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村田 英幸
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独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するとされた事例

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独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するとされた事例

最判平成22年12月17日・民集64巻8号2067頁 、審決取消請求事件

【判示事項】 自ら設置した加入者光ファイバ設備を用いて戸建て住宅向けの通信サービスを加入者に提供している第一種電気通信事業者が,他の電気通信事業者に対して上記設備を接続させて利用させる法令上の義務を負っていた場合において,自ら提供する上記サービスの加入者から利用の対価として徴収するユーザー料金の届出に当たっては,光ファイバ1芯を複数の加入者で共用する安価な方式を用いることを前提としながら,実際の加入者への上記サービスの提供に際しては光ファイバ1芯を1人の加入者で専用する高価な方式を用いる一方で,その方式による上記設備への接続の対価として他の電気通信事業者から取得すべき接続料金については自らのユーザー料金を上回る金額の認可を受けてこれを提示し,自らのユーザー料金が当該接続料金を下回るようになるものとした行為が,独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するとされた事例

【判決要旨】 自ら設置した加入者光ファイバ設備を用いて戸建て住宅向けの通信サービスを加入者に提供している第一種電気通信事業者が、他の電気通信事業者に対して上記設備を接続させて利用させる法令上の義務を負っていた場合において、自ら提供する上記サービスの加入者から利用の対価として徴収するユーザー料金の届出にあたっては、光ファイバ1芯を複数の加入者で共用する安価な方式を用いることを前提としながら、実際の加入者への上記サービスの提供に際しては光ファイバ1芯を1人の加入者で専用する高価な方式を用いる一方で、その方式による上記設備への接続の対価として他の電気通信事業者から取得すべき接続料金については自らのユーザー料金を上回る金額の認可を受けてこれを提示し、自らのユーザー料金が当該接続料金を下回るようになるものとした行為は、次の(1)~(5)など判示の事情のもとにおいては、独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当する。
(1)当時東日本地区において既存の加入者光ファイバ設備に接続して上記サービスを提供しようとする電気通信事業者にとって、その接続対象は、上記第一種電気通信事業者に事実上限られていた。
(2)上記サービスは、主として事業の規模によって効率が高まり、かつ、加入者との間でいったん契約を締結すれば競業者への契約変更が生じ難いという特性を有していた。
(3)上記第一種電気通信事業者は、自らの加入者への上記サービスの提供において安価な方式を用いることを前提としてその接続料金の認可を受けることなどにより、上記第一種電気通信事業者のユーザー料金が接続料金を下回るという逆ざやの発生を防止するために行われていた行政指導を始めとする種々の行政的規制を実質的に免れていた。
(4)上記第一種電気通信事業者は、上記サービスの市場において他の電気通信事業者よりも先行していた上、その設置した加入者光ファイバ設備を自ら使用するとともに、未使用の光ファイバの所在等に関する情報も事実上独占していた。
(5)上記サービスの市場が当時急速に拡大しつつある中で、上記第一種電気通信事業者の当該行為の継続期間は1年10カ月にわたった。

【参照条文】 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)2条5項
       電気通信事業法(平成15年法律第125号による改正前のもの)38条
       電気通信事業法32条

