最判平成24年12月21日、アーバンコーポレイション再生債権査定異議事件 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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最判平成24年12月21日、アーバンコーポレイション再生債権査定異議事件

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相続

最判平成24年12月21日、アーバンコーポレイション再生債権査定異議事件
裁判集民事242号91頁 、判例タイムズ1386号169頁

【判示事項】 株式会社が,臨時報告書及び有価証券報告書の虚偽記載等の事実の公表をするとともに,同日,再生手続開始の申立てをした場合において,虚偽記載等がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が当該虚偽記載等がなければこれを取得しなかった場合における,上記投資者に生じた当該虚偽記載等と相当因果関係のある損害を,金融商品取引法21条の2第2項の規定により損害の額を算定するに当たり,上記投資者が当該虚偽記載等の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときは,その取得価額と処分価額との差額を基礎とし,同条4項又は5項の規定により減額をし、経済情勢,市場動向,当該上場株式を発行する会社の業績など当該虚偽記載等に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきである。

【判決要旨】 多額の債務を負い資金繰りが悪化していた株式会社が,転換社債型新株予約権付社債の発行によって得る払込金の使途につき,実際にはこれをスワップに係る契約における支払金に充てる予定であり,上記社債の発行による資金調達は不確実であったのに,上記払込金を債務の返済に充てる旨の虚偽記載等がされた臨時報告書及び有価証券報告書を提出し,その約1箇月半後に上記虚偽記載等の事実の公表をするとともに,同日,再生手続開始の申立てをし,上記会社の株式が大幅に値下がりした場合において,以下の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記虚偽記載等の事実の公表前に上記会社の株式を取引所市場で取得した投資者の被った損害の額につき,金融商品取引法21条の2第2項の規定によりこれを算定するに当たり,上記投資者の損害は全て上記虚偽記載等により生じたものであるとして,同条4項又は5項の規定による減額を否定した原審の判断には,違法がある。
(1) 上記会社が再生手続開始の申立てに至ったのは,金融機関の融資姿勢の厳格化等に伴う資金繰りの悪化によるものであって,上記虚偽記載等や,その事実の公表に起因して,上記の資金繰りの悪化がもたらされたわけではない。
(2) 上記会社は,再生手続開始の申立ての約2箇月前から,米国の大手投資銀行等との間で業務・資本提携の交渉を開始しており,近々上記会社の株式の公開買付けが実施されることも見込まれていたのであって,上記虚偽記載等がされた当時,上記会社が既に倒産状態又は近々倒産することが確実な状態であったとはいえない。
(3) 上記会社の株式は,上記臨時報告書及び有価証券報告書の提出前から上記虚偽記載等の事実の公表の日に至るまで,ほぼ一貫して値下がりを続けており,上記値下がりには,上記会社の経営状態など上記虚偽記載等とは無関係な要因により生じた分が含まれている。

【参照条文】 金融商品取引法21条の2

1 本件は,東証一部上場企業であった株式会社アーバンコーポレイション(以下「アーバン」という。)の株式(以下「アーバン株」という。)を取引所市場で取得した個人投資家らが,アーバンの提出した臨時報告書等に虚偽記載等があったことを理由として,アーバンの再生手続において,金融商品取引法(以下「金商法」という。)21条の2に基づく損害賠償債権につき再生債権として届出をしたところ,アーバンがその全額を認めなかったため,個人投資家らとアーバンとの間で上記債権の存否及び額について争われた査定異議訴訟である。
 2 事実関係の概要等
 本件の事実関係の概要等は,次のとおりである(なお,月日は全て平成20年である。)。
