律第73号による改正後は、現行証券取引法159条に相当する。

 二 自然の需給関係によって形成されるべき相場に人為的な操作を加えて、し意的な相場形成を図る行為を広く相場操縦というが、証券取引法125条は相場操縦を禁止するものであり、同条1項1号は仮装売買、1項2号、3号は馴れ合い売買による相場操縦を禁止し、2項2号、3号は不当な表示による相場操縦を禁止するものであるが、2項1号及び3項は、現実の売買取引による相場の騰貴、下落あるいは変動の防止を図るという相場操縦を禁止しようとするものである。

 現実の売買取引による相場操縦は、それ自体適法な通常の場合と形を同じくするだけに、適法な売買取引と違法な売買取引の区別の基準が必要になる。

同法125条2項1号後段の変動操作の構成要件は、「有価証券市場における有価証券の売買取引を誘引する目的をもって」という主観的要件と、「相場を変動させるべき一連の有価証券の売買取引又はその委託若しくは受託をすること」という客観的要件から成っている。

有価証券市場においては、有価証券を大量に継続して売買取引をするだけでも相場を変動させるのであるが、大量、継続の売買取引自体は違法ではなく、違法な取引と適法な取引との区別の基準は、主観的要件である「誘引目的」の有無によると解されており、この点について学説に異論はないと思われる。

ただ、学説は、誘引目的という主観的要件の意義、内容について直接に定義を示すものはなく、立証との関係で、誘引目的は自白でもない限り立証が困難であるから、客観的要件である「相場を変動させるべき売買取引」に異常な状況がある場合に、誘引目的が推認され違法となるとしている(鈴木竹雄=河本一郎『証券取引法[新版]』531頁~532頁、龍田節『現代の経済構造と法』519頁~520頁、神崎克郎『証券取引法[新版]』636頁~637頁、松元亘「相場操縦の禁止について」法学研究2 146頁、田中誠二=堀口亘『コンメンタール証券取引法』433頁)。

 三 本決定は、「証券取引法125条2項1号後段は、有価証券の相場を変動させるべき一連の売買取引等のすべてを違法とするものではなく、人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的をもってする、相場を変動させる可能性のある売買取引等を禁止するものである」との判示をして、証券取引法125条2項1号後段にいう「誘引目的」や「相場を変動させるべき売買取引」の意義を明らかにした最高裁としての初めての判断であり、「誘引目的」に違法要素を含ませ、「誘引目的」の有無が違法取引と適法取引を区別する基準になり、また、「相場を変動させるべき売買取引」とは、「相場を変動させる可能性のある売買取引」をいうとの判断を示したものである。

 四 次に、本決定は、職権で、証券取引法125条2項1号後段違反の罪及び同条3項違反の罪は、刑法65条1項にいう身分によって構成すべき犯罪ではないとの判断を示した。

 学説は、

(1)証券取引法125条2項1号後段(変動操作)及び3項(安定操作)の罪につき、同法107条が「有価証券市場における売買取引は、当該有価証券市場を開設する証券取引所の会員に限り、これをなすことができる。」と規定しており、「売買取引」という語は「売買」とは異なり、取引所市場におけるものに限定して使われるべきものであることなどから、会員による取引所市場における売買取引についてのみ相場操縦罪は成立し、同法125条の被適用主体は、証券取引所の会員(証券会社)に限られるとの見解(鈴木竹雄=河本一郎『証券取引法[新版]』528頁など)、

(2)同法125条は取引所市場における売買取引に限ってのみ適用されるものではなく、取引所市場外における売買取引にも適用があること、会員以外の者が会員である証券会社の承諾を得て、あるいはこれと共同して売買取引を行う場合を規制対象からあえて除外しているものではないとして、同法125条の法文どおり「何人も」同法125条違反の罪の主体となり得るとの見解(証券取引法研究会・インベストメント昭和40年11=12月合併号85頁〔川又良也〕、馬場義宣「証券取引法」『注釈特別刑法第5巻I』276頁など)

とに分かれていた。

また、裁判例においても、本件以後に証券取引法125条違反により起訴された事件では、いずれも身分犯とは解していないが、本件控訴審判決のみが身分犯であると解して、解釈が分かれていた。

 本決定は、判示のとおり、身分犯でないことを明らかにしたものである。