 1 本件は,電気通信事業者であるXが,光ファイバ設備を用いた戸建て住宅向けの通信サービス(以下「FTTHサービス」という。)の提供に際し,平成14年6月から同16年3月までの間(以下「本件行為期間」という。),自前の光ファイバ設備を保有せずに他社の設備を利用して電気通信事業を行う電気通信事業者(以下単に「競争事業者」という。)がFTTHサービス提供のためにXの光ファイバ設備に接続する際にXに支払うベき料金(以下「接続料金」という。法文上の用語は「接続料」であるが,本判決は原判決及び審決の用語例に従ったものと思われる。)を下回る金額で,Xが自己のFTTHサービスの利用者に対する料金(以下「ユーザー料金」という。)を設定したことが,独禁法2条5項にいう私的独占に該当し,同法3条の規定に違反するとの審決をY(公正取引委員会)から受けたため,その取消しを求めた事案である。
 2 事実関係については,判文に詳細に記載されているとおりであるが,Xは,自ら加入者光ファイバ設備を保有し,これを利用して加入者にFTTHサービスを提供しつつ,電気通信事業法により,競争事業者からXの加入者光ファイバ設備に接続させるよう請求を受けた場合には,総務大臣の認可を受けた接続条件でこれに応ずる義務を負っていた(要するに,FTTHサービス市場において小売をしつつ,競合する他の小売店に対しても求められれば卸売をしなければならなかったのであり,しかも,その卸売料金についても光ファイバ設備の構築費用や管理費用に基づいて総務省令に基づいて計算された額を超えてはならない旨の規制を受けていた。)。さらに,FTTHサービス市場における競争を促進するため,総務省は,Xのユーザー料金すなわち小売料金が,競争事業者がその加入者光ファイバ設備を使用する際にXに支払うべき接続料金すなわち卸売料金を下回ってはならない(逆ざやが生じてはならない)という行政指導をも行っていた。このため,Xは,数兆円規模の先行投資で構築した世界でも屈指の光ファイバ網を有しながら,むざむざ競争事業者にこのインフラへのただ乗りを許した上,現存する中で最も高速かつ大容量のブロードバンドサービスであり,動画配信やテレビ電話等の増加によって今後の飛躍的な発展が期待し得るFTTHサービス市場において,そのシェアを競争事業者に奪われるという可能性に直面し,強い危機感を有していた。しかも,FTTHサービス市場には,他にもXほどの規模ではないが自前の加入者光ファイバ設備を有する有力企業が既に複数参入しており,ユーザー料金で比較する限りはXにも十分に対抗し得る力を有していた。もっとも,加入者光ファイバ設備を有する企業の中で,他社にこれを貸し出す余力があったのはXのみであった。
 3 このような状況下において,Xは,まず接続料金について,1芯の光ファイバを最大32人の加入者が共用する分岐方式という方式を用いることを前提に認可を得た(分岐方式は,1芯を共用する複数の加入者が同時に利用した場合には通信速度が低下する可能性があったが,加入者の人数が増加するごとに加入者1人当たりの接続料金は逓減する計算となっていた。)。次いで,Xは,この分岐方式を前提とした「ニューファミリータイプ」というFTTHサービスの提供を開始し,そのユーザー料金を月5800円と設定して総務大臣への届出を行った。この5800円という料金は,分岐方式において1芯を約19人で共用した場合における加入者1人当たりの接続料金等約4906円に営業費を上乗せした価格であって,ユーザー料金と接続料金との間の逆ざやを禁じた行政指導にも反するものではないと説明されていた。しかしながら,Xは,実際には1芯の光ファイバを1人の加入者に専用させる芯線直結方式という方式でニューファミリータイプのFTTHサービスを提供していた。本来,この方式における接続料金は月6328円であったから,Xの設定したユーザー料金はこれより安いことになり,競争事業者はXの加入者光ファイバ設備に接続してニューファミリータイプと品質面で互角となるFTTHサービスをいかに効率的に提供しようとしても,赤字を覚悟しない限り価格の上でXに対抗できないこととなった。また,競争事業者にとって,供給余力のないX以外の企業から加入者光ファイバ設備を賃借することもできず,自前の加入者光ファイバ設備を構築することも現実的ではなかった。こうした状況下で,競争事業者はFTTHサービス市場への参入が事実上不可能となった。他方,Xにとっては,たとえユーザー料金が低くても既に投下済みの資本の回収は進むことになる(光ファイバそれ自体は,銅線をはるかに上回る耐久性を有する。)上,FTTHサービス市場が未成熟なうちから圧倒的なシェアを握り,加入者宅での工事が必要なため一旦加入者と契約すると事業者の変更が生じにくいというFTTHサービスの特性も活かすことができたものと思われる。総務大臣は,上記のような状況を後に把握するに至ったが,Xに対して行政指導を行うのみで,電気通信事業法上の権限であるユーザー料金の変更命令や接続料金の変更認可申請命令を発出することはなかった。しかしながら,Yは,このようなXの行為が排除型私的独占に当たるとする審決を行い,最高裁第二小法廷も,Xからの上告受理申立てを受理したものの,判決要旨のとおり述べて,上記審決を支持した原判決の結論を是認した。
 4 Xの上告理由は,概要,①ニューファミリータイプの実質は分岐方式であるから,そのユーザー料金と接続料金との間には逆ざやは生じていない,②接続料金が原価と等価である以上,Xと競争事業者との間には競争条件の同等性が担保されている,③Xの行為がなくとも競争事業者は他社のユーザー料金に対抗しなければならなかったこと,競争事業者は芯線直結方式によってニューファミリータイプとの間に差別化を図っての参入も可能であったことなどからすれば,Xの行為と競争事業者の不参入との間には因果関係が存在しない,④FTTHサービスのユーザー料金はADSL等他のブロードバンドサービスとの競争にさらされており,競争の実質的制限の状態は存在しなかった,⑤独禁法上,Xには競争事業者に自己の設備を利用させること等によりその参入を困難にしないように配慮する義務を負ってはいない,⑥Xへの認可変更申請命令や料金変更命令を発しなかった総務省の判断を尊重すべきである,などというものであった。このうち,判決要旨に直接関連するのは①及び②である。