 (1)アーバンは,市場の冷え込み等により新たな借入れや借換えが困難となり,資金調達に困難を来すようになっていたことから,6月26日,B社に発行総額300億円の転換社債型新株予約権付社債(以下「本件CB」という。)を発行する旨の取締役会決議をし,7月11日に払込金の支払を受けた。ところが,アーバンは,これと並行してB社との間でスワップ契約を締結しており,本件CBの発行によってアーバンが得た払込金は即座にB社に還流されることとなっていた。にもかかわらず,アーバンは,6月26日に提出した臨時報告書(以下「本件臨時報告書」という。)等において,本件CB発行の資金の使途として,債務の返済に使用する予定である旨を記載したのみで,上記資金が上記スワップ契約に基づく支払金に充てられることについて何ら記載しなかった(以下「本件虚偽記載等」という。)。
 (2)その後,アーバンは,業務・資本提携交渉を進めていた米国大手投資銀行M社からTOBを拒絶され,8月13日,本件虚偽記載等の事実を公表するとともに(以下,この日を「本件公表日」という。),再生手続開始の申立てをした(以下「本件再生申立て」という。なお,アーバンは同月18日に再生手続開始の決定を受けている。)。
 (3)アーバン株は,本件公表日前からほぼ一貫して値下がりを続けていたところ,本件公表日の翌日から大幅に値下がりし,9月14日に上場廃止となった。
 (4)そこで,本件公表日前にアーバン株を取引所市場で取得していた個人投資家であるX1(①事件)及びX2(②事件)が,本件虚偽記載等によって損害を被ったと主張して,それぞれ金商法21条の2に基づき損害賠償債権につき再生債権として届出をしたところ,アーバンはその全額を認めなかった。
 3 訴訟の経緯
 (1) ①事件
 ア 第1審(東京地判平22.3.9金法1903号102頁)は,金商法21条の2第2項によって損害額を推定した上,同推定額(以下「2項推定損害額」という。)には本件虚偽記載等によって生ずべき値下がり以外の事情によるものも含まれているとして,まず2項推定損害額に同法19条1項の制限を適用し,次いで同法21条の2第5項によってその2割を減額して,1株当たりの損害額を約47.98円と査定した。
 イ これに対し,原審(東京高判平22.11.24判タ1351号217頁)は,アーバンが6月末には破綻状態にあり,再生手続開始の申立ては必然的であったから,アーバン株の値下がりが本件再生申立てによって生じたものとは認められないなどとして,2項推定損害額からの減額を一切認めず,金商法19条1項の制限内で1株当たりの損害額を約59.97円と査定した。
 ウ アーバンが上告受理申立てをしたところ,第二小法廷は本件を受理し,最三小判平24.3.13民集66巻5号1957頁(以下「ライブドア事件判決」という。)を引用して,金商法21条の2第4項及び5項にいう「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り」とは当該虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりをいうところ,アーバン株の値下がりによってX1が受けた損害の一部には本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたものが含まれているというべきであるとして,これを否定した原判決を破棄し,本件を原審に差し戻した。
 (2) ②事件
 ア 第1審(東京地判平21.10.28〔公刊物未登載〕)及び原審(東京高判平22.3.17〔公刊物未登載〕)は,本件虚偽記載等がなければX2がアーバン株を取得することはなかったものと認定した上,X2に生じた損害は,取得価額と想定価額(アーバン株の取得時において本件虚偽記載等がなかったならば想定される価額)との差額であるなどとして,X2の損害額を2615万円(1株当たり約74.71円)と査定すべきものとした。
 イ アーバンが上告受理申立てをしたところ,第二小法廷は本件を受理し,最三小判平23.9.13民集65巻6号2511頁(以下「西武鉄道事件判決」という。)を引用して,臨時報告書に虚偽記載等がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載等がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,当該虚偽記載等により上記投資者に生じた損害の額,すなわち当該虚偽記載等と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が当該虚偽記載等の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときは,その取得価額と処分価額との差額を基礎とし,経済情勢,市場動向,当該上場株式を発行する会社の業績など当該虚偽記載等に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきであるとして,これによらなかった原判決を破棄し,本件を原審に差し戻した。
