インサイダー取引の「公開買付け等を行うことについての決定」の意義 (村上ファンド事件) - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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インサイダー取引の「公開買付け等を行うことについての決定」の意義 (村上ファンド事件)

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相続

インサイダー取引の「公開買付け等を行うことについての決定」の意義 (村上ファンド事件)

最高裁判所第1小法廷決定平成23年6月6日

刑集65巻4号385頁、証券取引法違反被告事件、『金融商品取引法判例百選』62事件

【判示事項】 証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」の意義

【判決要旨】 証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには、同項にいう「業務執行を決定する機関」において、公開買付け等の実現を意図して、公開買付け等またはそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り、公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しない。

参照条文】 証券取引法(平成16年法律第97号による改正前のもの)167-1

       証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167-2

       証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167-3

       証券取引法施行令(平成17年政令第19号による改正前のもの)31

【出  典】 判例タイムズ1353号92頁

 1 本件は,村上ファンドに係るニッポン放送株のインサイダー取引の事案であり,被告人Zは,被告会社の取締役であり実質的経営者であったものであるが,平成16年11月8日ころ,株式会社ライブドア代表取締役兼最高経営責任者であったAらから,同社の業務執行を決定する機関が同社においてニッポン放送の総株主の議決権数の5%以上の株券等を買い集めることについての決定をした旨の公開買付けに準ずる行為の実施に関する事実の伝達を受けた後,同事実の公表前である同年11月9日から平成17年1月26日までの間,ニッポン放送株合計193万3100株を価格合計99億5216万円余りで買い付けた行為が,証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条3項に違反するとして,起訴された事案である。

 2 本件で問題となったのは,いわゆるインサイダー取引として処罰される取引のうち,証券取引法167条が規定する類型,すなわち,公開買付け等の実施に関する事実を知った公開買付者等関係者及び情報受領者による当該公開買付け等の対象となった株券等の取引であり,そのうち,「公開買付け等の実施に関する事実を知った」という要件を満たすか否かが主たる争点となった。より具体的には,証券取引法167条2項が,「公開買付け等の実施に関する事実」とは,公開買付者等が法人である場合,当該法人の「業務執行を決定する機関」が「公開買付け等を行うことについて決定をしたこと」と規定し,証券取引法施行令(平成17年政令第19号による改正前のもの)31条は,会社の総株主の議決権数の5%以上の株券等の買集めを,公開買付けに準ずる行為と定めていることから,①A及び,ライブドアの取締役兼最高財務責任者であったBが,ライブドアの業務執行を決定する機関であるか,②A及びBが,平成16年11月8日までの間に,ニッポン放送株の5%以上の大量買集めを行うことについての決定をしたのか,③被告人に故意があったのかが争点となった。

 3 1審判決は,A及びBは,ライブドアの業務執行を決定する機関であり,両名は,平成16年9月15日,ニッポン放送株の5%以上の大量買集めを行うことについての決定をし,それが同年11月8日に被告人に伝達され,被告人の故意が認められるとし,被告会社に対し罰金3億円を,被告人に対し懲役2年及び罰金300万円を,それぞれ言渡した。その理由の中で,同年11月8日頃のライブドアの資金調達力に照らして,ライブドアがニッポン放送株の大量買集めを実現する可能性はなかったから,「公開買付け等を行うことについての決定をしたこと」(以下,単に「公開買付け等の決定」ともいう。)はなかったとの被告人側の主張については,「公開買付け等の決定」とは,業務執行を決定する機関において,公開買付け等それ自体や公開買付け等に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいうと解するのが相当であり,公開買付け等の実現可能性が全くない場合は除かれるが,あれば足り,その高低は問題とならないと判示した。