 5 上告理由①について:平成15年8月末現在のニューファミリータイプの総回線数11万8627回線中,Xが現実に分岐方式によって提供しているのは僅かに6回線にすぎず,しかもその加入者は全てX関係者であった。また,本件行為期間を通じて,FTTHサービスへの需要はなお点在していたにすぎなかったというのであるから,分岐方式を現実に導入したとしても,光ファイバ1芯当たりの加入者の収容比率が6割を超えるという(ニューファミリータイプのユーザー料金届出時にXがその算定根拠として示していた)事態はおよそ想定し難かったものと考えられる。しかも,Xは,ニューファミリータイプについてどのような状況になれば分岐方式の設備を導入するかについての具体的な基準も策定しておらず,将来的に同方式を導入することとなる場合でも,新たに利用する芯線についてのみ分岐方式でサービス提供し,それでも芯線が不足した場合に初めて芯線直結方式で既にサービス提供している回線を分岐方式に移行する予定であったというのである(しかしながら,芯線直結方式でサービスを提供している加入者につき分岐方式に変更するには,加入者が使用しているサービスを一時中断して各加入者宅内で工事を行わなければならないところ,ユーザー料金に変更がない一方で通信品質は落ちることになるのであるから,そのような工事は加入者にとって何らメリットがなく,Xが上記工事ヘの同意を得ることは容易なことではなかったものと考えられるし,仮に分岐方式への切替に同意した加入者にはユーザー料金を引き下げるというのであれば,月5800円という当初提示されていたニューファミリータイプの料金はいずれにせよ実態から乖離していたということになる。)。そうすると,分岐方式による接続料金の認可申請及びユーザー料金の届出は,接続料金がユーザー料金を上回ってはならないという行政指導(インピュテーションルールと呼ばれていた。)に抵触せずにユーザー料金を引き下げるための苦肉の方便にすぎず,少なくとも本件行為期間において,分岐方式は,現実のFTTHサービス提供方法としてはもとより,将来における芯線直結方式からの移行対象としても,その実在性すら疑わしいような状況にあったといわざるを得ない。本判決は,このような認識に立って,上告理由①をその実質において採用の余地のない認定非難にすぎないものとして排斥したのではないかと推察される。
 6 上告理由②について:一般に,市場において支配的な地位を占める企業であったとしても,競業者との取引を行う義務はなく,取引の拒絶も通常は合法である。取引先を選択する自由を企業に認めなければ,企業の自主的な経営判断による経済発展は望み得ないし,競争相手との取引を勧めるのは独禁法の理念に反するともいえるからである。特に,投資リスクを負って建設した施設を競争相手に利用させることを独禁法によって義務付けることになれば,新規投資を行うインセンティブを企業から奪うことにもなりかねない。しかしながら,独禁法上も,取引拒絶を違法と評価すべき例外的な状況があることは従来から認識されており,例えば,それによって競争者の取引の機会が減少し,他の代わり得る取引先を容易に見いだすこともできない場合等がこれに当たるものとされてきた(例えば,平成3年に公正取引委員会が公表した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」)。本判決は,電気通信事業法上は原則として接続拒絶(取引拒絶)の自由がないことから,形式的には接続に応じる姿勢を取りつつ,他の電気通信事業者からは到底受け入れ難い接続条件を提示したという場合も,基本的には取引拒絶と同様の基準で独禁法上の違法性の有無を判断すれば足りると解したものと推察される(なお,本件については基本的に略奪的廉売規制の枠組みで捉えるべきであるとする有力な学説〔白石忠志『独禁法事例の勘所〔第2版〕』379頁〕もあり,本判決もその判断枠組みについては両様の考え方があるとする点に配慮しているが,上記学説も,本件においてはいずれの枠組みで検討しても実質的な差異はないとしている。)。
 もっとも,Xが強調するように,FTTHサービス市場のように生成途上のネットワーク市場においては,いかに効率的な事業者であっても,需要が立ち上がるまでは参入者に赤字が生ずるのがむしろ常態であるという可能性はあろう。そうであるとすれば,Xの設定したユーザー料金が接続料金を下回るために競争事業者の赤字が必至であるという事実だけから,これが直ちに実質的な取引拒絶に当たると解することには注意が必要である。少なくとも,Xとの競争の同等性が確保されていたと解し得る限り,競争事業者が接続を行わなかったのはその自由な経営判断の結果であると解する余地があることになろう。そうすると,本件における排除行為該当性についての判断は,Xと競争事業者との間において競争の同等性が確保されていたといえるか否かによっても相当程度影響されると考えられる。
 そこで検討するに,本件では,Xが加入者光ファイバ設備を先行投資によって現に建設し,保有している事実は軽視できない。Yが審決においては挙げていなかったものの原判決が補充した理由付けである「Xは設備利用部門から設備管理部門に対して計算上接続料金を移転すれば足りるのに対し,競争事業者は現実に接続料金をXに対し出捐する必要がある」という点は,Xと競争事業者との間にある競争上の差異として重大なものと考えられる。加えて,Xだけが未使用の光ファイバの位置情報を事実上独占しており,これらの情報を利用して顧客に対する訪問営業(アウトバウンド)をかけることができたというような点も重要であろう。こうしたことから,本判決は,Xと競争事業者との間に競争条件の同等性があったとは解し難いものとした上,このことも考慮してXの一連の行為が排除行為に該当するとの判断に至ったものと思われる。