 4 有価証券報告書等の虚偽記載等を理由とする損害賠償請求訴訟の動向
 近年,有価証券報告書等の虚偽記載等を理由として,個人投資家ないし機関投資家が発行会社等に対し民法又は金商法に基づき損害賠償を求める訴訟が頻繁に提起されるようになっている。主要なものを挙げると,以下のとおりである。
 (1) 西武鉄道事件
 西武鉄道株式会社の株式を取得した投資家が,同社が有価証券報告書に親会社の持株数等について虚偽の記載をして上場廃止事由に該当する事実を隠蔽していたとして,不法行為に基づく損害賠償を求めた事件である。
 西武鉄道事件判決は,上記の虚偽記載がなければ投資家らが西武鉄道株を取得することはなかったとした上で,このような場合の投資家の損害は,取得価額と処分価額の差額を基礎として,当該虚偽記載に起因しない下落分を上記差額から控除して算定すべきであると判断した。
 (2) ライブドア事件
 株式会社ライブドアの株式を取得した投資家が,同社が有価証券報告書に実際は経常利益が赤字なのに黒字と偽った虚偽記載をしていたとして,金商法21条の2に基づく損害賠償を求めた事件である。同事件においては,同条2項によって損害額を推定する場合において投資者が請求することのできる賠償額が,いわゆる取得時差額(取得価額と想定価額の差額)に限られるのか,虚偽記載等と相当因果関係のある損害全てを含むのかが争われた(前者の考え方によれば,2項推定損害額のうち取得時差額を超える分は同条4項又は5項によって減額すべきこととなる。)。
 ライブドア事件判決は,金商法21条の2第2項にいう「損害」とは虚偽記載等と相当因果関係のある損害を全て含むものであって,これを取得時差額に限定することはできないとして,同条5項にいう「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り」とは,取得時差額に限られず,虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりの全てをいうと判断した。
 (3) アーバンコーポレイション事件
 ア アーバンによる臨時報告書等の虚偽記載等については,個人投資家が金商法21条の2に基づく損害賠償債権の存在を主張した査定異議訴訟が多数提起された。最高裁に係属したものとしては,(A)東京地判平21.10.28,東京高判平22.3.17(本件②事件),(B)東京地判平22.3.9,東京高判平22.11.24(本件①事件),(C)東京地判平22.1.13(公刊物未登載),東京高判平22.12.24(公刊物未登載),(D)東京地判平23.2.7判タ1353号219頁,東京高判平23.6.16(公刊物未登載),(E)東京地判平22.3.26金法1903号102頁,東京高判平23.12.20(公刊物未登載),(F)東京地判平22.1.12判タ1318号214頁,東京高判平23.12.20(公刊物未登載),(G)東京地判平23.1.26証券取引被害判例セレクト42号70頁,東京高判平24.3.29消費者法ニュース92号283頁,(H)東京地判平23.8.29(公刊物未登載),東京高判平24.6.21(公刊物未登載),(I)東京地判平23.4.11(公刊物未登載),東京高判平24.6.7(公刊物未登載)がある(以下,上記裁判例を引用する場合は,例えばA事件の1審判決を「A-1」などと表記する。)。
 イ 上記裁判例では,金商法21条の2第2項の損害額推定規定を用いるか否かでまず大きく判断が分かれた。A-1,2では,本件虚偽記載等がなければ個人投資家がアーバン株を取得することはなかったと認定され,同項を用いずに,すなわち同条1項に基づき個人投資家が請求することのできる損害額が認定された。
 ウ これに対し,その余の裁判例は,いずれも金商法21条の2第2項を用いて損害額が推定され,同条4項又は5項によって減額することの可否や減額割合が判断の中心となった。