 これに対し,被告人らが,法令適用の誤り,事実誤認,量刑不当を理由に控訴し,原判決は,量刑不当の論旨を容れて,1審判決を破棄し,被告会社に対し罰金2億円を,被告人に対し,懲役2年・3年間執行猶予,罰金300万円を言い渡した。「公開買付け等の決定」と公開買付け等の実現可能性の関係については,実現可能性は,投資者の投資判断に影響を及ぼし得るか否かを実質判断する際に重要な指標となり,主観的(内部的)にも,客観的にも,それ相応の根拠を持って実現可能性があるといえて初めて,「公開買付け等の決定」に該当するということができると判示して,この点に関する1審判決の考え方には賛同できないが,本件では1審判決の解釈を前提にしても「公開買付け等の決定」があったと認められるから,1審判決には判決に影響を及ぼすまでの法令の適用の誤りはないとした。

 4 ところで,証券取引法166条2項1号にいう株式の発行を行うことについての「決定」の意義については,最一小判平11.6.10刑集53巻5号415頁が,「証券取引法166条2項1号にいう『株式の発行』を行うことについての『決定』をしたとは,右のような機関において,株式の発行それ自体や株式の発行に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいうものであり,右決定をしたというためには右機関において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが,当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しないと解するのが相当である。」と判示している。

同判例を前提にして,学説上は,インサイダー取引罪の構成要件である「決定」の有無の認定に当たり,「投資者の投資判断に影響を及ぼし得るか否か,すなわち事実の重要性は,理論的には,事実が実現した場合の規模と実現可能性を掛け合わせたものになるはずであり,実現可能性が低ければ重要性も低くなる。『決定』に該当するためには実現可能性がきわめて低くてもよい趣旨であるとすると,インサイダー取引規制を不当に拡大することになるので賛成しがたい。」と述べて(黒沼悦郎「インサイダー取引における『決定にかかる重要事実』の意義」商事1609号27頁),実現可能性の有無程度に重きを置くと見られる見解がある一方,「法167条においては,実現可能性の大小や公開買付者等関係者の実現可能性に対する認識はインサイダー取引の構成要件として規定されていない。そうだとすれば,かかる判例がある以上,実現可能性の大小にかかわらず,公開買付け等に向けた作業等を会社の業務として行う旨が決定されたことを知ってしまった者は,発行会社の株券等の買付け等を行うことを控えざるを得ないことになろう。」と述べて(荻野敦史「公開買付者等関係者のインサイダー取引規制」MARR142号17頁),実現可能性の大小を問わないという見解もあり,実現可能性の要否,要すると解する場合の程度に関して,通説というベき見解までは確立されていないような状況にあった。

 このような状況の中,「決定」の有無を判断する際に,公開買付け等の実現可能性をどのように位置付けるのかについて,本件の1審判決と原判決とで異なる解釈が示され,原判決の評釈の中には,前記平成11年判決に言及した上で,原判決の判断が最高裁でも維持されるのか注目されるとの指摘をするものもあった(太田洋=宇野伸太郎「村上ファンド事件東京高裁判決の意義と実務への影響」金判1315号4頁)。

 5 本決定は,上告趣意は適法な上告理由に当たらないとした上で,職権で,インサイダー取引罪が成立する旨判示した。「決定」の有無の判断の際に公開買付け等の実現可能性がどのように位置付けられるかという点に関しては,証券取引法167条は,インサイダー取引としての規制範囲を明確にして,予測可能性を高める見地から,同条2項の決定の事実があれば通常それのみで投資判断に影響を及ぼし得ると認められる行為に規制対象を限定することによって,投資判断に対する個々具体的な影響の有無程度を問わないこととした趣旨と解されるとした上で,証券取引法167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには,同項にいう「業務執行を決定する機関」において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しない旨判示した。

 本決定は,「決定」の有無の判断の際に,決定に係る事項の実現可能性がどのように位置付けられるかという前記平成11年判決以来の論点に関し,実現可能性が具体的に認められることを要しないことを明らかにしたという点で,実務上,有意義な判断を示したものと思われる。