 圧倒的多数の裁判例は,2項推定損害額には本件虚偽記載等による値下がり以外の分が含まれているとして,金商法21条の2第5項により,2項推定損害額の一部を減額している。その額については,多くの裁判例は,5割強(C-1,2)ないし約8割(F-1,2)という大幅な減額を認めている。中には取得価格の11.41%を超える額について減額を認めているものもある(H-2,I-2。両判決は,個人投資家らが被った損害がいわゆる高値取得損害〔取得価格と想定価格の差額〕であることを前提に,本件虚偽記載等の影響によって引き上げられた価格は値幅制限〔ストップ安〕の80円を超えないとして,本件臨時報告書の提出日の翌日における想定価格を264円〔=前日の株価344円-80円〕と算定し,これと実際の株価〔298円〕との差額〔34円〕が実際の株価の約11.41%であることなどから,取得価格の11.41%が高値取得損害に当たるとしたものである。)。
 他方で,B-2及びG-2は,アーバン株の値下がりによって生じた個人投資家の損害は全て本件虚偽記載等に起因するものであるとして,2項推定損害額から一切の減額を認めておらず,下級審裁判例の判断が分かれていた。
 5 本判決
 (1) ①事件
 ア 本判決はB-2の上告審判決であり,2項推定損害額からの減額の可否が争われた。本判決は,ライブドア事件判決で示された一般論を引用した上,本件公表日前後1箇月間のアーバン株の値下がりについて,本件公表日前と後とに分けて検討している。
 まず,本件公表日後の値下がりについて,本判決は,①上記値下がりは,本件虚偽記載等の公表と本件再生申立てとがあいまって生じたものであるところ,本件再生申立ては,かねてから継続していたアーバンの資金繰りの悪化によるものであって,本件虚偽記載等の公表によって資金繰りが悪化したわけではないこと,②アーバンは,M社との業務・資本提携交渉を開始しており,TOBも見込まれていたなど,倒産状態であったとはいえないことなどから,本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりということはできないと判断した。
 次に,本件公表日前の値下がりについて,本判決は,アーバン株のほぼ一貫した値下がりには,アーバンの経営状態など本件虚偽記載等とは無関係な要因により生じた分が含まれていることは否定できないとして,この値下がりにも本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じた分が含まれていると判断した。
 本判決は,以上の検討により,アーバンの値下がりによってX1が受けた損害の一部には本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたものが含まれているとして,金商法21条の2第4項又は5項の規定による減額を一切否定した原審の判断には違法があると判断した(なお,第二小法廷は,G-2についても,本判決と同日,本判決と同旨の理由により原判決を破棄する旨の判決を言い渡している。)。
 イ 原判決と本判決とで判断が分かれたのは,(ア)本件公表日後に生じた本件再生申立てに起因する値下がりについて,これが本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりといえるか否かについて,その評価が分かれたこと,(イ)本件公表日前の値下がりについて原判決は何ら考慮しなかったのに対し,本判決はこれを考慮すべきものとしたことによるものと考えられる。
 (ア)については,原判決は,本件臨時報告書が提出された時点でアーバンが既に倒産状態にあったという前提に立って,これを積極に解した。これに対し,本判決は,M社によるTOBも見込まれていたなど本件の事情に照らせば,本件臨時報告書の提出時においてアーバンが既に倒産状態であったとはいえないとして,原判決の上記前提自体を否定した(この点につき,単なる経営難と経営破綻とは異なるとして,法廷意見を敷えんする須藤裁判官の補足意見が参考となろう。)。そして,ほかに本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりであると評価すべき事情は見当たらないとして,本件再生申立てによる値下がりを2項推定損害額から控除すべきであるとした。本件とは異なり,倒産のおそれのなかった会社が極めて悪質な虚偽記載等を行い,これが明るみに出たことによって会社の信用が失墜して倒産に至った場合や,会社が既に倒産状態であったのに,虚偽記載等のある有価証券報告書等を提出することによってこれを隠蔽し,あたかも倒産のおそれが全くないかのような印象を市場に与えていた場合であれば,会社が倒産し,あるいは倒産状態であることが明らかになったことによる株価の下落分についても,当該虚偽記載等と相当因果関係のある損害という余地もあるように思われるが,本件はこのような事案ではなく,本件再生申立てによる値下がりを本件虚偽記載等による値下がりと評価することには無理があろう。前記の下級審裁判例のほとんどは金商法21条の2第5項による減額を肯定しており,本判決もこうした下級審裁判例の大勢に従ったものである。
 また,(イ)については,本件公表日前の値下がりについては,本件虚偽記載等の事実が公表されていない以上は,同事実が一部関係者に漏えいしていたなど特段の事情のない限り,上記値下がりは本件虚偽記載等に起因して生じたものとはいえないであろう(なお,本件ではそのような漏えいの事実は認定されていない。)。そして,アーバン株が本件公表日前1月間に本件虚偽記載等とは無関係な要因によって一貫して値下がりしているとすれば,本件公表日前1月間の平均株価をそのまま用いて2項推定額を算出すれば,損害額が過大に算定されることになる(例えば,公表日1月前の株価が200円,公表日直前の株価が100円,公表日前1月間の平均株価が150円である場合,公表日前の値下がりが虚偽記載等とは無関係な要因によって生じたものだとすれば,200円から100円への下落は投資家が甘受すべきものであって,150円を基礎に損害額を計算するのは不当である。)。本件公表日前1月間の値下がりがさほど大きくないのであれば格別,アーバン株は,本件公表日1月前には200円であったところ,ほぼ一貫して値下がりを続け,本件公表日前日には63円まで値下がりしているのであって,これを無視して損害額を認定することは許されないと思われる。前記下級審裁判例においても,本件公表日前の値下がりを理由に減額を肯定するものが大部分を占めている(B-1,C-1,2,D-1,2,E-1,2,F-2,G-1,H-1,2,I-1,2)。本判決も,こうした下級審裁判例の大勢に従い,本件公表日前1月間の値下がりについても減額すべき分が含まれているものと判断したものである。
  (2) ②事件
 本判決は,A-2事件の上告審判決であり,金商法21条の2第2項の損害額推定規定を用いない場合の損害額の認定が問題となった。
 本判決は,本件虚偽記載等がなければX2がアーバン株を取得することはなかったという原審認定を前提に,取得価額と想定価額の差額が損害となるとした原審判断が西武鉄道事件判決で示された法理に反することを理由に,原判決を破棄した。
本判決の判断は,西武鉄道事件判決を踏まえれば当然である
虚偽記載等がなければ投資家が当該株式を取得することがなかったといえるか否かは,第一次的には,当該投資家の属性や投資性向,当該株式を取得した動機や経緯,当該取引の内容,当該虚偽記載等の内容など諸般の事情を踏まえた事実認定の問題であることから,法律審である上告審としては原審認定にあえて介入することはしなかったものと思われる。
 6 金商法19条1項と同法21条の2第5項の適用順序
 なお,アーバンコーポレイション事件では,金商法21条の2第2項の規定を用いて損害額を推定する場合,同法19条1項所定の限度額(取得価額と市場価額ないし処分価額との差額。以下「19条1項限度額」という。)による制限と,同法21条の2第5項による減額の適用順序が争われたので,補足しておきたい。この点については,①2項推定損害額の算出→5項による減額→19条1項限度額による制限という適用順序(以下「19条1項後適用説」という。)と,②2項推定損害額の算出→19条1項限度額による制限→5項による減額という適用順序(以下「19条1項先適用説」という。)があり得るところであるが,アーバンコーポレイション事件における下級審裁判例をみると,1審判決の一部(B-1,C-1,F-1)に19条1項先適用説に立ったものもみられたものの,高裁レベルでこの点について明示的に判断したものをみる限り,19条1項後適用説で統一されている(C-2,D-2,F-2)。
(なお,アーバンは,19条1項後適用説に立った前記各高裁判決に対し,19条1項先適用説が相当であると主張して上告受理申立てをしたが,不受理に終わっている。)。
最高裁も,ライブドア事件において自判するに当たり,19条1項後適用説に立つことを前提にして認容額を算定している。
 7 まとめ
 本判決は,下級審で判断が分かれていたアーバンコーポレイション事件につき,最高裁が西武鉄道事件判決及びライブドア事件判決を踏まえて判断を統一したものであり,今後増加が見込まれるこの種の事件の処理に当たって参考となろう。